風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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女を黙らせるにはこうするんだろ? 前編 朝乃宮千春SIDE

2/8 その五

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「お待ちしてました、藤堂はん。お昼休みに呼び出して堪忍な」
「……」

 こわばった顔をしている藤堂はんに、ウチは微笑みながら席に座るよう促す。

「どういうことなんだい、朝乃宮君! 彼をここに呼ぶなんて!」
「彼はウチの事、助けようとしてくれましたから。まずはそのお礼を」
「こんなヤツに礼を言う必要なんてあるのかい? 結局何もしてないじゃないか!」

 ほんま、ぶん殴りたい。あんさんも何もしてない。
 藤堂はんは本気でウチを助けようとしたのに、あんさんは……。

 ウチは顔色一つ変えず、氷室はんに笑顔で伝える。

「それでも、ウチが仙石はんに絡まれたとき、真っ先にウチの事を心配してくれました。怒ってくれました。その点は感謝せえへんと。不義理なんは流石に失礼とちゃいます?」

 ここが他人と藤堂はんとの違い。
 まあ、『子』には手出しせえへんよう命令してたけど。

「せやさかい、お礼を言わせてください。ありがとうございます」

 ウチは立ち上がり、藤堂はんに頭を下げる。

「……別に俺は……アイツが許せなかった……いや、当然のことをしたまでだ」
「余計なお世話だったがな」

 いちいち何か言わんと気が済まへんの、氷室はん。未熟者。
 けど、感情的な方がコントロールしやすいときもある。

「確かに、藤堂はんが出てきたことでウチの計画に支障が出たのも事実です」
「朝乃宮君の計画?」
「仙石グループの目をウチら生徒会に向ける事です」
「危ないじゃないか!」

 よく言う。その気になれば、氷室はんだって仙石グループを壊滅させることが出来るくせに。
 演技のお上手なお人。
 背を預けたくないわ。

「俺もそう思う」
「藤堂はん、氷室はん、ウチが仙石グループに狙われて……何か問題でも?」
「「……」」

 あるわけがない。
 それに……。

「ウチの狙いは仙石グループが頭になって他の不良達が足並みをそろえることです」
「?」
「いちいち個で襲われるよりも、まとめて襲撃してもらった方が手間が省けるってことです」

 ウチの理想は、仙石和志が先頭に立って全員で襲いかかってくること。
 邪魔者を一網打尽に出来て、藤堂はんを護れる。
 一石二鳥。

「そ、そっちの方が危ないじゃないか!」
「……朝乃宮は準備できているというのか? 不良達に襲われても返り討ちにすることが」
「勿論」

 流石は藤堂はん。ウチの事、分かってきてる。
 策は戦う前に全て用意している。
 勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝ちを求む。

「せやけど、ここで一つ問題が起きました。藤堂はんが出てきたことです」
「なぜ、俺が出てきたら問題なんだ?」
「仙石グループ……いえ、仙石和志が藤堂はんに狙いをつけたことです。きっと、前哨戦くらいにしか思われてませんけど。ただ、分散されるとウチの計画に支障が出て、修正が必要になりました」

 堪忍な、藤堂はん……キツい言い方してもうて。

「……すまん、朝乃宮」

 謝らんとって、藤堂はん。
 計画通りやし。

「全く、本当に邪魔ばかりしてくれる。キミも同類だってこと、気づけ」
「……すまん」
「藤堂はん、ウチらは謝罪が欲しいわけやないです。ただ、強力いただけたら嬉しいです」

 藤堂はん……分かってくれてますよね?
 これは演技。ちゃんと事前に伝えてる。証拠もある。
 だから……。

「……何をしたらいい? どうしたら……帳消しに出来る」

 そんな悲しげな顔せんといて……これは演技なんやから……。

「俺としては……」
「ウチのボディーガードをお願いできません?」

 氷室はん、黙り。
 ウチは藤堂はんを真っ直ぐ見つめてお願いする。

「「ぼ、ボディーガード?」」

 藤堂はんと氷室はんの声が重なる。
 二人は気まずそうに目をそらす。
 特に氷室はんは不機嫌丸出しな顔してる。

 いつも思うんやけど、毛嫌いしすぎちゃう?
 いい加減、イラッとする。

「そうです。ターゲットが二人になったのなら、ウチらが一緒にいればええことです。仙石グループの脅威がなくなるまで、藤堂はんにはボディーガードという名目でウチのそばにいて欲しいんですけど、どうです?」
「はぁ? 藤堂なんかがキミを護れるわけないだろ! キミよりも弱いヤツがボディーガードだなんて、俺が認めない! それに確実に足を引っ張るぞ!」
「ウチは藤堂はんに聞いてます。どうです?」

 ここが一番の難所。
 予感はあるけど、ウチの策略が唯一きかないある意味綱渡り。
 もし、これで否定されたら、ウチ……。

「分かった。俺が朝乃宮を護る」

 藤堂はんは真っ直ぐウチの目を見て答えてくれた……。
 はぁ……ほんま……ほんま……よかったわ……。

「お願いします」

 フフフフフフッ……やったぁああああああああああああああああああああああ!
 ウチの計画通りやぁああああああああああああああああああああああああああああああ!

