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第2話 最初の獲物!魔物を「解析」して弱点突き!
しおりを挟むグリーンウッドの町に到着したレオンは、商人オルドに別れを告げた。
「本当にありがとうございました。助かりました」
「気にするな。いつか大物になったら、この老人のことを思い出してくれればいい」
オルドはニヤリと笑い、荷車を引いて市場へと向かって行った。彼が口にした「隠しクラス」の話が、まさか本当だったとは。レオンは自分のギルドカードを見つめ直した。
【レオン・グレイ】
【クラス:一般職(???)】
【レベル:15】
【スキル:農業Lv2、料理Lv3、雑貨鑑定Lv2、???】
「表示は変わったけど、一般人には『???』の部分は見えないのかな」
彼は思考を巡らせた。女神アステリアの言葉によれば、彼のクラスは「神域の賢者」。そして新しく目覚めたスキル「神託解析」は、あらゆるものの本質を見抜く力を持つという。
「とりあえず、冒険者ギルドに登録し直すか」
レオンはグリーンウッドの中央広場に位置する冒険者ギルドへと足を向けた。
---
「ふむ、ミスカルプからの転籍ですか。まずは再登録手続きをしましょう」
受付嬢のマリアは明るい笑顔でレオンのカードを受け取った。
「一般職……珍しいクラスをお持ちですね」
「ええ、まあ……」
レオンは少し気まずそうに笑った。マリアはカードを特殊な魔法装置にかざすと、情報が転写された。
「転籍手続き完了です。グリーンウッドのギルドへようこそ、レオン様」
「ありがとうございます。それで、一人でもできる依頼はありますか?」
「えっと、そうですね……」
マリアは掲示板を指差した。
「Fランク依頼なら、初心者でも一人で受けられるものがいくつかありますよ。特に『緑の洞窟』の調査依頼は、比較的安全なダンジョンなので初心者向けです」
「緑の洞窟……ですか」
レオンは掲示された依頼を見た。
【Fランク依頼:緑の洞窟の安全確認】
【報酬:銀貨5枚】
【依頼内容:最近発見された小規模ダンジョン「緑の洞窟」の入り口付近を調査し、魔物の種類と数を確認する】
「これなら一人でもできそうですね。この依頼を受けます」
「わかりました。では受付手続きをしますね」
手続きを済ませ、レオンはギルドを出た。町の装備店で簡素な剣と革の防具を購入し、準備を整えた。予算は限られていたが、勇者パーティー時代に少しずつ貯めていた資金があったため、最低限の装備は揃えられた。
「これで準備完了……と」
彼は町の外れにある「緑の洞窟」へと向かった。ギルドの説明によれば、この洞窟は最近の大雨で崩れた丘の下から現れたもので、まだ誰も深くまで探索していないという。
---
緑の洞窟は、名前の通り入り口周辺に青々とした苔が生い茂り、幻想的な雰囲気を醸し出していた。レオンは洞窟の前で深呼吸をした。
「よし、新しいスキルの実験だ」
彼は意識を集中させ、「神託解析」を発動した。すると視界が変化し、周囲の物体に情報が浮かび上がった。
【緑の洞窟】
【危険度:Fランク(入り口~100m)/Eランク(100m~300m)/不明(300m以深)】
【主な生息魔物:グリーンスライム、コケゴブリン、蝙蝠、他不明】
【特記事項:内部に古代文明の遺跡の痕跡あり】
「おお……すごい」
洞窟すら解析できることに驚きつつ、レオンは剣を抜いて中へと足を踏み入れた。
洞窟内部は予想以上に明るかった。壁に生えた発光コケが、淡い緑色の光で通路を照らしていた。彼は慎重に進みながら、周囲を警戒した。
「何かいるな……」
通路の先から、不規則な動きの気配がした。レオンは「神託解析」を使って先を見通した。
【グリーンスライム×3】
【Fランク魔物】
【特性:物理耐性(鈍器有効)、水属性弱点、頭部中央の核が弱点】
【行動パターン:接近→体当たり→粘液散布→再接近】
「弱点は……頭部中央の核か」
通常なら見分けるのが難しいスライムの弱点を、一瞥しただけで把握できる。これが「神託解析」の力か。レオンは小さく笑みを浮かべた。
そして、ゆっくりと前進。緑色の粘液質の生物——グリーンスライムが3体、通路を塞ぐように蠢いていた。彼らはレオンを見つけると、一斉に体を揺らして接近してきた。
「よし、行くぞ!」
