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蔵屋敷強の願い編 一章
一話 俺も義信さんも楓さんもいつも強の事、想っている その一
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「おはよう、正道。昨日は大変だったね」
「……おはよう、左近。相変わらず情報が早いな」
翌朝。
昨日の一件は義信さんが警察に説明してくれて、警察は現場検証だけして帰って行った。
割れたガラスはガムテープで塞ぎ、今日、業者が来て、窓ガラスの割れ具合を確認し、日を改めて窓を交換する手はずとなっている。
保険にはいっているので、後日、被害届の受理番号と割られたガラスの写真と修復後のガラスの写真等、一式をそろえて保険会社に送れば、修理費は返ってくるのだが、楓さんに迷惑をかけている事が心苦しい。
ボールが投げ込まれたことから、もしかすると、一月三日の親善試合に関係しているかもしれない。
俺達に後ろめたいことはない。だが、逆恨みするヤツは、自分の恨みが発散されればそれでいいと思っている自己中なヤツらが多いからな。
正々堂々と正面切って来やがれって言ってやりたい。
とにかく、最悪な気分で新学期を迎えた俺は登校した後、風紀委員室に立ち寄った。
一月三日に挨拶はしたが、新学期だし、あらためて左近に挨拶しておきたかった。
左近も風紀委員室に来たばかりか、学校指定のコート姿だ。
窓ガラスはくもっていて、日の光を浴びた部屋はホコリが若干、空中を舞い上がっている。
「必要ないと思うけど、犯人の情報、いる?」
「……本当に早いな。頼む」
左近は黙り込んでしまった。
なんだ? おかしなところがあったか?
「どうした?」
「……いや、正道のことだから、藤堂義信氏に任せると思って」
普段ならそうだ。だが、今回は例外だ。
その理由は……。
「……ちょっと気になる事があってな」
「そう……けど……」
「分かってる。犯人捜しがしたいわけではない。家族を護りたいだけだ」
下手に犯人を捜すと、風紀委員に迷惑を掛ける場合がある。
事件は警察に任せるべき。それは俺と左近の共有した認識だ。
ただし、喧嘩を売られた場合はその限りではない。
左近は俺にスマホを見せてきた。
スマホの画面には二人組の男が写っている。ただ、夜に撮られたものなので、顔がよく見えない。
塀や周りの物を二人の姿に照らし合わせ、背格好を予測するに……百六十ほどか? それに肩に掛けている黒い細長い物は……。
「バットケースか?」
「そう。多分だけど、犯人は青島西中の野球部だね」
「なぜ、分かる?」
「帽子のかぶり方。服装は私服で学校を示す物がないけど、帽子のかぶり方がラリーキャップだ。これ、西中の野球部がやってるかぶり方だから」
なるほどな。
ラリーキャップ。
簡単に言えば、帽子を裏返して被ることをさす。
だが、中坊がなぜ、俺の家にボールを投げるんだ? たまたまか? それとも……。
「親善試合とは関係ないんじゃない? まさか、親が負けたからってその仇討ちってこともないでしょ。愉快犯だというのが、今の僕の見立てかな? もっと詳しく調べてみるけど、正道はどうする?」
「……俺は見回りを強化してみる。もし、愉快犯なら、これで終わりとは思えないからな」
愉快犯、もしくはストレスを発散させる為の行動なら、繰り返し犯行が行われる可能性が高い。
それに、もしかすると俺の一件が初めてではないのかもしれない。俺達が知らないだけで、他にも起こっている可能性がある。
だから、警察に任せるのが一番だが、偶然見かけたら対処するべきだと思うし、それに……。
「はぁ……ほんま、迷惑なお人達やね。少し、イラッときましたわ」
うおっ! 朝乃宮か!
気がつくと、俺達の後ろに朝乃宮がただずんでいた。
窓から差し込む太陽の光のなか、姿勢をピンと伸ばした朝乃宮は、一瞬綺麗だと錯覚するが、俺や左近にとってはちょっとしたホラーだ。
闇討ちされそうで本当に怖い。
「藤堂はん。ウチに喧嘩、売ってます?」
俺は内心ビビりつつも、とりあえず否定することにした。
「まさか……朝乃宮も気になったんだな?」
「ウチはただ、咲が余計なトラブルに巻き込まれるのが許せないだけです」
だよな。お前の行動は全て、上春のためだ。別に驚きはしない。
「ウチはこの件に関しては一切手出しするつもりはありません。家族に手を出すのであれば、少し痛い目にあってもらいますけど」
いや、お前のちょっとは半殺しからだろうが。
身内から犯罪者を出さないためにも、積極的にこの一件、参入するべきか?
