とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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一試合目決着、双方の様子

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 エリザもボケッとしているわけがない。迫りくる刃から何とか逃れようとしたが──それは相手が許さなかった。エリザの光り輝く体に二本の騎士剣がめり込んでいく。そして押し切られる形となったエリザの体から、二本の赤い線が走る事となった。エリザの表情が歪み、悲鳴が上がる。

 が、エリザは悲鳴をあげながらも体を倒さなかった。当然相手の騎士剣による攻撃が更に体に食い込むが──エリザは光がまだ消えていない左手による攻撃を行った。狙いは相手の首。このまさか己の体を斬られながらもこのような反撃をしてくるとは想定外だったのだろう。相手の表情が驚きの色に染まり、動きが一瞬硬直した。

 その為、エリザの左手の先に形成されている光の刃が相手の首に届いた。それによって相手も首から出血を発生させた──あと数センチ押し込めば、相手の首が取れる。が、エリザの抵抗はここまで。エリザの体がふっと粒子になって消えた。相手の首を飛ばす前にエリザのHPが完全に尽きてしまったのだ。

 武舞台の上に残された相手は、慌てて自分の首を抑えて出血を抑制している。片膝をつく体制になり、激しく息を切らせている。その息の中に多少の血が混じっている。エリザは相手をぎりぎりまで追い詰めていたのは間違いない。しかし、あと一歩が届かなかった。

『そこまで! マッスルウォーリアーズの勝利です! 次の選手は武舞台へ上がる準備をしてください!』

 ミリーが準備を整え、武舞台へと上がっていく。一方で戻ってきたエリザは地面に寝ころんだまま泣いていた。

「ごめんなさい、倒せませんでしたわ……切り札中の切り札を取っておいたのに、倒せませんでしたわ、ごめんなさい、ごめんなさい」

 ただたた謝罪を繰り返しながら泣くのを止めないエリザ。ブルーカラーの皆が、攻めないから泣くのはもうやめようと慰めるのだが、エリザの涙は止まらない。

「わがままだった私は、皆さんに出会って。皆さんは私を見捨てず一緒にいてくださって。過去の未熟な私がここまでいい方向に変えてくれる切っ掛けを下さった皆様に対して、最後のお礼をしたかったのに……それすらできませんでしたわ」

 ──そしてエリザは口にする。自分が日本にいる時間は後二週間もない事を。日本を離れる前に、今までお世話になってきたブルーカラーに最後の勝利をプレゼントしたかったこと。その為に今日この日まで必死に頑張ってきたのだが、勝利に貢献できずに終わってしまった事などがエリザの口から次々と語られる。

「皆様との最後の思い出は輝かしいものとしたい。その為に役に立ちたい。そう思って今日までやってきましたのに──最後まで私は、私は……何も、何も……」

 と、そこからはただ浸すわ僅かな嗚咽を漏らしながら泣き続けるエリザ。誰も声をかける事などできなかった。まさかエリザがここまでの感情を胸の内に秘めて行動していたとは思ってもいなかったからだ。しかし、流石にこのままと言う訳にもいくまい。なので自分はエリザの顔にそっとタオルをかぶせて泣き顔を隠した後にこう告げた。

「そう決めつけてしまうのは少々早いと思うけどな……エリザは見ていないだろうが、あっちもかなり辛そうだな。勝つには勝ったが、喉を穿たれたんだ。軽傷で済むわけがない。本当に何もできなかったかどうかは、この先の試合で分かる。次の試合、エリザのつけた傷が勝因になる可能性だって十二分にある。あまり自分を責めるな」

 実際、下がっていく相手は何度も咳込み、咳き込んだ場所に僅かではあるが血を残している。向こうの被ったダメージは決して軽くはない。己の身を斬られながらも決死の反撃をしたエリザの行動が無駄だったとは、とても考えられない。だが、本人としてみれば倒せなかった以上役に立てなかったと考えてしまっているからなぁ。

(こういう考えに陥っている時は、あまりしつこく慰めようとしても効果は上がらない。ほどほどに慰めた後は思いっきり泣いてもらってすっきりしてもらった方が良いと思う。そして頭が冷えた後に、本当に自分は何もできなかったのか? を本人の目で確認してもらう他ない)

 そう考えながら、マッスル側の様子をうかがう自分。向こうもまずは一勝! という浮かれた感じは全くないんだがどうなんだろうか?