レオンは剣を構え、最初のスライムに向かって突進した。通常なら、どこを攻撃すれば効果的かわからずに時間を無駄にするところだが、彼は躊躇なく最初のスライムの中央に剣を突き刺した。
「ギュルルル!」
悲鳴のような音を上げ、スライムは一撃で崩れ去った。
「一発で倒せるのか!」
残りの二体が体当たりを仕掛けてきたが、レオンは解析情報で得た行動パターンを先読みし、的確なタイミングで身をかわした。そして次々と二体のスライムの核を貫いた。
「はっ、はっ……」
戦いが終わり、レオンは少し息を切らせながらも笑みを浮かべた。今までの冒険なら、スライム三体相手でも苦戦していただろう。しかし「神託解析」のおかげで、弱点を的確に狙い、動きも予測できた。
「これは……すごい力だ」
地面に残された魔物の残骸から、小さな緑色の石——魔石を回収する。ギルドへの報告用の証拠品だ。
さらに奥へと進むと、今度はコケゴブリンの群れが待ち構えていた。緑色の体毛を持ち、苔で作った粗末な衣服を身につけたヒューマノイド型の魔物だ。
「神託解析!」
【コケゴブリン×5】
【Eランク魔物】
【特性:素早さ高、集団行動、火属性弱点、左胸下部(心臓位置)が弱点】
【行動パターン:包囲→交互攻撃→撤退→再包囲】
【装備:石の短剣(攻撃力低)、苔の盾(防御力低)】
【注意:リーダー(角が3本あるもの)を倒すと残りは逃走する】
「なるほど、リーダーを狙えばいいんだな」
レオンは群れの中から、角が3本あるゴブリンを素早く見つけた。通常なら見分けるのが難しいはずだが、解析情報のおかげで一目でわかる。
ゴブリンたちは「キキィ!」という奇声を上げながら、レオンを取り囲もうとした。しかし彼は最初から狙いを定めていた。
「そのパターン、お見通しだ!」
レオンはゴブリンたちが包囲を完成させる前に、思い切り突進。リーダーの左胸下部——心臓の位置に剣を突き刺した。
「ガァァッ!」
リーダーが絶命すると、残りのゴブリンたちは混乱し、悲鳴を上げながら洞窟の奥へと逃げ去った。
「解析通りだ……」
これほど楽に勝てるとは。レオンは自分の新しい力に驚きを隠せなかった。
さらに探索を続けると、洞窟は徐々に広がり、天井が高くなっていった。約100メートルほど進んだところで、空間が大きく開けた。
「ここは……」
そこには小さな地下湖があり、湖の向こう側には人工的に作られたような石壁があった。
「神託解析」
【古代遺跡の入り口】
【推定年代:大災厄以前(約2000年前)】
【危険度:不明(封印の痕跡あり)】
【注意:湖には"水棲の守護者"が潜んでいる可能性あり】
「水棲の守護者……?」
その瞬間、湖面が波打ち、大きな影が水中から浮上してきた。緑色の鱗に覆われた巨大な蛙のような生物。しかし頭部には鋭い角が生え、口からは鋭い牙が覗いていた。
「あ、やばい」
レオンは慌てて「神託解析」を使った。
【グレイトタドポール】
【Dランク魔物】
【特性:水中戦闘特化、強力な跳躍能力、雷属性弱点、喉の赤い斑点が弱点】
【行動パターン:跳躍→噛みつき→水中逃避→再跳躍】
【警戒:毒の粘液を吐く場合あり】
「Dランク!? まずいぞ、これは……!」
Dランクは一般的な冒険者パーティでも苦戦するレベルの脅威だ。レオンは一瞬、逃げることも考えたが、同時に自分の新しい力を試したいという気持ちも湧いてきた。
「弱点は喉の赤い斑点か……でも、どうやって近づく?」
グレイトタドポールは巨大な口を開け、レオンに向かって跳躍してきた。彼は咄嗟に横に転がり、攻撃をかわした。
「くっ、速い!」
魔物は着地するとすぐに体勢を立て直し、再び跳躍の姿勢を取った。レオンは周囲を見回し、作戦を練った。
「行動パターンは……跳躍→噛みつき→水中逃避→再跳躍……よし!」
次の跳躍をかわしながら、レオンは湖の縁に並んでいた尖った石を一つ拾い上げた。そして魔物が水中に逃避したタイミングを狙って、石を構えた。
「次は右側から来る……今だ!」
予測通り、魔物は水中から右側に飛び出してきた。口を大きく開いた瞬間、レオンは尖った石を思い切り投げ込んだ。
「ガァァァッ!」
石が喉の赤い斑点に命中し、魔物は激しく痙攣した。動きが鈍ったところを見計らって、レオンは剣を構え、魔物に突進。喉の赤い斑点めがけて渾身の一撃を放った。
「はああああっ!」