本気で悩みそうだ。
「言っておきますけど、家族には強はんも藤堂はんも含まれてますので、あまり無茶せんよう、お願いします」
それだけを言い残し、朝乃宮は風紀委員室を去って行った。
アイツも気づいていたのか……。
この一件、強が怒っているようだからな。まさかとは思うが、強が犯人を捕まえようと無茶をするかもしれない。
小学生が犯人捜しなど無理だとは思うが、気にした方がいいだろう。
強が怒っている理由は、窓ガラスを割られたことではなく、窓ガラスを割った凶器がボールを使用したことだと思う。
強は野球が好きだ、その好きなスポーツの道具を、犯罪につかわれたら怒るのも当然だ。
今日も口数が全くなかったからな。表情に出さないが、そばにいれば分かる。
けど、本気で怒るほどムカついたとなると、野球への思い入れはかなり強いと考えられるが……。
俺はふと、横から視線を感じ、そっちへ首を向けると、左近が俺を睨んでいた。
「なんだ?」
「いや、正道……女の子の扱い、うまくなったんじゃない? びっくりだよ」
「……それは何の皮肉だ?」
女の扱いがうまくなっていたら、俺は母親と喧嘩することなく、円満に別れていた。
それに、御堂や伊藤とも別れなくて済んだかもしれない。良好な関係を……いや、やめよう。
言い訳をしても、俺が二人をキズつけたことには変わりないのだから。
「そう……けど、伊藤さんを袖にした後、すぐに朝乃宮や上春さんと仲良くしてるなんて、少し軽薄じゃない?」
「……悪い、注意する」
俺は左近に頭を下げ、風紀委員室を出て行く。
左近は今でも伊藤の復帰を願っている。そして、伊藤が俺のことを好いていたことも知っている。
左近から見たら、俺の行動は軽薄に見えるのだろうな。
だったら、その気がなくても謝罪するしかない。
風紀委員室を出たところで。
「別に藤堂はんが謝る必要なんてないと思いますけど」
「うぉおおおおおお!」
俺は腰が抜けそうなくらいびっくりした。
朝乃宮は教室に戻ることなく、入り口付近で待っていたのだ。
なんで、朝乃宮がここに?
「少し橘はんとお話がありますので」
左近に話し? なんだ?
左近の顔が引きつっているのを見て、俺は苦笑してしまう。
俺には関係なさそうだし、さっさと教室に戻るか。
俺は左近の無事を祈りつつ、教室に向かった。
今日は午前で学校は終わった。
明日から授業が始まる。廊下には、久しぶりに会った友と話をしたり、今後の予定を計画する者、部活に励む者等、活気が廊下にまで溢れていた。
窓の外は晴れてはいるが、時々、風で窓がカタカタと小さく震えている。これからもっと寒くなっていくのだろう。
冬の寒さが本格的になる予感を感じながら、俺は廊下を歩く。
俺は風紀委員室にいって、左近に今日の見回りの予定場所を報告してきた。見回り後は直帰することも報告し、許可はもらっている。
今日の見回り場所は俺の家付近と、青島西小学校だ。
小学生の男子なら、遊びと正義感から犯人捜しをするはずだ。
きっと、俺も昔の親友、健司と一緒に探偵ごっごで犯人を捕まえようとしただろう。
こういった悪戯をするヤツは、お前が犯人かと指摘されると逆ギレする可能性が高い。
そのとき、犯人が強に危害を加えようとしたら、強は自己防衛できるのか?
