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第4話 女神再臨!特別な祝福と新たな力
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夕暮れのグリーンウッドの町に、レオンは帰還した。ロックウッド村での活躍から二日が経ち、冒険者ギルドに報告に向かう彼の足取りは軽やかだった。
「お帰りなさい、レオンさん!」
ギルドの扉を開けると、いつもの明るい声でマリアが迎えてくれた。
「ただいま戻りました」
「ロックウッド村の依頼はどうでしたか?」
「無事解決してきました。灰色狼たちは毒草の影響で凶暴化していただけでした」
レオンが簡潔に報告を済ませると、奥からゼノン支部長が現れた。
「おお、レオン殿。よくやってくれた。村長からの感謝状も届いている。それに……」
彼は意味ありげな笑みを浮かべた。
「村人たちが口々に『一般職の賢者』と称えていたらしいな」
「そんな大げさな……」レオンは頬を赤らめた。
「あなたのような、頭脳で問題を解決できる冒険者は貴重です」とマリアが言った。「今日はゆっくり休んでください。明日には新しい依頼も入るでしょうから」
報酬を受け取り、ギルドを後にしたレオンは、町の宿屋「翠風亭」に戻った。二階の自室に入り、荷物を下ろすと、ため息とともにベッドに身を投げ出した。
「疲れたな……」
しかし満足感もあった。ロックウッド村の人々の笑顔が彼の疲労を吹き飛ばしてくれる。レオンは首からぶら下げていた「智慧の輝き」の髪飾りを手に取り、キラキラと光る銀の装飾を眺めた。
「不思議なアイテムだな……」
村で手に入れたこの髪飾りは、確かに「神託解析」の能力を高めているように感じる。情報がより鮮明に、より詳細に見えるようになった。
窓から差し込む月明かりの中、レオンはひとり考え事をしていた。女神アステリアとの出会い、隠しクラス「神域の賢者」の覚醒、そして今までの冒険。
「本当に……これでいいのだろうか」
彼は少し不安になった。勇者パーティを追い出されてから、確かに自分の力で人々を助けることができるようになった。だが、この世界の真実や、女神が彼を選んだ理由など、まだわからないことが多すぎる。
レオンは窓を開け、空に浮かぶ月を見上げた。
「アステリア様……また会えるのでしょうか」
そう呟いた瞬間、部屋の空気が変わった。微かな香りと共に、青い光が部屋の中心で揺らめき始めた。
「汝の呼ぶ声が聞こえたぞよ、レオン」
光が収束し、そこに女神アステリアの姿が現れた。前回よりもはっきりとした姿で、青い長い髪は宇宙の星々のように輝き、白い衣装は微かに風に揺れていた。
「ア、アステリア様!」
レオンは慌てて正座し、頭を下げた。
女神は微笑んだ。「そなたの成長ぶりは見事じゃ。わずか数日で『神託解析』を使いこなすとは」
「これも女神様のおかげです」
アステリアは部屋の中を静かに歩き回りながら、レオンを見つめた。
「ロックウッド村での活躍も見ていたぞ。戦わずして問題を解決するとは、賢明な判断じゃった」
「見ていたんですか?」レオンは驚いた。
「わらわはそなたを見守っておる。千年に一人の『神域の賢者』なれば、当然のことよ」
女神は窓際に立ち、月明かりを浴びた。その姿は幻想的で、まるで絵画のように美しかった。
「しかし、そなたの力はまだ眠っている。『神託解析』はほんの入り口に過ぎぬ」
「他にも力が……目覚めるのでしょうか」
アステリアは頷き、レオンに近づいた。
「そなたが身につけておるのは……」
彼女の視線が「智慧の輝き」に注がれた。
「古の遺物か。これは良きタイミングじゃ」
女神はレオンの前に跪き、彼の額に手を当てた。柔らかく温かな感触。彼は思わず息を呑んだ。
「汝の成長に応じ、より深き祝福を授けよう」
アステリアの手から青い光が溢れ、レオンの体を包み込んだ。不思議な感覚。体の中で何かが目覚めるような、力が解き放たれるような感覚。
「これは……」
光が消えると、ギルドカードが輝き始めた。レオンはカードを取り出し、表示を確認した。
