7 / 24
第7話 強くなりすぎて収集がつかない!?王国冒険者選抜試験開幕
しおりを挟む
「さあ、見えてきましたよ! あれが王都ソレイユです」
嵐峠を越え、王立森林を抜けたレオンとルートウィヒ教授の前に、巨大な白亜の城壁に囲まれた都市が姿を現した。太陽の光を受けて輝く黄金の屋根と高くそびえる塔が、その名の通り「太陽の都」の名にふさわしい光景だった。
「壮観だな」
レオンは思わず息を呑んだ。グリーンウッドやローゼンのような小さな町しか知らない彼にとって、王都の規模と美しさは圧倒的だった。
「初めて見るならそうだろうな」
教授は懐かしむように微笑んだ。「私の第二の故郷だ。ここで何十年も研究を続けてきた」
二人は南門から王都に入った。厳重な警備をくぐり抜け、身分証明書の確認を終えると、そこには全く別の世界が広がっていた。石畳の道路、整然と並ぶ建物、様々な服装の人々、そして騒々しい市場の声。
---
王立魔法学院の教授の研究室で、レオンは古代の書物「賢者の手記」を受け取った。
「これは『賢者の手記』といって、大災厄以前の断片的な記録だ。一般には公開していない貴重な資料だが、君なら役立てるだろう」
「本当にいいのですか?」
「ああ。君の『全知識吸収』の能力があれば、この価値を最大限に引き出せるはずだ」
教授は立ち上がり、壁に貼られた告知を指さした。
【王国冒険者選抜試験 参加者募集】
【開催日:明後日より三日間】
【場所:王都競技場および王立森林特設会場】
【参加資格:王国公認の冒険者(ランク制限なし)】
【賞金:金貨100枚および特別称号授与】
「王国冒険者選抜試験?」
「年に一度の大イベントだ。王国中から有力な冒険者が集まり、腕を競う。優勝者には高額な賞金と共に、王宮での晩餐会への招待がある」
レオンは考え込んだ。「私のような一般職でも参加できるのですか?」
「ランク制限はないからな。ただし、参加するなら今日中にギルドで手続きする必要がある」
教授はニヤリと笑った。「君なら、『一般職の賢者』として大いに話題になるだろう」
---
王都中央区画にある冒険者ギルド本部は、レオンが今まで見たどのギルドとも比べ物にならないほど壮大だった。三階建ての石造りの建物には、王国の紋章が掲げられ、入り口には常に冒険者の行列ができていた。
受付嬢のリーナは、レオンからカードを受け取ると、専用の魔法装置にかざした。
「レオン・グレイ様、クラスは一般職、現在のランクはEですね」
彼女は情報を確認し、突然目を見開いた。
「あの……もしかして、『一般職の賢者』と呼ばれる方ですか?」
レオンは少し驚いた。「そう呼ばれることもありますが……」
「やはり! グリーン・マンティコアを単独で倒したという報告が本部にも届いています」
リーナの声が少し大きくなり、周囲の冒険者たちが振り返った。囁き声が広がる中、レオンは居心地の悪さを感じた。手続きを済ませ、彼は選抜試験への参加も登録した。
---
翌日の説明会で、レオンは周囲の冒険者たちを観察していた。「神託解析」で見ると、その多くがCランク以上の実力者だと判明する。中には数名のAランク冒険者もいた。
「おい、お前が噂の『一般職の賢者』か?」
突然、隣に座っていた筋骨隆々とした男性が話しかけてきた。鎧に刻まれた紋章から、彼は「鉄拳団」という有名な冒険者ギルドの一員だとわかる。
「はい、レオン・グレイです」
「へえ、若いな。俺はガロン、鉄拳団の団長だ。Bランクの重戦士さ」
ガロンは力強い手を差し出した。レオンはそれを握り返す。