できないだろうな。
犯人らしき人物は中学生以上のガキだ。小学生の強とは体格が大きく違う。単純にいって素人の喧嘩は数か、力の強い者が勝つ。
窓を割られたことは腹立たしいが、まだ我慢できる。だが、犯人が強に手を出したのなら……絶対に許さない。
俺が強を護らなければ……。
とりあえず、強と合流できればと思い、青島西小学校へ向かうことにした。
小学校に近づくにつれ、児童の姿がちらほらと見かけるようになった。今日は始業式だから、俺達と同じ午前中しかないはず。
すれ違う子供達の中に強らしき人物はいない。そして、不審な目で子供達が俺を見つめている。
一応、腕章はつけているが、百九十を超える高校生が小学校をうろついていたら、不審者だと思われても不思議ではない。
さて、どうするか……。
「おい! そこのキミ! ここで何を……って、藤堂君?」
「お久しぶりです。田島先生」
俺は青島西小学校の体育教師、田島先生に頭を下げた。
田島先生とは、ボランティアでよく一緒に活動している。
風紀委員は町内の清掃活動や、市主催のこども会等で一緒に活動しているので顔見知りだ。
体格は百八十後半で、均等に筋肉がとれたバランスのいい体型をしている。
髪型もさっぱりしていて、髭がなく、笑顔の明るくて人なつっこい、どこか信吾さんに似ている雰囲気を持つ先生だ。
「久しぶりと言っても、クリスマス会以来だけど。今週末の町内清掃活動もよろしくな、藤堂君! キミ達、風紀委員のこと、期待させてもらっているから」
「ご期待に添えるよう頑張ります」
町内清掃活動は有志と美化委員が集まって作業するのだが、ただでさえ有志は集まりにくいところにこの寒さだ。
進んで掃除したい生徒はいないだろう。
それゆえ、俺達風紀委員が期待されているわけだ。
「それで、何か用かい? まさか、不良関係か?」
「いえ……田島先生は上春強君をご存じですか?」
「上春……強?」
強の名前を出した瞬間、田島先生の表情が曇った。
なんだ? 変な質問をしたか? それとも、強のこと、知らないのか?
小学生は沢山いるし、知らない生徒がいてもおかしくはないが……違うよな?
きっと、田島先生は強のことを知っている。いや、知っているはずだ。強の家の事情を学校が知らないわけがない。
だとしたら、強は厄介者だと思われて、嫌そうな顔をしている……ワケでもないと思う。
田島先生は生徒想いのいい先生だ。それは一緒に活動していた俺がよく知っている。
ならば、どうして……。
「藤堂君、ここではなんだから、ちょっと……」
「え、ええっ」
田島先生は俺を校内に案内する。子供がすれ違う度に、挨拶を交わしている田島先生の人となりがうかがえる。
もしかすると、強は家族以外に何か問題を抱えているのか?
俺は少し不安になりながらも、田島先生の後に付いていった。
「……おはよう、左近。相変わらず情報が早いな」
翌朝。
昨日の一件は義信さんが警察に説明してくれて、警察は現場検証だけして帰って行った。
割れたガラスはガムテープで塞ぎ、今日、業者が来て、窓ガラスの割れ具合を確認し、日を改めて窓を交換する手はずとなっている。
保険にはいっているので、後日、被害届の受理番号と割られたガラスの写真と修復後のガラスの写真等、一式をそろえて保険会社に送れば、修理費は返ってくるのだが、楓さんに迷惑をかけている事が心苦しい。
ボールが投げ込まれたことから、もしかすると、一月三日の親善試合に関係しているかもしれない。
俺達に後ろめたいことはない。だが、逆恨みするヤツは、自分の恨みが発散されればそれでいいと思っている自己中なヤツらが多いからな。
正々堂々と正面切って来やがれって言ってやりたい。
とにかく、最悪な気分で新学期を迎えた俺は登校した後、風紀委員室に立ち寄った。
一月三日に挨拶はしたが、新学期だし、あらためて左近に挨拶しておきたかった。
左近も風紀委員室に来たばかりか、学校指定のコート姿だ。
窓ガラスはくもっていて、日の光を浴びた部屋はホコリが若干、空中を舞い上がっている。
「必要ないと思うけど、犯人の情報、いる?」
「……本当に早いな。頼む」
左近は黙り込んでしまった。
なんだ? おかしなところがあったか?
