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二十九章
二十九話 バラ その三
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青島祭二日目。
私は体育館のステージ裏で獅子王さん達の劇の準備をしていた。青島祭実行委員のお仕事は一日目のみ。
二日目はフリーなんだけど、獅子王さん達の劇の手伝いと自分達のクラスの手伝いがある。
ボクシング部の手の空いている方に手伝ってもらい、劇に必要な道具を運んでもらった。獅子王さんと古見君は衣装に着替えている。
その間、私と手伝いに来てくれた先輩と園田先輩の三人で小道具のチェックをしていた。
園田先輩は劇の発表が終わったので、手伝ってくれている。園田先輩の劇、すごかった。
恋愛もので最後は失恋で終わってしまったけど、希望を残した最後で締めくくられ、続編があれば見てみたいって本当に思った。
先輩に関しては、橘先輩の配慮で来てくれている。
ゲートの転倒事件とCD差し替え事件の事をについて、橘先輩に相談したんだけど何も進展はなかった。
理由は情報が少ないこと、青島祭で外部の人間を含め、人通りが多い為、犯人を特定するものがないこと。
対応策としては風紀委員や先生、青島祭実行委員のみんなに注意を呼びかけ、不審人物がいたら先生に報告することで話し合いは終わった。
先輩は念のために私と獅子王さん、古見君のボディーガードを買って出てくれた。
獅子王さん達が着替えている間、私は二人に伝えたいことがあった。テレくさいことだから、今のうちに言っておこう。
「先輩、園田先輩。今、いいですか?」
「何だ?」
「何? ほのっち」
私は一息つき、感謝の言葉を口にする。
「私の我儘に付き合っていただき、ありがとうございました! おかげで劇ができそうです。私一人では到底無理でした。お二人がいてくれたからここまで来ることが出来ました」
「ううっ、ほのっち!」
おっと!
園田先輩が私に抱きついてきた。本当、劇をしている時としてない時の差が激しいよね、この人。
私はよしよしと園田先輩の頭を撫でる。私が人の頭を撫でるって結構レアかも。
「私達、劇が終わってもズッ友だから!」
「はいはい」
「下手な芝居したらヤキいれるから!」
「……それは古見君にお願いします」
本当にヤメテ。冗談に聞こえないから。っていうか、私にヤキいれられても困る。いや、本当にね。
「伊藤、最初から手伝うことが出来なくて悪かったな」
先輩のすまなさそうな声に、私は首を横に振る。
「いえ。一番大変な時に先輩は力になってくれました。ありがとうございます」
「伊藤……」
「先輩……」
ああっ、また先輩は申し訳なさそうな顔をしている。そんな顔をさせたくないのに……先輩には笑顔でいてほしいのに。
「何見つめ合ってんのよ。藤堂、あんたがはっきりしないから、ほのっちが自殺一歩手前まで追い込まれたのよ。そこんとこ、分かってるの?」
「違いますから! 追い込まれていませんから!」
やめて、園田先輩! その本当にみえそうな嘘、キツイから! ほら、また先輩が傷ついた顔してるよ!
な、何か明るい話題は……。
「お前ら、何やってんだ?」
「し、獅子王さん!」
ナイスタイミング! 普段は空気が読めない俺様獅子王さんだけど、今は読めてる!
「お待たせしました」
獅子王さんの後ろに古見君がやってきた。古見君の衣装姿を見て、私は一種の感動を覚えた。
綺麗……。
やはり、私と園田先輩の見立ては悪くなかった。古見君には女装の才能がある。それほどの出来。
もちろん、獅子王さんの衣装姿も似合っている。
獅子王さんの衣装は日本古事記に書かれている衣装を元に作り上げた。
白の衣に筒袖と大きめの褌を着せている。
装飾品は倭文布の帯に頸珠、手玉、足結を施して、皮履を履いている。
古見君の衣装は、獅子王さんと同じく白の衣と裳、筒袖、倭文布の帯を着て、肩から領巾をかけている。
古見君の女装は憂いのある(嫌がっている)表情は更に女の子っぽく見える。
絶対に初見で古見君を男の子だと分かる人はいないよね!
