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間章
間話 クサノオウ -私を見つけて- その二
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「ああん? 俺様みたいに強くなりたいだと?」
「はい! お願いします! 獅子王さん、僕を弟子にしてください!」
最初は相手にしてもらえなかった。
当然だよね。いきなり、弟子入りしたいなんて言われたら、誰でも拒否しちゃうよね。
でも、僕は獅子王さんの弟子入りすることしか頭になかった。
そんな僕を獅子王さんは怒鳴りつけたんだ。
弱虫のお前に何ができる。無駄だ。お前にはボクシングはむいていない。
獅子王さんにそう言われ続けた。それでも、僕は諦めなかった。諦めたくなかった。
獅子王さんに殴られたこともある。でも、痛くなかった。
痛かったけど、この痛みはいじめで受けた痛みじゃない。だから、痛くない。獅子王さんに殴られて、改めて思った。
この人は強い。
僕の人生、色んな人にいっぱい殴られたけど、この人のパンチが一番痛い!
そのことを獅子王さんに話すと、呆れられた。
「殴られて喜ぶなんて、お前、バカか?」
「以前の僕はバカでした。言いたいことも言えなくて、人に会うのが怖くて、怯えていました。でも、生まれ変わりたいんです! バカのまま、終わりたくないんです! お願いします! 僕を弟子にしてください!」
また殴られた。
獅子王さんは、僕と最初に出会ったこの河原によく昼寝をしていた。
練習をサボるためにここで昼寝をしていたらしい。
理由を訊いてみると、獅子王さん曰く。
「練習しなくても勝てるからな。真面目にやっても意味ないだろ?」
凄いと思った。サボっても優勝できちゃうんだ。獅子王さんは才能があるんだって思った。
なのに、どうしていつもつまらない顔をしているのだろう? お金持ちでイケメンで、強いのに。
いじめられることなんてない、逆にどんな人でもいじめることができる人。なのに、どうしていつも泣きそうな顔をしているのだろう?
僕はどんどんこの人に惹かれていった。
「獅子王さん! ジュース買ってきました!」
「……」
ただで弟子入りしようだなんて考えが甘いと考えた僕は、獅子王さんの付き人のようにふるまった。
弟子入りならまず雑用係だよね。テレビで見た知識を頼りに、僕は行動していた。
「お前な……強くなりたいんだろ? なんでパシリみたいなことしやがる? バカじゃねえのか?」
「……どうしても弟子入りしたくて。だから、出来ることをやろうって思ったんです。……ダメでしょうか?」
「……今度からは水分補給できるものにしろ。コーラは糖分の取り過ぎになる。それとほら、金だ」
獅子王さんは万札をまるでメモを渡すような感じで僕に押しつけてきた。
「い、いいですよ! これは僕が勝手に……」
「やかましい! 俺様が庶民から恵んでもらうものなんてみみっちいこと、許せないんだよ! さっさと受け取れ、ウスノロ! あと、釣りはいらん!」
「は、はい!」
獅子王さんは呆れていたけど、僕は真剣だった。
強くなりたい。
弱い自分を変えるんだ!
いつも冷たくあしらわれたけど、僕は毎日のように獅子王さんのいる河原に通った。バカにしかされないけど、獅子王さんは僕のことを相手にしてくれる。僕に話しかけてくれる。
それは短いやりとりだったけど、友達のいない僕にとって、獅子王さんとのやりとりは大切な時間だ。相手にしてもらえるだけでも嬉しかった。
もう、僕の中で獅子王さんの恐怖は消えていた。楽しい時間を過ごせてうれしい。獅子王さんに弟子入りできなくてもいいかなって思えたんだ。
獅子王さんのもとに通ってから一カ月が過ぎた。ピラカンサスが咲く季節に変わっても、僕と獅子王さんの関係は何も変化がなかった。
でも、ある事件が起きた。
僕はまたいじめられていた。
前にいじめていた人とはまた違う人に、僕はいじめられていた。また暴力を受けたけど、それでも我慢していた。僕には希望があるから。
いつかは見返してやる。
獅子王さんの弟子入りして、僕をいじめてきた人達を仕返ししてやるって思えたら不思議と体は軽く、前のように辛いだけじゃなくなっていた。
やっぱり、獅子王さんは僕にとって特別な人だ。僕の価値観を変えてくれた人だ。この人の下で強くなりたい。日に日にその想いは強くなったんだ。
でも、僕にいじめをしていた人達は、そんな態度が気に入らなかったみたいで、過激な行動をしてきたんだ。
いつものように河原に向かう途中、僕はいきなり後ろから殴られた。一瞬、視界が真っ黒になって、強い光のようなものがみえた。
痛い! 頭が焼けるように熱い! 汗がどんどん出て、止まらない。
僕は痛みを感じた頭を触ってみる。ドロっとした感触。手には血がこびりついていた。
「どうよ! 今のすっげーだろ!」
「ヤバいよ、木刀は」
「うっせえ! こいつが悪いんだ! ゴミ虫は地面に這いつくばっていればいいのに、反抗的な目をしてるからこうなる。教育なんだよ、これは!」
「け、けど、死ぬかもしれないだろ?」
「いいじゃん。こんなゴミ、死んでも誰も悲しまないだろ? 逆に掃除してやってるんだよ!」
倒れている僕に向かって、何度も何度も木刀を振り下ろす。
あまりの痛みに涙がこぼれる。
僕……死ぬのかな……イヤだな……。
せっかく、毎日が楽しいって思えてきたのに……こんなところで……獅子王さんに会いたいな。
薄れゆく意識の中、獅子王さんの不機嫌そうな顔を思い出していた。
「はい! お願いします! 獅子王さん、僕を弟子にしてください!」
最初は相手にしてもらえなかった。
当然だよね。いきなり、弟子入りしたいなんて言われたら、誰でも拒否しちゃうよね。
でも、僕は獅子王さんの弟子入りすることしか頭になかった。
そんな僕を獅子王さんは怒鳴りつけたんだ。
弱虫のお前に何ができる。無駄だ。お前にはボクシングはむいていない。
獅子王さんにそう言われ続けた。それでも、僕は諦めなかった。諦めたくなかった。
獅子王さんに殴られたこともある。でも、痛くなかった。
痛かったけど、この痛みはいじめで受けた痛みじゃない。だから、痛くない。獅子王さんに殴られて、改めて思った。
この人は強い。
僕の人生、色んな人にいっぱい殴られたけど、この人のパンチが一番痛い!
