とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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決勝戦開始

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 十五分の休憩が明け、いよいよ決勝が始まる。ブルーカラーとマッスルのメンツが出そろい、最初の組み合わせが発表された。正直マッスル側のメンツは良く分からないので、ブルーカラーの方だけ確認。そしてルーレットが回り──

 一番手、エリザ。二番手、ミリー。三番手、ロナちゃん。四番手、自分。五番手、ノーラ。六番手、カナさん。七番手、カザミネ。八番手、レイジ。最後にツヴァイ、この順番になった。そして組み合わせが決定すると周囲がどよめく。

「一週目でいきなりギルマス同士の戦いかよ」「ゼスとツヴァイがいきなり激突とは。見ごたえのある試合になりそうだな」「これもある意味運命って奴?」

 周囲の声を信じるならば、マッスルウォーリアーの最後の一人となったゼスと言うプレイヤーがギルドマスターの様だ。おかげで周囲は盛り上がる一方となっている。ツヴァイはどうだ? とちらりと横目で見たが、特別機負った感じはない。いつも通りにやるだけという感じを漂わせている。良かった、変に気負って気合が空回りしたら勝てる物も勝てないからね。

『以上の組み合わせで試合を行います! それでは最初の試合を早速始めようと思います! 両者武舞台に上がってください!』

 武豚に上がるエリザに対するは、軽鎧を着こんだ見ただけで筋肉モリモリなのが嫌というほどに分かる男性プレイヤーだ。手に持っている武器は騎士剣、それを二刀流。騎士剣は重量が一般的な片手剣と比べると明確に重いのだが、彼らの筋肉の前では大差ないのだろう。更に背中に薙刀の様な刃をつけた槍と、一般的なものと比べてはるかに大きい両手斧まで背負っている。普通のプレイヤーがやったら重量で大幅に動きが制限されるのだが。

(それをやって普通にしていられるのだから、生半可なSTRじゃないという事だろう。マッスルの名前をギルドに関するだけの事はあるという事が嫌でも理解させられるな)

 自分だけでなく、ブルーカラーの皆が内心でそう思っているだろう。そんな相手とこれから優勝をかけて戦わねばならない。ウィザードナイツが手も足も出なかったという話も耳に届いている。魔法使いであるエリザには、辛すぎる戦いとなるだろう……

『では、両者準備はよろしいですか? では、始めてください!』

 試合開始の宣言がされたとほぼ同時に、マッスル側の男性プレイヤーが動いた。早い、あの重量を身に纏っているのになんて速度! 狙いは、エリザの首か!? こちらが声を出す前に、すでに相手の剣は振られ始めている。が、エリザも気が付いたようで何とかバックステップをして回避に成功──したと思った瞬間、エリザの首から鮮血が噴出した。避けきれてない!

「随分と、手が早いんじゃありません事?」「魔法使いに対して、行動が遅れるのは愚策。ガルからそう教わる羽目になったんでね」

 エリザの言葉に、そう返答を返した男性プレイヤーは再びエリザに向かって剣を振る。まさに速攻でエリザを倒すという意思を行動で表明している──だがエリザだってむざむざとやられるはずがない。杖の先に刃を作り出して相手の二刀から繰り出される連続攻撃をいなしつつ、空いている手で魔法を連発、反撃に移っている。

 しかし、そのエリザの魔法を相手はことごとく弾いたり回避したりして無効化している。なるほど、ウィザードナイツが手も足も出なかったのはこの魔法に対する対抗策を突破できなかったからか。それに加えて騎士剣という重量がある武器をまるでナイフのように振り回せるあの筋力から繰り出される破壊力。エリザとて、もし直撃を貰えば一発でやられかねない。

「なるほど、これが有翼人のボスとやり合った猛者の姿か! 生半可な魔法使いならとっくに倒せているこの猛攻をこうもしのぐのか!」「伊達に戦ってきたわけではありませんわ! 甘く見ないでくださいまし!」

 普通のプレイヤーなら足がすくむ相手の二刀流による攻撃だが、エリザもいろいろと修羅場を超えてきた。そういった経験が相手の刃を見ても足をすくませず、冷静に戦えるようにさせている。初めて出会った時から比べて、本当に強くなった。ゲームプレイヤーとしてのスキルだけでなく、中の人間も。

 刃と魔法がしのぎを削り、ぶつかり合っていると応援の声も大きくなる。特にエリザに対しての応援が多い様だ。女性プレイヤーだからと言う訳ではなく、マッスルという誰もが認める相手を前に一歩も引かず、接近戦という戦士の間合いで魔法使いがせめぎ合っているからだろう。

 その応援がエリザの耳に入ったかどうかは定かではないが……エリザの杖術も、魔法も冴えている。相手の攻撃の合間を縫ってエリザの魔法が何回か命中している。が、相手はその事を恐れるどころか獰猛な笑みを浮かべるばかり。その表情が語っている、楽しくてたまらないと。こういう戦いこそ、俺はしたかったのだと。

