風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

文字の大きさ
280 / 544
第五部 愛しいキミの為に私ができること 後編 二十四章

二十四話 ハクサンチドリ -誤解- その五

しおりを挟む
「えっ? 私?」

 つい間の抜けた顔で聞き返してしまう。どうして、私の為なの?
 この回答には先輩も橘先輩も驚いている。
 浪花先輩は私の手を握り、話を続けた。

「ボクの目的は、馬淵先輩達がほのかクンに謝罪させることだよ」
「しゃ、謝罪?」
「馬淵先輩達はほのかクンをだましていたんだ。でも、安心して。すぐに答えが分かるから」

 ええっと……冷静になるのよ、ほのか。落ち着いて考えてみよう。
 馬淵先輩達が私を騙している? それって……。

「馬淵先輩達が同性愛者ではないことですか?」
「伊藤!」

 あっ、マズ! しゃべっちゃった!
 馬淵先輩達はある目的の為に私に近づいてきた。その理由が同性愛。このことは一部の人しか知らない。なのに、私は……。

「あれ? もう、馬淵先輩達は話しちゃたの? 意外と早かったな」
「えっ?」

 展開についていけない。だって……。

「知っていたんですか? 馬淵先輩達の事」
「うん」

 そんなあっさり……。
 えっ、なんなの? 本当についていけないんですけど。

「なぜ、浪花が馬淵先輩の事を知っているんだ?」

 先輩が私の代わりに訊ねてくれた。
 浪花先輩はバツの悪そうな顔をして、教えてくれた。

「その件だけど……ごめんなさい! 実はほのかクンと獅子王先輩達の会話、聞いちゃったんだ! わ、わざとじゃないんだ! そこにいる藤堂も聞いていたんだよ!」
「私と獅子王さんとの会話?」
「ほら、ほのかクンをめぐって朝に男達と取り合いしたことを覚えているかい? ボクの呼びかけに出てきてくれて、男の子達を殴ったときの件だよ。ほのかクンに迷惑をかけたから、お昼休みに謝りにいったんだ。そのとき、聞いちゃった」

 お、思い出した。あのときか!
 馬淵先輩と最初に出会った次の日、浪花先輩と男の子達が勝手に私を取り合っていたから、私は逃げた。
 そしたら、浪花先輩達が大声で私の名前を呼ぶから、鉄拳制裁したんだっけ。もちろん、両方共。

 浪花先輩の言い方だと男の子達が悪いような言い方だけど、浪花先輩も十分迷惑だったんだけどね。決して、浪花先輩の呼びかけに応えたわけではない。
 あのときは恥ずかしかったんだからね!

 それにしても、どんどん私の知らない事実があきらかになっていくんだけど、どう反応していいのか分からない。
 私達の話を聞かれていたのはびっくりだけど、まさか先輩まで……。
 先輩がお昼休み、私達に会いに来てくれたのって、劇の手伝いに来てくれたのかな?

 私は先輩におんぶされたことを急に思い出した。馬淵先輩に真実を問いただした後、腰を抜かしてしまった私を先輩がおんぶしてくれた。
 そのときに、先輩が陰で手伝ってくれたことを教えてもらった。
 先輩は私達の事、ずっと気にかけてくれていた。その裏が思わぬところで取れてしまった。

「先輩、ありがとうございます」
「……別にいい」

 先輩はそっぽむいてしまったけど、それってテレ隠しだよね? 私は嬉しいようなこそばゆい気持ちになる。

「……なんか気に入らないな。藤堂、キミ、何か勘違いしているだろ? ほのかクンの礼は社交辞令だから。それを真に受けるなんてキモっ!」
「いやいやいや! 違いますから! 違いますからね、先輩! 浪花先輩、いっぺん、死にます?」

 バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!

「ほ、ほのかクンの愛が痛い。でも、ステキだ」
「オホン! 話を戻してもいい?」

 橘先輩の言葉で、有耶無耶うやむやになってしまった。
 ううっ、ちゃんと違いますって先輩に分かってほしいだけなのに。
 これで先輩が誤解したら、浪花先輩には少し痛い目にあっていただこう。
 ふふっ、覚悟してくださいね、浪花先輩。スタンガンって一発では気絶しないみたいですよ? 何回も、何回もご馳走してあげますからね。ふふっ……。

「浪花さん。続きをお願いできる?」
「分かった。ボクは立ち聞きして、馬淵先輩達が同性愛者であることを聞いた。でも、そのときはどうでもいい情報だった。男の同性愛なんて知ったこっちゃないしね」

 すがすがしいほど興味がないことはスルーしちゃうよね、この人。
 でも、おかしい。興味がないのなら、どうして馬淵先輩達が同性愛者でないと疑ったの?

