とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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連載

九戦目

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 一週目最後の九戦目、カザミネと相手が武舞台の上に立つ。武器相性としては──槍の方がリーチでは勝る。だが一歩踏み込めば大太刀の突きが届く。そして単純な一撃の攻撃力は大太刀の方が上となっている。が、どちらも一撃必殺性は十分に備えているので一瞬の隙が致命傷となりかねない。

『それではよろしいですか?』

 最終確認に、カザミネと相手は共に頷いて構えを取る。直後、『始め!』の声がかかってスタートした。が、両者動かない。お互いにお互いの事をじっくりと見据えている状態だ。それからややあって、両者共に動き出したが……互いに相手を見ながら右回りに動き出す。相手は獲物が槍だから当然だが、カザミネも突きを繰り出す構えを取っているから──下手に踏み込めば、相手に貫かれかねない。

 そのまま時間だけが過ぎていく。うーん、これは仕方がないかなぁ。お互いの狙いが分かりやすいだけに、明確な切っ掛けがないと動くに動けない状態だ。今までの戦いとは打って変わって、まさに一撃必殺で相手の喉か心臓を貫いて終わらせる形となるだろう。二人が動いた時、それがそのまま決着へとつながる筈。

 双方ともに武器の先端を動かしたりして相手を誘うが、お互いに乗っからない。見ているこちらでさえじれったいんだ、戦いの舞台に上がっている二人にとってはそれ以上にじれったいだろうな。お互いの顔には汗が浮かび、いくつもの雫が零れ落ちていく。激しい動きこそないが、二人は共に必死で戦っているのだ。

 が、ついにカザミネが動いた。今までの右回りとは明確に異なる前方への踏み込み。それを見て、相手も動く。そこから互いに全力の突きを放つ──様に思われたが、鏡合わせの様に踏み込んだ後に動きを止めてからバックステップ。

「引っかかりませんか」「まあね。こういう読み合いはなんどもやってきたもの」

 カザミネは確かに踏み込んだ。が、突きをすぐに繰り出そうとはしなかった。様は自分の動きで相手を釣り出して、相手が焦って突きを繰り出したらそれを回避。その後に自分の攻撃を決めるという事を狙ったのだろう。で、相手はそれに気が付いたからこそ踏み込んだ後の突きを放たなかった。お互いがお互いの読みを理解したからこそ、後ろに下がって再び仕切り直しとしたのだろう。

「見ているだけで疲れるな」「緊張感がすごいからな……」

 レイジの言葉に自分はそう返答した。張り詰めている空気はまだまだ解けそうにない。再び見合ってのゆっくりとした右回りの動きに戻ってしまった。カザミネも同じ手段で吊り出すような行為は二度としないだろうし……次前に出たときは全力で突きを放つだろう。後はそれがいつやって来るか、という話だ。

 そのいつやって来るか、は案外すぐに来た。再びカザミネが前に出たのだ。そのまま前進し、間合いを詰めてからの突きを放とうとする。が、相手は槍の間合いの内側に入られてしまった事を瞬時に理解して槍を使った大跳躍を行う。カザミネの頭上を飛び越えつつ、上から蹴りを放った。

 カザミネはその蹴りの気配を感じ取ったのだろう。前方にスライディングするような動きを取って蹴りを回避した。と言ってもかなりぎりぎりだったが──カザミネは頭上を通り過ぎた蹴りの風を感じたはずだ。判断があと一秒遅れていたら、間違いなく蹴りを貰っていただろう。

 が、相手の攻撃は止まらず。今度は積極的に仕掛ける事にしたらしい。カザミネに対して今までのヴァルキュリアスのメンバーが見せてきたような突きの連打を繰り出してきた。が、カザミネはその突きの連打に己も突きを連打する事で応えた。槍と大太刀の先端が何度もぶつかり合って火花を散らす。

 静かだった今までと違って、一転して激しい相殺合戦が始まった事に周囲が湧いたのを感じる。双方一歩も下がらず突きの応酬は続く。ここが勝負どころと両者ともに思っているのかもしれない。ここで押し負ければ、流れが相手のモノになると。

 そのまま相殺合戦はしばらく続いたが、流石に疲れがどちら側にも見え始めた。だからだろうが、双方示し合わせたかのように突きの連打を止めて明確に力を乗せた突きを繰り出したのは。お互いの突き同士がぶつかり、今までの中で一番激しい火花が散る。が、カザミネの大太刀が、相手の槍を押し込んだ。相手の表情が一気に厳しいものとなる。

 だが、それならそれで対処できるとばかりに、大太刀の切っ先を槍の先端でずらすことで自分への直撃を回避して見せる相手。これによってカザミネの体が少し泳いでしまう事になる。当然相手がそれを見逃すわけもなく、膝による攻撃がカザミネの腹部辺りに叩き込まれた。カザミネの体が少し浮き上がり、カザミネは顔をしかめた。

「やった!」「その調子!」

 この戦闘始まっての明確なファーストヒットに、ヴァルキュリアス側が湧きたつ。カザミネは腹部を左腕で抑えているが、足の速度は落ちていないようで槍の間合いから素早く退避した。表情は──そこまで厳しそうな感じではない。

「なるほど、膝を受ける直前に軽く飛んで完全な直撃は回避してるね?」「うちには格闘家と、知り合いに癖のある蹴りをしてくる人がいますから。ある程度の格闘攻撃に対する浮心は嫌でも身に付きますよ」

 をいカザミネ、その癖のある蹴りをしてくる人ってのは自分の事ですかそうですか。後で聞きただしておこう。なんてあほなことを一瞬考えてしまった。なんにせよ、ファーストヒットこそ取られたが致命的な一発にはならずに済んだという事だろう。が、相手の技量の高さもまた判明したわけだが。

 カザミネの大太刀の相殺に負けてもすかさず切っ先をずらして反撃なんて、そうそうできるものではない。切っ先をずらすことに失敗すれば、そのまま自分の体に大太刀の刃が食い込むことになるのだから。それを躊躇せずやって成功させるというのは並の技量ではない。

 だが、それでひるむカザミネでもないはずだ。むしろ、いい気付けになったとばかりに大太刀を構えなおして相手を見据えている。それを見た相手側も、まだまだカザミネの心が折れていない事を感じ取って槍を構えなおした。再びのにらみ合い、だが今度はすぐに相手が動く。カザミネに直撃こそしていなかったが、ある程度のダメージは通った。ならばここは時間を掛けるのは悪手であると考えたのだろう。

 が、今度は突きの連打ではなく、突きと払いのコンビネーションを仕掛けてきた。故に突きの連打と比べて攻撃の手数は減っているが、払う速度も十分に早いのでカザミネに要求される対処のレベルが下がっているわけではない。それに払いを途中で止めて突きに変えてくるという動きも見せている。あれだけの払いの勢いをどうやって止めて突きに転化させているのか……

 だがカザミネだって負けていない。次々と繰り出される攻撃の大半をいなしながら、合間を見つけ次第素早い突きを放って反撃を挟んでいる。こちらの突きも直撃こそないが、相手の体を捕らえていて僅かながら相手から鮮血が舞っている。徐々に相手の体力をゆっくりと削り合う戦いとなってきたが、お互いその事は一切気にしている様子を見せない。

(首を飛ばすなり心臓を貫くなりすればそれで終わるからな……多少のダメージは必要経費と割り切っているからこその動きだろう。後はその一撃必殺を相手に叩き込むのはどちらか)

 お互いに体力を削り合いながら、機会をうかがう二人。勝つのはどちらになるのだろうか。
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