「どうした?」
「……いや、正道のことだから、藤堂義信氏に任せると思って」
普段ならそうだ。だが、今回は例外だ。
その理由は……。
「……ちょっと気になる事があってな」
「そう……けど……」
「分かってる。犯人捜しがしたいわけではない。家族を護りたいだけだ」
下手に犯人を捜すと、風紀委員に迷惑を掛ける場合がある。
事件は警察に任せるべき。それは俺と左近の共有した認識だ。
ただし、喧嘩を売られた場合はその限りではない。
左近は俺にスマホを見せてきた。
スマホの画面には二人組の男が写っている。ただ、夜に撮られたものなので、顔がよく見えない。
塀や周りの物を二人の姿に照らし合わせ、背格好を予測するに……百六十ほどか? それに肩に掛けている黒い細長い物は……。
「バットケースか?」
「そう。多分だけど、犯人は青島西中の野球部だね」
「なぜ、分かる?」
「帽子のかぶり方。服装は私服で学校を示す物がないけど、帽子のかぶり方がラリーキャップだ。これ、西中の野球部がやってるかぶり方だから」
なるほどな。
ラリーキャップ。
簡単に言えば、帽子を裏返して被ることをさす。
だが、中坊がなぜ、俺の家にボールを投げるんだ? たまたまか? それとも……。
「親善試合とは関係ないんじゃない? まさか、親が負けたからってその仇討ちってこともないでしょ。愉快犯だというのが、今の僕の見立てかな? もっと詳しく調べてみるけど、正道はどうする?」
「……俺は見回りを強化してみる。もし、愉快犯なら、これで終わりとは思えないからな」
愉快犯、もしくはストレスを発散させる為の行動なら、繰り返し犯行が行われる可能性が高い。
それに、もしかすると俺の一件が初めてではないのかもしれない。俺達が知らないだけで、他にも起こっている可能性がある。
だから、警察に任せるのが一番だが、偶然見かけたら対処するべきだと思うし、それに……。
「はぁ……ほんま、迷惑なお人達やね。少し、イラッときましたわ」
うおっ! 朝乃宮か!
気がつくと、俺達の後ろに朝乃宮がただずんでいた。
窓から差し込む太陽の光のなか、姿勢をピンと伸ばした朝乃宮は、一瞬綺麗だと錯覚するが、俺や左近にとってはちょっとしたホラーだ。
闇討ちされそうで本当に怖い。
「藤堂はん。ウチに喧嘩、売ってます?」
俺は内心ビビりつつも、とりあえず否定することにした。
「まさか……朝乃宮も気になったんだな?」
「ウチはただ、咲が余計なトラブルに巻き込まれるのが許せないだけです」
だよな。お前の行動は全て、上春のためだ。別に驚きはしない。
「ウチはこの件に関しては一切手出しするつもりはありません。家族に手を出すのであれば、少し痛い目にあってもらいますけど」
いや、お前のちょっとは半殺しからだろうが。
身内から犯罪者を出さないためにも、積極的にこの一件、参入するべきか?
本気で悩みそうだ。
「言っておきますけど、家族には強はんも藤堂はんも含まれてますので、あまり無茶せんよう、お願いします」
それだけを言い残し、朝乃宮は風紀委員室を去って行った。
アイツも気づいていたのか……。
この一件、強が怒っているようだからな。まさかとは思うが、強が犯人を捕まえようと無茶をするかもしれない。
小学生が犯人捜しなど無理だとは思うが、気にした方がいいだろう。
強が怒っている理由は、窓ガラスを割られたことではなく、窓ガラスを割った凶器がボールを使用したことだと思う。
強は野球が好きだ、その好きなスポーツの道具を、犯罪につかわれたら怒るのも当然だ。
今日も口数が全くなかったからな。表情に出さないが、そばにいれば分かる。
けど、本気で怒るほどムカついたとなると、野球への思い入れはかなり強いと考えられるが……。
俺はふと、横から視線を感じ、そっちへ首を向けると、左近が俺を睨んでいた。
「なんだ?」
「いや、正道……女の子の扱い、うまくなったんじゃない? びっくりだよ」
「……それは何の皮肉だ?」
女の扱いがうまくなっていたら、俺は母親と喧嘩することなく、円満に別れていた。
それに、御堂や伊藤とも別れなくて済んだかもしれない。良好な関係を……いや、やめよう。
言い訳をしても、俺が二人をキズつけたことには変わりないのだから。
「そう……けど、伊藤さんを袖にした後、すぐに朝乃宮や上春さんと仲良くしてるなんて、少し軽薄じゃない?」
「……悪い、注意する」
俺は左近に頭を下げ、風紀委員室を出て行く。
左近は今でも伊藤の復帰を願っている。そして、伊藤が俺のことを好いていたことも知っている。
左近から見たら、俺の行動は軽薄に見えるのだろうな。
だったら、その気がなくても謝罪するしかない。
風紀委員室を出たところで。
「別に藤堂はんが謝る必要なんてないと思いますけど」
「うぉおおおおおお!」
俺は腰が抜けそうなくらいびっくりした。
朝乃宮は教室に戻ることなく、入り口付近で待っていたのだ。
なんで、朝乃宮がここに?