「いいぞ、お前は本当に強いな! 魔法使いが接近戦でここまでやるとは、敬意を抱かずにはいられない! ガルにやられた時ぶりだ、ここまで熱くなれるのは!」「それは実に光栄な話ですわ!」

 敬意を抱くという相手の発言に、エリザも言葉と笑みで返答を返していた。、この会話が切っ掛けになったのだろうか? 両者共に温存など考えないと言わんばかりに攻撃をより熾烈なものに変えた。両者手数が増えたのはもちろん、一発の威力すら明確に上がっている。まるで無呼吸でお互いパンチを打ち合うボクサーの様だ。

 しかし、こんな攻撃をずっと続けられるもんじゃない。先にガス欠を起こしたほうがそのまま負けるぞ。まあ、そんなことは戦っている二人の方がよく理解しているだろう。それでも、ここで引いたらそのまま流れを持っていかれて押し負ける未来が見えたんだろう。だからこそ両者共に手を止められない。

 手と止めた時点で、相手から強烈な一撃が飛んでくることは目に見えている。もちろんそれを誘ってカウンターという手段もあるにはある。が、生半可なカウンターなら、そのカウンターごと押しつぶしてしまうだけの力が両者ある事は言うまでもない事か……結局、この激突を制した方が第一試合の勝者となるだろう。

 その激しいぶつかり合いは、周囲の熱狂も巻き起こす。応援する声が四方八方から飛んでくる。いきなり最初の試合からこんなテンションが上がる試合を見せられれば、嫌でも血が騒ぐだろう。だからこそ、その騒いだ血が応援という風に形を変えて戦っている二人へと注がれていく。

 が、この戦いも終わりが見えてきた。その切っ掛けは──残念ながらエルザの方にある。エルザが魔法を放とうとしたが──不発。エリザのMPがついに切れてしまったのだろう。そんな好機を相手が逃すわけもない。一方でエリザは杖術を使った防戦に追い込まれる。だが、エリザもそうそうやすやすと首を取らせない。杖一本で必死に相手の二刀を受け流し続ける。

「大したものだ、ここまで、本当にここまで杖一本で接近戦をこなし続けるなど、生半可な訓練ではできないだろう。俺の件はそんな安いモノじゃないはずだからな……だが、勝利はこちらが頂く。獲物を変えさせてもらうぞ」

 宣言しながら相手は騎士剣を鞘に納め、背負っていた両手斧を取り出した。まずい、あのでかい両手斧から繰り出される重量は受け流せるものじゃない。エリザの顔に汗が流れ落ちているのが見える、エリザもそれを分かっているのだろう。両手斧を構えた相手は、エリザに向かって接近し斧を振り下ろす。その両手大野の攻撃をエリザは何とか横にローリングする形で躱した。

 だが、当然相手は二撃、三撃と攻撃を繰り出してくる。エリザはその両手斧の攻撃を何とかかいくぐりながら回避を続ける。しかし、このままではいつか捕まる。何とかエリザが一撃を入れて流れを変えてほしいのだが、MPが尽きたまほぅ使いにそれを期待するのは無理という物か?

 そう思いながらエリザの動きを観察していたが、エリザの目が死んでいない事に気が付いた。何か、エリザはまだ隠し玉を持っている可能性がある。そうでなければあんな目はできない……相手も、それは分かっているはず。だからこそ攻撃の手を一切緩めていない。何かをされる前に片を付けてしまおうと考えるのは自然な事だ。

 そこからエリザは繰り出される両手斧の猛攻をひたすら避け続けた。徐々に体にかする様になってきてしまっているが、まだ直撃は貰っていない。だが、このままの状態が続けば直撃を貰うのは時間の問題か、と自分を含めた大勢の人が思ったはずだ。しかし、エリザの反撃はここからだった。

 大斧の一撃がついにエリザの体を捕らえてしまった、そう思った瞬間にエリザの体がかき消えた。当然両手斧は武舞台の上に突き刺さる形となる。どこへ行った? とマッスル側のプレイヤーが周囲を見渡すが──エリザがいたのは彼の頭上。更に、エリザの体は徐々に雷のような発光現象が生まれ初めていた。

「エリザちゃんのもう一つの切り札、という奴ですよ」

 自分に静かにそう伝えてきたのはカナさんだった。なるほど──切り札を一枚、決勝までエリザは温存していたという事か。そうなると、あの雷のような発光現象もただのハッタリではないだろう。もっとも、発光現象が激しくなったために、相手もエリザが頭上にいると気が付いた。上を見上げている。

 エリザの切り札がどこまで通じるか。自分も始めて見るが故に想像が一切できない。ただ一つ分かっている事は、この試合まだまだ終わっていないという事だろう。
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