私としては、二人とも男装で問題ナッシングなんだけど。やだ、獅子王さんの死語がまた……気を付けないと。
「獅子王さん、古見君。その衣装、似合ってますよ」
「モチのロンだ」
「……あははっ」
獅子王さんは当たり前って顔をしているけど、古見君は苦笑いを浮かべている。気持ちは少し分かるけどね。
「ようやくここまできましたね」
「ああ、そうだな」
本当に長かった。たった一ヶ月半の出来事なのに、何か月もたったような時間を感じる。
いろんな問題を乗り越えて、私達はここに立っている。それがすごくうれしい。
だって、何度もつらい目にあって、ダメだって諦めそうになって、泣いて……それでも、たどり着いた場所だから。
いけない。涙がこみ上げてきた。頑張ったのは獅子王さん達でしょ? 私が泣いてどうするのよ。
獅子王さんが私の横を通り過ぎようとしたとき、乱暴に私の頭に手を置いてきた。
「しっかりみてろ、ほのか。俺様達の演技を」
ポンと一つ頭を叩いて、獅子王さんは舞台に向かう。
堂々と威厳のある獅子王さんの姿に、前の出し物に参加していた人や片づけをしていた人達が道をあける。
獅子王さん達の後ろ姿がとても頼もしい。
「伊藤さん、本当にありがとう。見てて、僕、絶対にやりきるから」
「うん。見てるからね」
パンっとハイタッチを交わす。古見君のタッチは力強くて、それでも、私の手を傷つけないよう加減をしてくれていた。
古見君も舞台へと向かう。古見君の凛とした立ち振る舞いに、私はつい見惚れてしまった。
私は確信していた。この二人なら大丈夫だって。
これから先もずっと二人で二人三脚で進んでいく。私の手助けも今日まで。
肩の荷が下りたというか、ちょっと寂しいって思う。
別に風紀委員が二人の仲に干渉しないってことになるだけで問題は山積みなんだろうけど、それでも、二人なら不可能なんてないさ~。
つい、口ずさみそうになっちゃったよ。
結局、橘先輩は妨害らしきことは一切してこなかった。しなかったというよりも、できなかったのではないかなって思う。
青島祭が近づくにつれて橘先輩、やつれていたもんね。忙しくて倒れるんじゃないって思っちゃったもん。
つい、栄養ドリンクを差し入れしちゃったよ。
「準備OKです! もう時間なんでスタンバイ、お願いしまっす!」
私と先輩、園田先輩、ボクシング部の人達はステージの裏へと移動する。ボクシング部の人達は対抗試合があるので、帰っていった。
私はボクシング部の人にお礼を言うと、またラウンドガールしてくださいって言われちゃった。私なんかがしたって意味ないでしょうに。
私は笑顔で断った。
青島祭実行委員の人からマイクを渡される。ナレーションは私がすることになった。
ふっ! これも実力。
「私も見たかったな。ほのっちが泣きでナレーション役を奪ったこと」
「なんで知っているんですか! まさか、先輩!」
「隠すようなことか? 本当の事だろ?」
空気読んで、先輩! 私のイメージが格好悪くなるでしょ! もう!
園田先輩が私を後ろから抱きしめ、つんつんと頬をつっついてくる。はあ……もういいよ。
気を取り直して、気を引き締める。ナレーションをする以上、失敗しないようにしなきゃ。
青島祭実行委員がゴーサインを出している。あのサインが出されると、司会役の伊熊先輩が出し物が始まることを観客に告げる。
もう引き返せない。
ついに劇が始まるんだ。頑張って、二人とも。
「おまたせいたしました。次の出し物は有志の演劇で、『黄泉比良坂物語です』
私は体育館のステージ裏で獅子王さん達の劇の準備をしていた。青島祭実行委員のお仕事は一日目のみ。
二日目はフリーなんだけど、獅子王さん達の劇の手伝いと自分達のクラスの手伝いがある。
ボクシング部の手の空いている方に手伝ってもらい、劇に必要な道具を運んでもらった。獅子王さんと古見君は衣装に着替えている。
その間、私と手伝いに来てくれた先輩と園田先輩の三人で小道具のチェックをしていた。
園田先輩は劇の発表が終わったので、手伝ってくれている。園田先輩の劇、すごかった。
恋愛もので最後は失恋で終わってしまったけど、希望を残した最後で締めくくられ、続編があれば見てみたいって本当に思った。
先輩に関しては、橘先輩の配慮で来てくれている。
ゲートの転倒事件とCD差し替え事件の事をについて、橘先輩に相談したんだけど何も進展はなかった。
理由は情報が少ないこと、青島祭で外部の人間を含め、人通りが多い為、犯人を特定するものがないこと。
対応策としては風紀委員や先生、青島祭実行委員のみんなに注意を呼びかけ、不審人物がいたら先生に報告することで話し合いは終わった。
先輩は念のために私と獅子王さん、古見君のボディーガードを買って出てくれた。
獅子王さん達が着替えている間、私は二人に伝えたいことがあった。テレくさいことだから、今のうちに言っておこう。
「先輩、園田先輩。今、いいですか?」
「何だ?」
「何? ほのっち」
私は一息つき、感謝の言葉を口にする。
「私の我儘に付き合っていただき、ありがとうございました! おかげで劇ができそうです。私一人では到底無理でした。お二人がいてくれたからここまで来ることが出来ました」
「ううっ、ほのっち!」
おっと!
園田先輩が私に抱きついてきた。本当、劇をしている時としてない時の差が激しいよね、この人。
私はよしよしと園田先輩の頭を撫でる。私が人の頭を撫でるって結構レアかも。
「私達、劇が終わってもズッ友だから!」
「はいはい」
「下手な芝居したらヤキいれるから!」
「……それは古見君にお願いします」
本当にヤメテ。冗談に聞こえないから。っていうか、私にヤキいれられても困る。いや、本当にね。
「伊藤、最初から手伝うことが出来なくて悪かったな」
先輩のすまなさそうな声に、私は首を横に振る。
「いえ。一番大変な時に先輩は力になってくれました。ありがとうございます」
「伊藤……」
「先輩……」
ああっ、また先輩は申し訳なさそうな顔をしている。そんな顔をさせたくないのに……先輩には笑顔でいてほしいのに。
「何見つめ合ってんのよ。藤堂、あんたがはっきりしないから、ほのっちが自殺一歩手前まで追い込まれたのよ。そこんとこ、分かってるの?」
「違いますから! 追い込まれていませんから!」
やめて、園田先輩! その本当にみえそうな嘘、キツイから! ほら、また先輩が傷ついた顔してるよ!