「一般職でCランク魔物を倒したって話は本当か?」
「はい、運が良かっただけですが」
「謙遜するねえ。でも、試験は別次元だぞ。王国中から腕利きが集まる。特に今年は『蒼炎の剣士』ヴァレンも参加するらしい」
「蒼炎の剣士?」
「知らないのか? Aランク上位の剣士だ。青い炎の魔法剣を使う。昨年は惜しくも準優勝だったが、今年は優勝候補の筆頭だよ」
説明会を出る際、レオンは嵐峠で出会った弓術師のシルヴィアと再会した。
「やあ、レオン! やっぱり参加するんだな」
「シルヴィアさん! 無事に戻られたんですね」
彼女は近づいてきて、小声で言った。「あなたの噂でもちきりよ。『一般職の賢者』が参加するって。特に上位ランクの冒険者たちは警戒してるわ」
「僕なんかより、『蒼炎の剣士』とかのほうが注目されるでしょう」
「そうとも言えないわ。未知の力は恐れられるものよ」
シルヴィアの言葉は的を射ていた。実際、壁際で腕組みをして彼を見つめる青い髪の男性——恐らく噂の「蒼炎の剣士」ヴァレン——の視線は鋭く、挑戦的ですらあった。
---
試験初日、王立森林の特設エリアに参加者たちが集まった。第一段階「魔物討伐数競争」では、制限時間内にできるだけ多くの魔物を倒すことが求められる。
「制限時間は六時間! 森の中央にある『回収ポイント』に討伐証拠を提出してください。安全のため、他の参加者との戦闘は禁止です!」
運営責任者のヘルマンが号砲を鳴らし、冒険者たちが一斉に森へと駆け込んだ。
レオンも走り出した。「神託解析」で森の地形を読み取りながら、効率的なルートを選ぶ。他の冒険者が集中しそうな中央部を避け、東側の湿地帯を目指した。
「あそこなら、水棲魔物が多いはずだ」
予想通り、湿地帯には「沼ガエル」や「水蛭蟲(みずひるむし)」といったFランク魔物が大量に生息していた。レオンは「神託解析」で各魔物の弱点を即座に見抜き、素早く効率的に討伐していく。
一時間もしないうちに、彼の袋は討伐証拠でふくらんでいた。中央の回収ポイントで最初の成果を提出すると、記録係は驚いた様子で記録した。
「レオン・グレイ、第一回収分として、Fランク魔物三十二体分の証拠品を確認。これは…かなりのペースですね」
第二ラウンドで森の中ほどまで進むと、レオンは青い炎の光を目にした。「蒼炎の剣士」ヴァレンだ。彼は青い炎をまとった剣で、複数の「針獣」を一度に倒していた。
「おい、お前が噂の『一般職の賢者』か?」
彼の声は低く、威圧感があった。
「はい、レオン・グレイです」
ヴァレンはさっと剣を振るい、レオンの背後の茂みを切り裂いた。そこには潜んでいたDランク魔物「影猫」がいた。
「どうした? 気づかなかったのか?」
レオンは冷静に答えた。「いえ、気づいていました。ただ、あなたが先に行動されたので」
実は「神託解析」でとっくに「影猫」の存在を察知していたのだ。
ヴァレンの目が細くなった。「ほう……本当に一般職なのか? その目は何かを見ている。通常とは違う何かをな」
「まあいい。最終段階まで勝ち進めば、答えは自ずとわかるだろう」
ヴァレンは去り際、最後にこう言った。「期待しているぞ、『賢者』」
---
午後が深まるにつれ、レオンはさらに奥地へと進んだ。森の最深部に近づくと、突然の悲鳴が聞こえた。
「誰か助けて!」
大きな岩場の前で、若い女性冒険者が「赤鱗竜(あかうろこりゅう)」に追い詰められていた。Cランクの危険な魔物で、その強靭な鱗と炎の息が特徴だ。