「ならどうして、馬淵先輩達が同性愛者でないと疑ったんですか?」

 私の疑問を橘先輩が代弁してくれた。
 浪花先輩は私をジッと見つめてくる。

「それはね、ほのかクン、彼らがスターフィッシュだったからだよ。彼らは流星の如く、いきなり予想ランキング一位になったからね。突然急上昇したから、何か不正があったかもしれないって青島祭実行委員の中で意見があって、僕が調べてみたんだ。そしたら、ほのかクンが頑張ってランキングをアップしているのが分かったのさ。それと彼らを見て、すぐに分かったよ。彼らが同性愛者ではないことを」

 浪花先輩は憎々しげに馬淵先輩をデスる。

「女の子を見る目がいやらしいし、友情はあっても愛情はなかった。馬淵先輩に問いただしても否定されたけど、彼って嘘が下手だね。顔に出てるからそれで確信した。彼らは嘘をついている。そして、ほのかクンを騙しているって事が分かった」
「ああっ!」

 私は思わず叫んでしまった。
 分かった! 男の子達が私に謝ってきたとき、馬淵先輩が誰か女の子に問い詰められたって言っていたけど、このことだったんだ!
 浪花先輩が馬淵先輩を問い詰めた相手だったんだ。
 何気にいろんな人が絡み合って物事が進んでいたんだね。いや、びっくり。

「どうした、伊藤?」
「いえ、なんでもありません。でも、浪花先輩。分かっていたのなら、私に直接言ってくれれば……」

 そう、私に言ってくれたら、こんな騒動なんて起きなかったのに。
 浪花先輩は悲しそうに首を横に振った。

「無理だよ。タイミングが悪かったんだ。この事実を教えようとしたとき、ボクはほのかクンのことを傷つけてしまっていたし、ほのかクンは馬淵先輩達と仲よさそうだった。あのときのボクの立場で伝えても、信じてもらえなかったと思う。誰だって仲のいい人の悪口を聞くのは気分のいいものじゃないでしょ? だから、ほのかクンのことをまもるってことしか言えなかったんだ」
「ああっ~……」

 今度はうなってしまう。浪花先輩に告白されて、新しい恋のことで泣き叫んでしまった時のことね。
 なるほど、あんなことがあった後で事実を告げられても、信じていたかどうか分からない。だからあのとき、私を護るって言ってくれたんだ。
 おおげさな言い方だから何かあるとは思っていたんだけど、そういうことなのね。

「和美ちゃんに相談して、馬淵先輩の事をお願いしたんだ。和美ちゃんは二つ返事でOKしてくれた。これなら、いけるって思った。まず、馬淵先輩達の嘘を新聞で伝えて、彼らにゆさぶりをかける。彼らは同性愛者としての覚悟がないからすぐにを上げると確信していたよ。実際そうだったようだし、ボクの勘は当たったってわけだ。でも、ごめんね、ほのかクン。ショックだったでしょ? でも、彼らの口からほのかクンに事実を伝えることで、少しでもほのかクンの負う傷を和らげてあげたかったんだ」

 う、うわ……。
 自分の頬が赤くなるのを感じてしまう。絶対に許せないって思っていた。この騒動の主犯を恨んでさえいた。
 でも、事実は私が考えていいた事とは全く逆だった。

 こんなにも私の事を考えてくれていた人がいた? こんなにも想われて、私は幸せ者……幸せ者なんだけど、その、どうしよう? この状況。

「……それでも、やりようがあるだろうが。同性愛者である獅子王先輩達のことは考えなかったのか? この件がきっかけでまた嫌がらせがおこるとは思わなかったのか?」

 先輩の問いに浪花先輩は眉をひそめる。

「正直、ほのかクンの事以外はどうでもいいんだけどね。でも、そういうわけにはいかないだろ? そんなことをしたらほのかクンが悲しむ。それでは本末転倒だ。だから、アフターフォローもしておいたよ」
「アフターフォロー?」
「……なるほど、それで嘆願書ってわけか。これでやっと理解できたよ」

 橘先輩と先輩は納得した顔をしているけど、私には全然理解できない。
 私はおずおずと尋ねた。

「あ、あの……嘆願書ってなんですか?」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...