【レオン・グレイ】
【クラス:一般職(???)】
【レベル:18】
【スキル:農業Lv2、料理Lv3、神託鑑定Lv2、???Lv2】
「レベルが上がっています。そして『神託解析』が……」
「レベル2に成長したのじゃ」アステリアが穏やかに告げた。「より深く、より広く世界を見通せるようになろう」
レオンは試しに「神託解析Lv2」を発動してみた。すると、これまで以上に鮮明な情報が視界に広がった。部屋の壁の向こう側にいる宿の客の気配まで感じ取れる。窓の外の夜空からは、星々の名前や位置関係までもが読み取れた。
「すごい……これまでよりずっと詳しく見えます」
アステリアは満足げに微笑んだ。「さらに、『智慧の輝き』との相乗効果で、そなたの解析能力は飛躍的に高まるだろう」
レオンは自分の力の変化に驚きながらも、重要な疑問を抱いていた。
「アステリア様、どうして私が『神域の賢者』に選ばれたのですか? そして、この力は何のために……」
女神の表情が少し曇った。
「すべてを今明かすわけにはいかぬ。だが、そなたに知っておいてほしいことがある」
彼女は窓の外を指差した。星空の彼方を見るような目で。
「この世界——ルミナスフィアは、表の歴史と裏の歴史を持つ」
「裏の歴史……?」
「かつて『大災厄』と呼ばれる出来事があった。人々の記憶から消された、神々と人間の戦いじゃ」
レオンは息を呑んだ。「緑の洞窟」で見た古代遺跡の情報と合致する。
「その戦いの結末として、世界は今の形になった。クラスシステム、魔物、王国、そして魔王……すべては『大災厄』後の産物じゃ」
「なぜそんな重要な歴史が隠されているのですか?」
アステリアは悲しげに目を伏せた。
「真実を知れば、世界は再び混乱に陥る。だが……」
彼女はレオンをまっすぐ見つめた。
「時が来れば、そなたはすべてを知ることになろう。そして選択を迫られる」
「選択……?」
「今は言えぬ。ただ、そなたの成長を見守り、導くことしかできぬ」
レオンは混乱したが、女神の言葉に深い意味があることを感じた。
「アステリア様、私はこの力で何をすべきなのでしょうか」
女神は優しく微笑んだ。
「汝自身の心に問うがよい。力の使い道は、与えられるものではなく、自ら見出すものじゃ」
そう言いながら、彼女はレオンの「智慧の輝き」に触れた。髪飾りが一瞬青く輝き、より鮮やかな銀色に変化した。
「わらわの祝福を込めた。これにより、汝の『神託解析』はさらに力を増すだろう」
レオンは感謝の意を込めて深く頭を下げた。
「ありがとうございます、アステリア様」
女神は立ち上がり、窓の方へ歩み寄った。月明かりに照らされたその姿は、少しずつ透明になっていった。
「そなたの旅はまだ始まったばかり。次なる試練は、王都への道の上にある」
「王都へ?」
「時が来れば、導きがあろう」
アステリアの姿が薄れていく中、彼女は最後にこう言った。
「レオン、そなたの存在は……わらわにとって特別じゃ」
その言葉と共に、彼女の姿は完全に消えた。部屋に残されたのは、かすかな花の香りと、青く光る「智慧の輝き」だけ。
「特別……」
レオンはその言葉を反芻した。女神にとって自分が特別な存在? それはどういう意味なのだろう。
彼は改めて「神託解析Lv2」を使って自分自身を見た。
【レオン・グレイ】
【真クラス:神域の賢者(隠蔽中)】
【表クラス:一般職】
【レベル:18】
【真スキル:神託解析Lv2(女神の祝福により強化)、全知識吸収Lv0(覚醒の兆候あり)、万物創造Lv0(未発現)、時空認識Lv0(未発現)】
【表スキル:農業Lv2、料理Lv3、雑貨鑑定Lv2】
【状態:女神の祝福(精神力+10、知性+15)、古代遺物の加護(解析精度+25%)】
「全知識吸収に覚醒の兆候……」
レオンは思わず手を胸に当てた。体の中で何かが変わり始めているのを感じる。「神託解析」の能力も向上し、より多くの情報が鮮明に見えるようになった。
女神の言葉が頭の中で響く。裏の歴史、大災厄、そして選択。
「何が待ち受けているんだろう……」