「神託解析」で魔物の弱点を即座に把握したレオンは、女性冒険者に逃げるよう指示し、赤鱗竜の注意を引いた。魔物が炎の息を吐く瞬間を見極め、側面から回り込んで尾の付け根を攻撃。バランスを崩した魔物の喉の下の青い斑点を狙って渾身の一撃を放った。
「おりゃあっ!」
剣が魔物の弱点を貫き、赤鱗竜は断末魔の叫びを上げて倒れた。
「す、すごい……一太刀で……」
岩の隙間から出てきた女性冒険者が、信じられない様子で呟いた。彼女はマリーと名乗り、王都ギルドのEランク冒険者だという。
「噂通りね! 赤鱗竜を一人であんなに簡単に倒すなんて、本当にすごい!」
二回目の提出では、レオンはEランク魔物二十体とCランク魔物一体の討伐証拠を記録した。
「これは…暫定首位です!」
記録係は驚きを隠さなかった。周囲の冒険者たちもレオンを注目の眼差しで見ていた。
最後の討伐時間、彼は遠くで青い光が煌めくのを見た。ヴァレンの魔法剣の光だ。「神託解析」で確認すると、「巨角獣(きょかくじゅう)」——Bランク下位の強力な魔物——と戦うヴァレンの姿が見えた。
レオンは自分のやるべきことに集中し、残り時間を有効に使った。日が沈み始め、終了の合図が鳴り響いたとき、彼の最終成績は驚異的なものだった。
Fランク魔物五十二体、Eランク魔物二十五体、Dランク魔物八体、Cランク魔物二体——これは合計点でトップクラスの成績だった。
「レオン・グレイ、総合ポイント235点! 現在の暫定順位は……第一位です!」
会場がざわめいた。「一般職」の冒険者が首位に立つという前代未聞の事態に、誰もが驚きの声を上げた。
「まだヴァレン様が戻っていませんが……」
その言葉が終わらないうち、森の奥から青い光を放ちながらヴァレンが現れた。彼の肩には巨角獣の角が担がれていた。
「Bランク魔物の討伐証拠! これは単独では……」
記録係は興奮した様子で記録を取った。「ヴァレン様、総合ポイント242点! 第一位です!」
僅差で首位を譲ったレオンだったが、笑顔で拍手した。ヴァレンは彼に視線を送り、小さく頷いた。それは認めたという意思表示にも見えた。
第一日目の試験が終わり、結果が発表された。上位十名が第二段階「迷宮突破競争」に進出する。
「明日の第二段階進出者を発表します! 第一位、ヴァレン! 第二位、レオン・グレイ!」
レオンの名前が呼ばれると、会場から驚きと賞賛の声が上がった。
「『一般職の賢者』、第二位だって!」
「あの若者、本当に一般職なのか?」
「これは面白くなってきたぞ!」
宿に戻る道すがら、レオンは複雑な気分だった。目立ちすぎているという自覚と、同時に力を発揮できた満足感。そして何より、明日の試験への期待と緊張が入り混じっていた。
「強くなりすぎて収集がつかない……か」
彼は自分の成長の速さに、時々戸惑いを感じていた。勇者パーティを追放されてからまだ一月も経っていないというのに、今や王国最大の試験で二位につけている。
宿の窓から見える王都の夜景を眺めながら、レオンは明日に向けた決意を新たにした。彼の真の実力が試される「迷宮突破競争」——それは単なる迷路探索ではなく、様々な仕掛けと試練が待ち受ける難関だという。
「明日も全力を尽くそう」
レオンは「智慧の輝き」の髪飾りに触れながら、静かに目を閉じた。遠くの空の向こうで、女神アステリアが彼の活躍を見守っているような気がした。
嵐峠を越え、王立森林を抜けたレオンとルートウィヒ教授の前に、巨大な白亜の城壁に囲まれた都市が姿を現した。太陽の光を受けて輝く黄金の屋根と高くそびえる塔が、その名の通り「太陽の都」の名にふさわしい光景だった。