「少し橘はんとお話がありますので」
左近に話し? なんだ?
左近の顔が引きつっているのを見て、俺は苦笑してしまう。
俺には関係なさそうだし、さっさと教室に戻るか。
俺は左近の無事を祈りつつ、教室に向かった。
今日は午前で学校は終わった。
明日から授業が始まる。廊下には、久しぶりに会った友と話をしたり、今後の予定を計画する者、部活に励む者等、活気が廊下にまで溢れていた。
窓の外は晴れてはいるが、時々、風で窓がカタカタと小さく震えている。これからもっと寒くなっていくのだろう。
冬の寒さが本格的になる予感を感じながら、俺は廊下を歩く。
俺は風紀委員室にいって、左近に今日の見回りの予定場所を報告してきた。見回り後は直帰することも報告し、許可はもらっている。
今日の見回り場所は俺の家付近と、青島西小学校だ。
小学生の男子なら、遊びと正義感から犯人捜しをするはずだ。
きっと、俺も昔の親友、健司と一緒に探偵ごっごで犯人を捕まえようとしただろう。
こういった悪戯をするヤツは、お前が犯人かと指摘されると逆ギレする可能性が高い。
そのとき、犯人が強に危害を加えようとしたら、強は自己防衛できるのか?
できないだろうな。
犯人らしき人物は中学生以上のガキだ。小学生の強とは体格が大きく違う。単純にいって素人の喧嘩は数か、力の強い者が勝つ。
窓を割られたことは腹立たしいが、まだ我慢できる。だが、犯人が強に手を出したのなら……絶対に許さない。
俺が強を護らなければ……。
とりあえず、強と合流できればと思い、青島西小学校へ向かうことにした。
小学校に近づくにつれ、児童の姿がちらほらと見かけるようになった。今日は始業式だから、俺達と同じ午前中しかないはず。
すれ違う子供達の中に強らしき人物はいない。そして、不審な目で子供達が俺を見つめている。
一応、腕章はつけているが、百九十を超える高校生が小学校をうろついていたら、不審者だと思われても不思議ではない。
さて、どうするか……。
「おい! そこのキミ! ここで何を……って、藤堂君?」
「お久しぶりです。田島先生」
俺は青島西小学校の体育教師、田島先生に頭を下げた。
田島先生とは、ボランティアでよく一緒に活動している。
風紀委員は町内の清掃活動や、市主催のこども会等で一緒に活動しているので顔見知りだ。
体格は百八十後半で、均等に筋肉がとれたバランスのいい体型をしている。
髪型もさっぱりしていて、髭がなく、笑顔の明るくて人なつっこい、どこか信吾さんに似ている雰囲気を持つ先生だ。
「久しぶりと言っても、クリスマス会以来だけど。今週末の町内清掃活動もよろしくな、藤堂君! キミ達、風紀委員のこと、期待させてもらっているから」
「ご期待に添えるよう頑張ります」
町内清掃活動は有志と美化委員が集まって作業するのだが、ただでさえ有志は集まりにくいところにこの寒さだ。
進んで掃除したい生徒はいないだろう。
それゆえ、俺達風紀委員が期待されているわけだ。
「それで、何か用かい? まさか、不良関係か?」
「いえ……田島先生は上春強君をご存じですか?」
「上春……強?」
強の名前を出した瞬間、田島先生の表情が曇った。
なんだ? 変な質問をしたか? それとも、強のこと、知らないのか?
小学生は沢山いるし、知らない生徒がいてもおかしくはないが……違うよな?
きっと、田島先生は強のことを知っている。いや、知っているはずだ。強の家の事情を学校が知らないわけがない。
だとしたら、強は厄介者だと思われて、嫌そうな顔をしている……ワケでもないと思う。
田島先生は生徒想いのいい先生だ。それは一緒に活動していた俺がよく知っている。
ならば、どうして……。
「藤堂君、ここではなんだから、ちょっと……」
「え、ええっ」
田島先生は俺を校内に案内する。子供がすれ違う度に、挨拶を交わしている田島先生の人となりがうかがえる。
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