風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

文字の大きさ
128 / 544
間章

間話 クサノオウ -私を見つけて- その二

しおりを挟む
「ああん? 俺様みたいに強くなりたいだと?」
「はい! お願いします! 獅子王さん、僕を弟子にしてください!」

 最初は相手にしてもらえなかった。
 当然だよね。いきなり、弟子入りしたいなんて言われたら、誰でも拒否しちゃうよね。
 でも、僕は獅子王さんの弟子入りすることしか頭になかった。
 そんな僕を獅子王さんは怒鳴どなりつけたんだ。
 弱虫のお前に何ができる。無駄だ。お前にはボクシングはむいていない。

 獅子王さんにそう言われ続けた。それでも、僕は諦めなかった。諦めたくなかった。
 獅子王さんに殴られたこともある。でも、痛くなかった。
 痛かったけど、この痛みはいじめで受けた痛みじゃない。だから、痛くない。獅子王さんに殴られて、改めて思った。
 この人は強い。
 僕の人生、色んな人にいっぱい殴られたけど、この人のパンチが一番痛い!
 そのことを獅子王さんに話すと、呆れられた。

「殴られて喜ぶなんて、お前、バカか?」
「以前の僕はバカでした。言いたいことも言えなくて、人に会うのが怖くて、おびえていました。でも、生まれ変わりたいんです! バカのまま、終わりたくないんです! お願いします! 僕を弟子にしてください!」

 また殴られた。



 獅子王さんは、僕と最初に出会ったこの河原によく昼寝をしていた。
 練習をサボるためにここで昼寝をしていたらしい。
 理由を訊いてみると、獅子王さん曰く。

「練習しなくても勝てるからな。真面目にやっても意味ないだろ?」

 凄いと思った。サボっても優勝できちゃうんだ。獅子王さんは才能があるんだって思った。
 なのに、どうしていつもつまらない顔をしているのだろう? お金持ちでイケメンで、強いのに。
 いじめられることなんてない、逆にどんな人でもいじめることができる人。なのに、どうしていつも泣きそうな顔をしているのだろう?
 僕はどんどんこの人にかれていった。



「獅子王さん! ジュース買ってきました!」
「……」

 ただで弟子入りしようだなんて考えが甘いと考えた僕は、獅子王さんの付き人のようにふるまった。
 弟子入りならまず雑用係だよね。テレビで見た知識を頼りに、僕は行動していた。

「お前な……強くなりたいんだろ? なんでパシリみたいなことしやがる? バカじゃねえのか?」
「……どうしても弟子入りしたくて。だから、出来ることをやろうって思ったんです。……ダメでしょうか?」
「……今度からは水分補給できるものにしろ。コーラは糖分の取り過ぎになる。それとほら、金だ」

 獅子王さんは万札をまるでメモを渡すような感じで僕に押しつけてきた。

「い、いいですよ! これは僕が勝手に……」
「やかましい! 俺様が庶民から恵んでもらうものなんてみみっちいこと、許せないんだよ! さっさと受け取れ、ウスノロ! あと、釣りはいらん!」
「は、はい!」

 獅子王さんは呆れていたけど、僕は真剣だった。
 強くなりたい。
 弱い自分を変えるんだ!



 いつも冷たくあしらわれたけど、僕は毎日のように獅子王さんのいる河原にかよった。バカにしかされないけど、獅子王さんは僕のことを相手にしてくれる。僕に話しかけてくれる。
 それは短いやりとりだったけど、友達のいない僕にとって、獅子王さんとのやりとりは大切な時間だ。相手にしてもらえるだけでも嬉しかった。
 もう、僕の中で獅子王さんの恐怖は消えていた。楽しい時間を過ごせてうれしい。獅子王さんに弟子入りできなくてもいいかなって思えたんだ。



 獅子王さんのもとに通ってから一カ月が過ぎた。ピラカンサスが咲く季節に変わっても、僕と獅子王さんの関係は何も変化がなかった。
 でも、ある事件が起きた。

 僕はまたいじめられていた。
 前にいじめていた人とはまた違う人に、僕はいじめられていた。また暴力を受けたけど、それでも我慢していた。僕には希望があるから。

 いつかは見返してやる。
 獅子王さんの弟子入りして、僕をいじめてきた人達を仕返ししてやるって思えたら不思議と体は軽く、前のように辛いだけじゃなくなっていた。

 やっぱり、獅子王さんは僕にとって特別な人だ。僕の価値観を変えてくれた人だ。この人の下で強くなりたい。日に日にその想いは強くなったんだ。
 でも、僕にいじめをしていた人達は、そんな態度が気に入らなかったみたいで、過激な行動をしてきたんだ。



 いつものように河原に向かう途中、僕はいきなり後ろから殴られた。一瞬、視界が真っ黒になって、強い光のようなものがみえた。

 痛い! 頭が焼けるように熱い! 汗がどんどん出て、止まらない。
 僕は痛みを感じた頭を触ってみる。ドロっとした感触。手には血がこびりついていた。

「どうよ! 今のすっげーだろ!」
「ヤバいよ、木刀は」
「うっせえ! こいつが悪いんだ! ゴミ虫は地面にいつくばっていればいいのに、反抗的な目をしてるからこうなる。教育なんだよ、これは!」
「け、けど、死ぬかもしれないだろ?」
「いいじゃん。こんなゴミ、死んでも誰も悲しまないだろ? 逆に掃除してやってるんだよ!」

 倒れている僕に向かって、何度も何度も木刀を振り下ろす。
 あまりの痛みに涙がこぼれる。
 僕……死ぬのかな……イヤだな……。
 せっかく、毎日が楽しいって思えてきたのに……こんなところで……獅子王さんに会いたいな。
 薄れゆく意識の中、獅子王さんの不機嫌そうな顔を思い出していた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...