「壮観だな」
レオンは思わず息を呑んだ。グリーンウッドやローゼンのような小さな町しか知らない彼にとって、王都の規模と美しさは圧倒的だった。
「初めて見るならそうだろうな」
教授は懐かしむように微笑んだ。「私の第二の故郷だ。ここで何十年も研究を続けてきた」
二人は南門から王都に入った。厳重な警備をくぐり抜け、身分証明書の確認を終えると、そこには全く別の世界が広がっていた。石畳の道路、整然と並ぶ建物、様々な服装の人々、そして騒々しい市場の声。
---
王立魔法学院の教授の研究室で、レオンは古代の書物「賢者の手記」を受け取った。
「これは『賢者の手記』といって、大災厄以前の断片的な記録だ。一般には公開していない貴重な資料だが、君なら役立てるだろう」
「本当にいいのですか?」
「ああ。君の『全知識吸収』の能力があれば、この価値を最大限に引き出せるはずだ」
教授は立ち上がり、壁に貼られた告知を指さした。
【王国冒険者選抜試験 参加者募集】
【開催日:明後日より三日間】
【場所:王都競技場および王立森林特設会場】
【参加資格:王国公認の冒険者(ランク制限なし)】
【賞金:金貨100枚および特別称号授与】
「王国冒険者選抜試験?」
「年に一度の大イベントだ。王国中から有力な冒険者が集まり、腕を競う。優勝者には高額な賞金と共に、王宮での晩餐会への招待がある」
レオンは考え込んだ。「私のような一般職でも参加できるのですか?」
「ランク制限はないからな。ただし、参加するなら今日中にギルドで手続きする必要がある」
教授はニヤリと笑った。「君なら、『一般職の賢者』として大いに話題になるだろう」
---
王都中央区画にある冒険者ギルド本部は、レオンが今まで見たどのギルドとも比べ物にならないほど壮大だった。三階建ての石造りの建物には、王国の紋章が掲げられ、入り口には常に冒険者の行列ができていた。
受付嬢のリーナは、レオンからカードを受け取ると、専用の魔法装置にかざした。
「レオン・グレイ様、クラスは一般職、現在のランクはEですね」
彼女は情報を確認し、突然目を見開いた。
「あの……もしかして、『一般職の賢者』と呼ばれる方ですか?」
レオンは少し驚いた。「そう呼ばれることもありますが……」
「やはり! グリーン・マンティコアを単独で倒したという報告が本部にも届いています」
リーナの声が少し大きくなり、周囲の冒険者たちが振り返った。囁き声が広がる中、レオンは居心地の悪さを感じた。手続きを済ませ、彼は選抜試験への参加も登録した。
---
翌日の説明会で、レオンは周囲の冒険者たちを観察していた。「神託解析」で見ると、その多くがCランク以上の実力者だと判明する。中には数名のAランク冒険者もいた。
「おい、お前が噂の『一般職の賢者』か?」
突然、隣に座っていた筋骨隆々とした男性が話しかけてきた。鎧に刻まれた紋章から、彼は「鉄拳団」という有名な冒険者ギルドの一員だとわかる。
「はい、レオン・グレイです」
「へえ、若いな。俺はガロン、鉄拳団の団長だ。Bランクの重戦士さ」
ガロンは力強い手を差し出した。レオンはそれを握り返す。
「一般職でCランク魔物を倒したって話は本当か?」
「はい、運が良かっただけですが」
「謙遜するねえ。でも、試験は別次元だぞ。王国中から腕利きが集まる。特に今年は『蒼炎の剣士』ヴァレンも参加するらしい」
「蒼炎の剣士?」