                  ──マッスルウォーリアー側──

「おい、大丈夫か!?」「正直、厳しい。まさか、己の体を斬られているのにもかかわらず首を狙ってくるとは完全に想定外だった。勝ちはしたが、ダメージは甚大だ。次の試合は危ういかもしれない」

 マッスル側は初戦を勝利で飾ったものの、その雰囲気は決して軽いものではなかった。魔法使い相手ならば今までの予選、準決勝で圧倒してきたのにもかかわらず、この決勝でここまでの手ひどいダメージを被った仲間の存在は楽観視できるものではない。

「あと数秒、向こうの女魔法使いのHPが持ったのであれば、お前の首は飛ばされていたな。ガルなら絶対にやらない魔法使いの戦い方だ──俺達の経験上、己の体を斬られているのにも関わらず精神力でその痛みをねじ伏せて反撃してくるなんて事がやれるのは連中は戦士だ。魔法使いがやって来るなんて経験は今までになかったぞ」

 という感想も飛び出している。エリザの決死の反撃は、彼らの心に明確な一撃を与えていた。今までの彼らの常識の中に、肉を切らせても骨を断とうとしてくる魔法使いはいなかった。いかに距離を開け、間合いを保って相手に魔法を放ってダメージを受けずに倒すかが魔法使いであるというのか彼らの、いや一般的な魔法使いだろう。

 もちろん近接戦に長けた魔法使いもいる。が、それでも魔法を用いて相手の攻撃から身を守る、回避するなどするのが一般的だ。そして被弾すれば大きくダメージを受けるどころか、辺り所や相手の武器次第では即死する事もありうる。火力が高い代わりに被弾したときのダメージが大きいというのが魔法使いだ。

 更に、魔法使いは魔法の威力を上げるためのスキルを取るのが基本であり、被弾したときのダメージ軽減系統のスキルを取る枠はない。魔法使いに求められるのは魔法を用いた瞬間火力や状態異常、回復や強化などであって前線で敵の攻撃を耐える事ではない。そういった前線で耐える役割を求められるのは戦士、特に盾を使うタンカーだ。

 こういった事を前提に置くと、エリザの最後の一撃がいかに異様な物かが分かるという物だ。騎士剣によって胴体を切り裂かれた時点で、魔法使いがその痛みに耐えること自体がまずできない。そしてそのままHPが尽きて倒れるのが普通だ。なのにエリザはその痛みに耐えて、首を飛ばそうと最後まで攻撃を仕掛けてきた。

 マッスルにとってはそんなことを魔法使いがやってくること自体がイレギュラーそのものなのである。痛みに慣れている戦士ではなく、脆いはずの魔法使いがあそこまで食いついてくるなど想定外にもほどがあった。

「──完全に想定外だったが、だからこそ俺はあの女性魔法使いに敬意を払う。ワンモアの痛覚システムは、本当に軽減するスキルを入れてなければ本当にいた意味与えてくるからな。そのスキルを入れている余裕は魔法使いにない事など、俺達は良く分かっているはずだ。なのに、あの女性魔法使いは最後まで俺を倒そうと全力を振り絞ってきた。痛みを受けてなお立ち上がる経験と場数を踏んできたんだろう。なかなかできる事ではないぞ」

 エリザを倒した仲間の言葉に、マッスルの誰もが頷いた。彼らも戦士であり、無数の痛みを味わってきた。だからこそ、エリザが最後の攻防で見せた痛みに抗って反撃する姿はすさまじい事なのだと理解している。

「今までの魔法使い、いやプレイヤーとは全く違うな。ブルーカラー……ただの最前線を走ってきたギルドではない。敬意をもって、全力で立ち向かわなければ負けるぞ。気合を各自入れなおせ」

 ギルドマスターのゼスが発した言葉に、再び頷くマッスルのギルドメンバー。そんな彼らが心構えを改めた瞬間、第二試合が幕を開けた。
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