夜更けのグリーンウッドは静まり返り、レオンの部屋の窓から見える夜空には、数えきれないほどの星が瞬いていた。彼はこれからの旅路に思いを馳せながら、ゆっくりと目を閉じた。
---
翌朝、レオンは早くから冒険者ギルドを訪れていた。昨夜の女神の言葉が気になり、「王都への道」の手がかりを探していたのだ。
「おはようございます、レオンさん。今日も早いですね」
マリアが笑顔で迎えてくれた。
「何かお探しですか?」
「はい、王都方面の依頼があれば見てみたいのですが」
「王都ですか?」マリアは少し驚いた様子だった。「そういえば……」
彼女は掲示板の上部を指差した。
【Dランク依頼:王都への護衛任務】
【報酬:金貨5枚】
【依頼内容:王立魔法学院の学者ルートウィヒを王都まで護衛せよ】
「これは運命ですね」レオンは呟いた。
「でも、Dランクの依頼……少し難しいかもしれません」マリアは心配そうに言った。
「大丈夫です。挑戦させてください」
マリアが少し迷っている時、奥からゼノン支部長が現れた。
「レオン殿なら問題あるまい。彼の実力は、すでにDランクに匹敵する」
「支部長!」
「この依頼は魔法学院からの特別なものだ。実は私も学院の卒業生でね。依頼の内容をもう少し詳しく説明しよう」
ゼノンの案内で、レオンは奥の会議室に通された。そこには一人の老学者が待っていた。白髪と長い白ひげ、鋭い眼光を持つ男性だ。
「こちらがルートウィヒ教授だ。王立魔法学院の古代魔法学の権威だ」
「はじめまして、レオン・グレイと申します」
老学者は厳しい目でレオンを観察した。
「ふむ。一般職か。珍しいな」
その言葉に、レオンは少し緊張した。しかし、ルートウィヒは意外な言葉を続けた。
「しかし目がいい。知性を感じる。君に護衛を任せよう」
「ありがとうございます」
ゼノンが説明を始めた。「ルートウィヒ教授は古代遺跡の調査のためにグリーンウッド近郊に滞在していたが、今回重要な発見があり、急遽王都に戻ることになった。王都までの道のりは三日ほど。山道や森を通るため、魔物の襲撃の危険がある」
「私は戦いには向かない老骨だ」ルートウィヒが言った。「だが、この発見は王国にとって非常に重要だ。何としても王都の学院に持ち帰らねばならん」
レオンは頷いた。「全力で護衛させていただきます」
「出発は明朝だ」ルートウィヒは立ち上がった。「宿で準備を整えておくように」
老学者が去った後、ゼノンがレオンに近づいた。
「実はもう一つ。この依頼には裏の事情がある」
「裏の事情?」
「ルートウィヒ教授の発見した遺物を狙う者がいるらしい。単なる魔物ではなく、人間の手による襲撃の可能性もある」
レオンは眉をひそめた。「なぜそんな重要な情報を……」
「教授の判断だ。彼は『必要最小限の護衛で目立たず移動したい』と言っている。しかし危険は確実に存在する」
「わかりました。警戒を怠りません」
ゼノンは安堵の表情を見せた。「君なら大丈夫だろう。『一般職の賢者』と呼ばれる男だ」
レオンは苦笑しながらも、決意を新たにした。王都への道——女神アステリアの言った「次なる試練」はこれに違いない。
彼は準備に取り掛かることにした。装備を整え、「神託解析Lv2」で街の状況を確認し、旅の計画を練る。「智慧の輝き」を身につけ、その加護を感じながら。
この護衛任務が、彼の運命をどう変えるのか——レオンはまだ知らなかった。ただ、女神の言葉を信じ、自らの力を信じて前に進むだけだった。
夕暮れのグリーンウッド。レオンは宿屋の窓辺に立ち、遠く王都方面を眺めていた。
「王都への道……新たな冒険の始まりだ」
彼の胸の内には、不安と期待が入り混じっていた。だが、これが自分の進むべき道であることは確かだった。
明日から始まる王都への旅——それは彼の人生を大きく変える旅になるだろう。
「お帰りなさい、レオンさん!」
ギルドの扉を開けると、いつもの明るい声でマリアが迎えてくれた。
「ただいま戻りました」
「ロックウッド村の依頼はどうでしたか?」
「無事解決してきました。灰色狼たちは毒草の影響で凶暴化していただけでした」