剣が魔物の弱点を貫き、グレイトタドポールは断末魔の悲鳴を上げて湖面に倒れ込んだ。
「はぁ……はぁ……やった……」
レオンは膝に手をつき、激しい戦いの疲労と高揚感で呼吸を整えた。Dランク魔物を一人で倒すなんて、普通なら考えられない。それが「神託解析」のおかげで実現した。
「これが『隠しクラス』の力か……」
戦利品として、魔物の角と、喉の赤い部分から取れた赤い宝石のような物体を回収した。ギルドの図鑑によれば、グレイトタドポールの「赤玉」は貴重な素材らしい。
「依頼は入り口の調査だけだったが……こんな収穫があるとは」
休息を取った後、レオンは湖の向こう側にある古代遺跡の入り口を簡単に調査した。扉には複雑な文様が刻まれ、明らかに封印のような魔法が施されていた。
「これ以上は危険そうだな。一旦引き返そう」
彼は来た道を戻り、洞窟から出た。太陽はまだ高く、昼過ぎといったところだった。
「一日で依頼完了か。なかなか順調だな」
レオンは満足げに微笑むと、町へと戻る道を歩き始めた。
---
「グレイトタドポールを倒した? 一人で?」
ギルドのカウンターで、マリアは目を丸くした。
「はい、まぐれですが」
レオンは謙遜しながら、収集した魔石と共に「赤玉」を提出した。
「これは……間違いなくグレイトタドポールの赤玉です。Dランク魔物の素材ですよ!」
マリアは興奮した様子で、奥の部屋から支部長らしき男性を呼んできた。
「こちらがその一般職の冒険者ですか?」
がっしりとした体格の中年男性——支部長のゼノンはレオンを上から下まで眺めた。
「Dランク魔物を一人で倒すとは……相当な実力者ですな」
「いえ、たまたま弱点を見つけられただけで……」
「謙遜する必要はない。実力は結果が証明する」
ゼノンはレオンのギルドカードを見て、眉を上げた。
「一般職……珍しいクラスだ。しかし、あなたのような例外的な実力者もいる。依頼報酬に加え、ボーナスとして赤玉の買取価格を上乗せしましょう」
「ありがとうございます!」
「さらに、あなたのランクをFからEに昇格させます。今後はEランク依頼も受けられますよ」
「え、そんな……ありがとうございます!」
予想外の展開に、レオンは戸惑いながらも喜びを隠せなかった。
「それと……」
ゼノンは周囲を見回し、声を低くした。
「あなたのような特殊な才能を持つ者は、上層部も注目している。今後も活躍を期待していますよ」
その言葉を残し、ゼノンは奥の部屋へと戻っていった。
「すごいですね、レオンさん! 初日からEランク昇格は聞いたことがありません」
マリアが報酬と書類を用意しながら言った。
「いやあ……本当に運が良かっただけです」
レオンは照れながらも、内心では「神託解析」の力に感謝していた。
---
その夜、宿の部屋でレオンは一日の出来事を振り返っていた。
「『神託解析』の力があれば、魔物の弱点も行動パターンも全てわかる……これは本当に強い」
彼はギルドカードを見つめた。クラス表示の横の「???」の部分は、他の人には見えていないようだった。
「『神域の賢者』……千年に一人の隠しクラスか」
窓の外の月明かりに照らされながら、レオンはふと考えた。
「女神アステリアは、なぜ俺にこの力を与えたんだろう?」
そして、もう一つ気になることがあった。
「あの古代遺跡は何だろう……『大災厄以前』って何だ?」
疑問は尽きなかったが、明日からの冒険に備えて早めに休むことにした。彼は寝床に入りながら、ふとギルドカードに表示されていた他のスキル名を思い出した。
「全知識吸収」「万物創造」「時空認識」……これらも覚醒するのだろうか。
目を閉じると、青い髪の女神アステリアの微笑む顔が脳裏に浮かんだ。
「また会えるのかな……」
その言葉を最後に、レオンは深い眠りに落ちていった。しかし彼は知らなかった。遠い場所から、星のような瞳を持つ女神が、彼の成長を見守っていることを。
「よき成長ぶりよ、我が選びし者よ……」
アステリアの囁きは風に乗り、レオンの耳には届かなかった。だが、彼の唇には無意識の内に小さな微笑みが浮かんでいた。
これが「神域の賢者」の旅路の、まだほんの始まりに過ぎないことを、誰も知る由もなかった。
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