そのことを獅子王さんに話すと、呆れられた。
「殴られて喜ぶなんて、お前、バカか?」
「以前の僕はバカでした。言いたいことも言えなくて、人に会うのが怖くて、怯えていました。でも、生まれ変わりたいんです! バカのまま、終わりたくないんです! お願いします! 僕を弟子にしてください!」
また殴られた。
獅子王さんは、僕と最初に出会ったこの河原によく昼寝をしていた。
練習をサボるためにここで昼寝をしていたらしい。
理由を訊いてみると、獅子王さん曰く。
「練習しなくても勝てるからな。真面目にやっても意味ないだろ?」
凄いと思った。サボっても優勝できちゃうんだ。獅子王さんは才能があるんだって思った。
なのに、どうしていつもつまらない顔をしているのだろう? お金持ちでイケメンで、強いのに。
いじめられることなんてない、逆にどんな人でもいじめることができる人。なのに、どうしていつも泣きそうな顔をしているのだろう?
僕はどんどんこの人に惹かれていった。
「獅子王さん! ジュース買ってきました!」
「……」
ただで弟子入りしようだなんて考えが甘いと考えた僕は、獅子王さんの付き人のようにふるまった。
弟子入りならまず雑用係だよね。テレビで見た知識を頼りに、僕は行動していた。
「お前な……強くなりたいんだろ? なんでパシリみたいなことしやがる? バカじゃねえのか?」
「……どうしても弟子入りしたくて。だから、出来ることをやろうって思ったんです。……ダメでしょうか?」
「……今度からは水分補給できるものにしろ。コーラは糖分の取り過ぎになる。それとほら、金だ」
獅子王さんは万札をまるでメモを渡すような感じで僕に押しつけてきた。
「い、いいですよ! これは僕が勝手に……」
「やかましい! 俺様が庶民から恵んでもらうものなんてみみっちいこと、許せないんだよ! さっさと受け取れ、ウスノロ! あと、釣りはいらん!」
「は、はい!」
獅子王さんは呆れていたけど、僕は真剣だった。
強くなりたい。
弱い自分を変えるんだ!
いつも冷たくあしらわれたけど、僕は毎日のように獅子王さんのいる河原に通った。バカにしかされないけど、獅子王さんは僕のことを相手にしてくれる。僕に話しかけてくれる。
それは短いやりとりだったけど、友達のいない僕にとって、獅子王さんとのやりとりは大切な時間だ。相手にしてもらえるだけでも嬉しかった。
もう、僕の中で獅子王さんの恐怖は消えていた。楽しい時間を過ごせてうれしい。獅子王さんに弟子入りできなくてもいいかなって思えたんだ。
獅子王さんのもとに通ってから一カ月が過ぎた。ピラカンサスが咲く季節に変わっても、僕と獅子王さんの関係は何も変化がなかった。
でも、ある事件が起きた。
僕はまたいじめられていた。
前にいじめていた人とはまた違う人に、僕はいじめられていた。また暴力を受けたけど、それでも我慢していた。僕には希望があるから。
いつかは見返してやる。
獅子王さんの弟子入りして、僕をいじめてきた人達を仕返ししてやるって思えたら不思議と体は軽く、前のように辛いだけじゃなくなっていた。
やっぱり、獅子王さんは僕にとって特別な人だ。僕の価値観を変えてくれた人だ。この人の下で強くなりたい。日に日にその想いは強くなったんだ。
でも、僕にいじめをしていた人達は、そんな態度が気に入らなかったみたいで、過激な行動をしてきたんだ。
いつものように河原に向かう途中、僕はいきなり後ろから殴られた。一瞬、視界が真っ黒になって、強い光のようなものがみえた。
痛い! 頭が焼けるように熱い! 汗がどんどん出て、止まらない。
僕は痛みを感じた頭を触ってみる。ドロっとした感触。手には血がこびりついていた。
「どうよ! 今のすっげーだろ!」
「ヤバいよ、木刀は」
「うっせえ! こいつが悪いんだ! ゴミ虫は地面に這いつくばっていればいいのに、反抗的な目をしてるからこうなる。教育なんだよ、これは!」
「け、けど、死ぬかもしれないだろ?」
「いいじゃん。こんなゴミ、死んでも誰も悲しまないだろ? 逆に掃除してやってるんだよ!」
倒れている僕に向かって、何度も何度も木刀を振り下ろす。
あまりの痛みに涙がこぼれる。
僕……死ぬのかな……イヤだな……。
せっかく、毎日が楽しいって思えてきたのに……こんなところで……獅子王さんに会いたいな。
薄れゆく意識の中、獅子王さんの不機嫌そうな顔を思い出していた。
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