レオンが簡潔に報告を済ませると、奥からゼノン支部長が現れた。
「おお、レオン殿。よくやってくれた。村長からの感謝状も届いている。それに……」
彼は意味ありげな笑みを浮かべた。
「村人たちが口々に『一般職の賢者』と称えていたらしいな」
「そんな大げさな……」レオンは頬を赤らめた。
「あなたのような、頭脳で問題を解決できる冒険者は貴重です」とマリアが言った。「今日はゆっくり休んでください。明日には新しい依頼も入るでしょうから」
報酬を受け取り、ギルドを後にしたレオンは、町の宿屋「翠風亭」に戻った。二階の自室に入り、荷物を下ろすと、ため息とともにベッドに身を投げ出した。
「疲れたな……」
しかし満足感もあった。ロックウッド村の人々の笑顔が彼の疲労を吹き飛ばしてくれる。レオンは首からぶら下げていた「智慧の輝き」の髪飾りを手に取り、キラキラと光る銀の装飾を眺めた。
「不思議なアイテムだな……」
村で手に入れたこの髪飾りは、確かに「神託解析」の能力を高めているように感じる。情報がより鮮明に、より詳細に見えるようになった。
窓から差し込む月明かりの中、レオンはひとり考え事をしていた。女神アステリアとの出会い、隠しクラス「神域の賢者」の覚醒、そして今までの冒険。
「本当に……これでいいのだろうか」
彼は少し不安になった。勇者パーティを追い出されてから、確かに自分の力で人々を助けることができるようになった。だが、この世界の真実や、女神が彼を選んだ理由など、まだわからないことが多すぎる。
レオンは窓を開け、空に浮かぶ月を見上げた。
「アステリア様……また会えるのでしょうか」
そう呟いた瞬間、部屋の空気が変わった。微かな香りと共に、青い光が部屋の中心で揺らめき始めた。
「汝の呼ぶ声が聞こえたぞよ、レオン」
光が収束し、そこに女神アステリアの姿が現れた。前回よりもはっきりとした姿で、青い長い髪は宇宙の星々のように輝き、白い衣装は微かに風に揺れていた。
「ア、アステリア様!」
レオンは慌てて正座し、頭を下げた。
女神は微笑んだ。「そなたの成長ぶりは見事じゃ。わずか数日で『神託解析』を使いこなすとは」
「これも女神様のおかげです」
アステリアは部屋の中を静かに歩き回りながら、レオンを見つめた。
「ロックウッド村での活躍も見ていたぞ。戦わずして問題を解決するとは、賢明な判断じゃった」
「見ていたんですか?」レオンは驚いた。
「わらわはそなたを見守っておる。千年に一人の『神域の賢者』なれば、当然のことよ」
女神は窓際に立ち、月明かりを浴びた。その姿は幻想的で、まるで絵画のように美しかった。
「しかし、そなたの力はまだ眠っている。『神託解析』はほんの入り口に過ぎぬ」
「他にも力が……目覚めるのでしょうか」
アステリアは頷き、レオンに近づいた。
「そなたが身につけておるのは……」
彼女の視線が「智慧の輝き」に注がれた。
「古の遺物か。これは良きタイミングじゃ」
女神はレオンの前に跪き、彼の額に手を当てた。柔らかく温かな感触。彼は思わず息を呑んだ。
「汝の成長に応じ、より深き祝福を授けよう」
アステリアの手から青い光が溢れ、レオンの体を包み込んだ。不思議な感覚。体の中で何かが目覚めるような、力が解き放たれるような感覚。
「これは……」
光が消えると、ギルドカードが輝き始めた。レオンはカードを取り出し、表示を確認した。
【レオン・グレイ】
【クラス:一般職(???)】
【レベル:18】
【スキル:農業Lv2、料理Lv3、神託鑑定Lv2、???Lv2】
「レベルが上がっています。そして『神託解析』が……」
「レベル2に成長したのじゃ」アステリアが穏やかに告げた。「より深く、より広く世界を見通せるようになろう」
レオンは試しに「神託解析Lv2」を発動してみた。すると、これまで以上に鮮明な情報が視界に広がった。部屋の壁の向こう側にいる宿の客の気配まで感じ取れる。窓の外の夜空からは、星々の名前や位置関係までもが読み取れた。
「すごい……これまでよりずっと詳しく見えます」