 ほんまはどうでもええんや!
 この学校で不良が暴れ回ろうが卒業式に贈る花がどうなろうが!

 別にウチ、三年の生徒になんらお世話になったわけやないし、卒業するならさっさとして。答辞とぶぶ漬けくらいは出したるわ。
 生徒会副会長兼風紀委員やから立場上、目の前で不良に襲われてたら助けるけど、基本自己防衛しといてって思ってるし。率先して助ける義理なんてあらへん。
 なんなら、咲と藤堂はん以外、ここにいる生徒達がどうなろうとウチが知ったことやない。

 自分の幸せくらい、自分で掴みなさい。親や教師に護ってもらう年頃でもないやろ、もう。
 この全ての流れ、出来事は、ウチが藤堂はんと堂々と誰にはばかることなく一緒にいられる為の理由作り。
 ただ一緒にいたいだけで全生徒、教師を巻き込んだ、まさに茶番劇。
 これがウチの本命。

「ま、待て! そんな……」
「氷室はん、この件はウチに全部任せてもらえるんやね? 言質、とってますけど」
「だ、だが!」

 付き合ってられへん。
 ウチは氷室はんを無視し、藤堂はんにニッコリと微笑む。

「話しはこれまでです。では、さっそく今からボディーガードをお願いできます、藤堂はん?」
「分かった」
「頼りにしてます。昼食にしましょうか」
「待て! 話しはまだ終わっていない!」

 ウチは氷室はんを無視して、藤堂はんと生徒会室から出た。



「んん~! やっとお昼食べられる~」

 疲れるわ~。
 いろんな所に根回しせえへんとあかんかったから、流石に疲れたわ。
 お腹すいたし、さっさと咲と合流……。

 ぴろろ~~~ん!

「……」
『もう食べちゃった♪』

 冷たい妹やわ。
 人生最良の日になるって言われたけど、今のところそれほど最良って思えへんねんけどな。
 藤堂はんと学校内で堂々と隣を歩けるのはええことやけどね。

「藤堂はん、咲ご飯食べてもうたし、二人で……って顔赤くなってますけど、大丈夫です? 風邪?」
「……本当によかったのか? 俺なんか……」

 謙虚なのはええけど、卑下しすぎるのは相手に失礼になる。
 それに……。

「なんか、なんて言わんとってくれます? ウチは一番信頼出来る人をボディーガードに任命したつもりですけど」

 もっと自信を持って欲しいわ。
 そんな暗い顔されたら、ウチと一緒にいるの、嫌なんって思うやん。泣きたくなるわ。
 やっぱり、最良の日やない。

「……そうだな、悪い。その信頼に応えられるよう、頑張るから」

 不安は消し去れてない。それでも、ウチの事を本気で護ろうとしてくれているのが目を見たら分かる。
 強い意志を感じる。

「期待してます」

 ええもんやわ。
 何の見返りも思惑もない、純粋にただウチの事を想ってくれて、護ってくれる人がいるって。

 欲を言えば、ウチの事が好きだからって下心があればええんやけどな~。
 それは高望みしすぎやな。

「お姉様!」

 町井はんが走ってくる。しかも、その後ろに多くの生徒達が近づいてくる。
 ちょうどええわ。

「町井はん、廊下を走ったら……」
「大丈夫ですか! 生きてますか!」

 生きとるに決まってるやん。
 ウチ、殺し屋にでも狙われてるの?

「無事ですから」
「よかった! 私、お姉様が心配で心配で、お昼ごはん三杯しか食べれませんでした!」

 えっ? めっちゃ食欲あるやん……って思うのはウチだけ?
 なんや急にお腹すいてきたわ……。

「あきまへんえ、ちゃんとご飯食べへんと……」

 とりあえず、フォローしとこ。

「あ、あの……お姉様の隣に……男がいるんですけど~。その人ってあの……不良殺しの……」
「ああ、藤堂はんのこと? 彼には今日からウチのボディーガードになってもらいました」
「いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 こ、鼓膜が……。
 一瞬、意識がとんだわ!

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお姉様にお、おと! おと! おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお男が!」
「町井はん」
「お姉様! そんなの、許せ……」
「ウチ頑張りますから」
「えっ?」

 ウチは笑顔で伝える。

「町井はんや皆はんが安心して学校生活を過ごせますよう風紀委員の方と頑張りますから。だから、見守ってください」

 そんでウチと藤堂はんのラブラブな学校生活の為にウチはやる!

「お、お姉様~一人では出来ませんか~? 私……」
「町井はん、ウチも女の子ですから。一人であんな恐ろしい不良達とやりあうのは不安なんよ。風紀委員の方が一緒にいてくれると安心出来ますし」

 主に藤堂はん。
 それ以外はどうでもええわ。流石に咲を巻き込みたくないし。

「うううううう~~~!」
「ウチ、お昼まだなんで失礼しますね」

 町井はんは涙目で訴えてくるけど、無視。

「生徒会副会長! 頑張ってください!」
「応援してます!」
「第二の青島のジャンヌダルクはアナタです!」

 ウチのこと、心配してくれてる生徒達が次々にエールを送ってくれる。
 ウチは笑顔で手を振る。
 けど、第二のジャンヌダルクってなんやねん。
 それにジャンヌダルクって最後は火刑やん。素で嫌やし。
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