な、何か明るい話題は……。
「お前ら、何やってんだ?」
「し、獅子王さん!」
ナイスタイミング! 普段は空気が読めない俺様獅子王さんだけど、今は読めてる!
「お待たせしました」
獅子王さんの後ろに古見君がやってきた。古見君の衣装姿を見て、私は一種の感動を覚えた。
綺麗……。
やはり、私と園田先輩の見立ては悪くなかった。古見君には女装の才能がある。それほどの出来。
もちろん、獅子王さんの衣装姿も似合っている。
獅子王さんの衣装は日本古事記に書かれている衣装を元に作り上げた。
白の衣に筒袖と大きめの褌を着せている。
装飾品は倭文布の帯に頸珠、手玉、足結を施して、皮履を履いている。
古見君の衣装は、獅子王さんと同じく白の衣と裳、筒袖、倭文布の帯を着て、肩から領巾をかけている。
古見君の女装は憂いのある(嫌がっている)表情は更に女の子っぽく見える。
絶対に初見で古見君を男の子だと分かる人はいないよね!
私としては、二人とも男装で問題ナッシングなんだけど。やだ、獅子王さんの死語がまた……気を付けないと。
「獅子王さん、古見君。その衣装、似合ってますよ」
「モチのロンだ」
「……あははっ」
獅子王さんは当たり前って顔をしているけど、古見君は苦笑いを浮かべている。気持ちは少し分かるけどね。
「ようやくここまできましたね」
「ああ、そうだな」
本当に長かった。たった一ヶ月半の出来事なのに、何か月もたったような時間を感じる。
いろんな問題を乗り越えて、私達はここに立っている。それがすごくうれしい。
だって、何度もつらい目にあって、ダメだって諦めそうになって、泣いて……それでも、たどり着いた場所だから。
いけない。涙がこみ上げてきた。頑張ったのは獅子王さん達でしょ? 私が泣いてどうするのよ。
獅子王さんが私の横を通り過ぎようとしたとき、乱暴に私の頭に手を置いてきた。
「しっかりみてろ、ほのか。俺様達の演技を」
ポンと一つ頭を叩いて、獅子王さんは舞台に向かう。
堂々と威厳のある獅子王さんの姿に、前の出し物に参加していた人や片づけをしていた人達が道をあける。
獅子王さん達の後ろ姿がとても頼もしい。
「伊藤さん、本当にありがとう。見てて、僕、絶対にやりきるから」
「うん。見てるからね」
パンっとハイタッチを交わす。古見君のタッチは力強くて、それでも、私の手を傷つけないよう加減をしてくれていた。
古見君も舞台へと向かう。古見君の凛とした立ち振る舞いに、私はつい見惚れてしまった。
私は確信していた。この二人なら大丈夫だって。
これから先もずっと二人で二人三脚で進んでいく。私の手助けも今日まで。
肩の荷が下りたというか、ちょっと寂しいって思う。
別に風紀委員が二人の仲に干渉しないってことになるだけで問題は山積みなんだろうけど、それでも、二人なら不可能なんてないさ~。
つい、口ずさみそうになっちゃったよ。
結局、橘先輩は妨害らしきことは一切してこなかった。しなかったというよりも、できなかったのではないかなって思う。
青島祭が近づくにつれて橘先輩、やつれていたもんね。忙しくて倒れるんじゃないって思っちゃったもん。
つい、栄養ドリンクを差し入れしちゃったよ。
「準備OKです! もう時間なんでスタンバイ、お願いしまっす!」
私と先輩、園田先輩、ボクシング部の人達はステージの裏へと移動する。ボクシング部の人達は対抗試合があるので、帰っていった。
私はボクシング部の人にお礼を言うと、またラウンドガールしてくださいって言われちゃった。私なんかがしたって意味ないでしょうに。
私は笑顔で断った。
青島祭実行委員の人からマイクを渡される。ナレーションは私がすることになった。
ふっ! これも実力。
「私も見たかったな。ほのっちが泣きでナレーション役を奪ったこと」
「なんで知っているんですか! まさか、先輩!」
「隠すようなことか? 本当の事だろ?」
空気読んで、先輩! 私のイメージが格好悪くなるでしょ! もう!
園田先輩が私を後ろから抱きしめ、つんつんと頬をつっついてくる。はあ……もういいよ。
気を取り直して、気を引き締める。ナレーションをする以上、失敗しないようにしなきゃ。
青島祭実行委員がゴーサインを出している。あのサインが出されると、司会役の伊熊先輩が出し物が始まることを観客に告げる。
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