アステリアは満足げに微笑んだ。「さらに、『智慧の輝き』との相乗効果で、そなたの解析能力は飛躍的に高まるだろう」
レオンは自分の力の変化に驚きながらも、重要な疑問を抱いていた。
「アステリア様、どうして私が『神域の賢者』に選ばれたのですか? そして、この力は何のために……」
女神の表情が少し曇った。
「すべてを今明かすわけにはいかぬ。だが、そなたに知っておいてほしいことがある」
彼女は窓の外を指差した。星空の彼方を見るような目で。
「この世界——ルミナスフィアは、表の歴史と裏の歴史を持つ」
「裏の歴史……?」
「かつて『大災厄』と呼ばれる出来事があった。人々の記憶から消された、神々と人間の戦いじゃ」
レオンは息を呑んだ。「緑の洞窟」で見た古代遺跡の情報と合致する。
「その戦いの結末として、世界は今の形になった。クラスシステム、魔物、王国、そして魔王……すべては『大災厄』後の産物じゃ」
「なぜそんな重要な歴史が隠されているのですか?」
アステリアは悲しげに目を伏せた。
「真実を知れば、世界は再び混乱に陥る。だが……」
彼女はレオンをまっすぐ見つめた。
「時が来れば、そなたはすべてを知ることになろう。そして選択を迫られる」
「選択……?」
「今は言えぬ。ただ、そなたの成長を見守り、導くことしかできぬ」
レオンは混乱したが、女神の言葉に深い意味があることを感じた。
「アステリア様、私はこの力で何をすべきなのでしょうか」
女神は優しく微笑んだ。
「汝自身の心に問うがよい。力の使い道は、与えられるものではなく、自ら見出すものじゃ」
そう言いながら、彼女はレオンの「智慧の輝き」に触れた。髪飾りが一瞬青く輝き、より鮮やかな銀色に変化した。
「わらわの祝福を込めた。これにより、汝の『神託解析』はさらに力を増すだろう」
レオンは感謝の意を込めて深く頭を下げた。
「ありがとうございます、アステリア様」
女神は立ち上がり、窓の方へ歩み寄った。月明かりに照らされたその姿は、少しずつ透明になっていった。
「そなたの旅はまだ始まったばかり。次なる試練は、王都への道の上にある」
「王都へ?」
「時が来れば、導きがあろう」
アステリアの姿が薄れていく中、彼女は最後にこう言った。
「レオン、そなたの存在は……わらわにとって特別じゃ」
その言葉と共に、彼女の姿は完全に消えた。部屋に残されたのは、かすかな花の香りと、青く光る「智慧の輝き」だけ。
「特別……」
レオンはその言葉を反芻した。女神にとって自分が特別な存在? それはどういう意味なのだろう。
彼は改めて「神託解析Lv2」を使って自分自身を見た。
【レオン・グレイ】
【真クラス:神域の賢者(隠蔽中)】
【表クラス:一般職】
【レベル:18】
【真スキル:神託解析Lv2(女神の祝福により強化)、全知識吸収Lv0(覚醒の兆候あり)、万物創造Lv0(未発現)、時空認識Lv0(未発現)】
【表スキル:農業Lv2、料理Lv3、雑貨鑑定Lv2】
【状態:女神の祝福(精神力+10、知性+15)、古代遺物の加護(解析精度+25%)】
「全知識吸収に覚醒の兆候……」
レオンは思わず手を胸に当てた。体の中で何かが変わり始めているのを感じる。「神託解析」の能力も向上し、より多くの情報が鮮明に見えるようになった。
女神の言葉が頭の中で響く。裏の歴史、大災厄、そして選択。
「何が待ち受けているんだろう……」
夜更けのグリーンウッドは静まり返り、レオンの部屋の窓から見える夜空には、数えきれないほどの星が瞬いていた。彼はこれからの旅路に思いを馳せながら、ゆっくりと目を閉じた。
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翌朝、レオンは早くから冒険者ギルドを訪れていた。昨夜の女神の言葉が気になり、「王都への道」の手がかりを探していたのだ。
「おはようございます、レオンさん。今日も早いですね」
マリアが笑顔で迎えてくれた。
「何かお探しですか?」
「はい、王都方面の依頼があれば見てみたいのですが」
「王都ですか?」マリアは少し驚いた様子だった。「そういえば……」
彼女は掲示板の上部を指差した。
【Dランク依頼:王都への護衛任務】
【報酬:金貨5枚】
【依頼内容:王立魔法学院の学者ルートウィヒを王都まで護衛せよ】
「これは運命ですね」レオンは呟いた。
「でも、Dランクの依頼……少し難しいかもしれません」マリアは心配そうに言った。
「大丈夫です。挑戦させてください」
マリアが少し迷っている時、奥からゼノン支部長が現れた。
「レオン殿なら問題あるまい。彼の実力は、すでにDランクに匹敵する」
「支部長!」
「この依頼は魔法学院からの特別なものだ。実は私も学院の卒業生でね。依頼の内容をもう少し詳しく説明しよう」
ゼノンの案内で、レオンは奥の会議室に通された。そこには一人の老学者が待っていた。白髪と長い白ひげ、鋭い眼光を持つ男性だ。
「こちらがルートウィヒ教授だ。王立魔法学院の古代魔法学の権威だ」
「はじめまして、レオン・グレイと申します」
老学者は厳しい目でレオンを観察した。
「ふむ。一般職か。珍しいな」
その言葉に、レオンは少し緊張した。しかし、ルートウィヒは意外な言葉を続けた。
「しかし目がいい。知性を感じる。君に護衛を任せよう」
「ありがとうございます」
ゼノンが説明を始めた。「ルートウィヒ教授は古代遺跡の調査のためにグリーンウッド近郊に滞在していたが、今回重要な発見があり、急遽王都に戻ることになった。王都までの道のりは三日ほど。山道や森を通るため、魔物の襲撃の危険がある」
「私は戦いには向かない老骨だ」ルートウィヒが言った。「だが、この発見は王国にとって非常に重要だ。何としても王都の学院に持ち帰らねばならん」
レオンは頷いた。「全力で護衛させていただきます」
「出発は明朝だ」ルートウィヒは立ち上がった。「宿で準備を整えておくように」
老学者が去った後、ゼノンがレオンに近づいた。
「実はもう一つ。この依頼には裏の事情がある」
「裏の事情?」
「ルートウィヒ教授の発見した遺物を狙う者がいるらしい。単なる魔物ではなく、人間の手による襲撃の可能性もある」
レオンは眉をひそめた。「なぜそんな重要な情報を……」
「教授の判断だ。彼は『必要最小限の護衛で目立たず移動したい』と言っている。しかし危険は確実に存在する」
「わかりました。警戒を怠りません」
ゼノンは安堵の表情を見せた。「君なら大丈夫だろう。『一般職の賢者』と呼ばれる男だ」
レオンは苦笑しながらも、決意を新たにした。王都への道——女神アステリアの言った「次なる試練」はこれに違いない。
彼は準備に取り掛かることにした。装備を整え、「神託解析Lv2」で街の状況を確認し、旅の計画を練る。「智慧の輝き」を身につけ、その加護を感じながら。
この護衛任務が、彼の運命をどう変えるのか——レオンはまだ知らなかった。ただ、女神の言葉を信じ、自らの力を信じて前に進むだけだった。
夕暮れのグリーンウッド。レオンは宿屋の窓辺に立ち、遠く王都方面を眺めていた。
「王都への道……新たな冒険の始まりだ」
彼の胸の内には、不安と期待が入り混じっていた。だが、これが自分の進むべき道であることは確かだった。
明日から始まる王都への旅——それは彼の人生を大きく変える旅になるだろう。
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パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
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勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
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彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
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