「知らないのか? Aランク上位の剣士だ。青い炎の魔法剣を使う。昨年は惜しくも準優勝だったが、今年は優勝候補の筆頭だよ」
説明会を出る際、レオンは嵐峠で出会った弓術師のシルヴィアと再会した。
「やあ、レオン! やっぱり参加するんだな」
「シルヴィアさん! 無事に戻られたんですね」
彼女は近づいてきて、小声で言った。「あなたの噂でもちきりよ。『一般職の賢者』が参加するって。特に上位ランクの冒険者たちは警戒してるわ」
「僕なんかより、『蒼炎の剣士』とかのほうが注目されるでしょう」
「そうとも言えないわ。未知の力は恐れられるものよ」
シルヴィアの言葉は的を射ていた。実際、壁際で腕組みをして彼を見つめる青い髪の男性——恐らく噂の「蒼炎の剣士」ヴァレン——の視線は鋭く、挑戦的ですらあった。
---
試験初日、王立森林の特設エリアに参加者たちが集まった。第一段階「魔物討伐数競争」では、制限時間内にできるだけ多くの魔物を倒すことが求められる。
「制限時間は六時間! 森の中央にある『回収ポイント』に討伐証拠を提出してください。安全のため、他の参加者との戦闘は禁止です!」
運営責任者のヘルマンが号砲を鳴らし、冒険者たちが一斉に森へと駆け込んだ。
レオンも走り出した。「神託解析」で森の地形を読み取りながら、効率的なルートを選ぶ。他の冒険者が集中しそうな中央部を避け、東側の湿地帯を目指した。
「あそこなら、水棲魔物が多いはずだ」
予想通り、湿地帯には「沼ガエル」や「水蛭蟲(みずひるむし)」といったFランク魔物が大量に生息していた。レオンは「神託解析」で各魔物の弱点を即座に見抜き、素早く効率的に討伐していく。
一時間もしないうちに、彼の袋は討伐証拠でふくらんでいた。中央の回収ポイントで最初の成果を提出すると、記録係は驚いた様子で記録した。
「レオン・グレイ、第一回収分として、Fランク魔物三十二体分の証拠品を確認。これは…かなりのペースですね」
第二ラウンドで森の中ほどまで進むと、レオンは青い炎の光を目にした。「蒼炎の剣士」ヴァレンだ。彼は青い炎をまとった剣で、複数の「針獣」を一度に倒していた。
「おい、お前が噂の『一般職の賢者』か?」
彼の声は低く、威圧感があった。
「はい、レオン・グレイです」
ヴァレンはさっと剣を振るい、レオンの背後の茂みを切り裂いた。そこには潜んでいたDランク魔物「影猫」がいた。
「どうした? 気づかなかったのか?」
レオンは冷静に答えた。「いえ、気づいていました。ただ、あなたが先に行動されたので」
実は「神託解析」でとっくに「影猫」の存在を察知していたのだ。
ヴァレンの目が細くなった。「ほう……本当に一般職なのか? その目は何かを見ている。通常とは違う何かをな」
「まあいい。最終段階まで勝ち進めば、答えは自ずとわかるだろう」
ヴァレンは去り際、最後にこう言った。「期待しているぞ、『賢者』」
---
午後が深まるにつれ、レオンはさらに奥地へと進んだ。森の最深部に近づくと、突然の悲鳴が聞こえた。
「誰か助けて!」
大きな岩場の前で、若い女性冒険者が「赤鱗竜(あかうろこりゅう)」に追い詰められていた。Cランクの危険な魔物で、その強靭な鱗と炎の息が特徴だ。
「神託解析」で魔物の弱点を即座に把握したレオンは、女性冒険者に逃げるよう指示し、赤鱗竜の注意を引いた。魔物が炎の息を吐く瞬間を見極め、側面から回り込んで尾の付け根を攻撃。バランスを崩した魔物の喉の下の青い斑点を狙って渾身の一撃を放った。
「おりゃあっ!」
剣が魔物の弱点を貫き、赤鱗竜は断末魔の叫びを上げて倒れた。
「す、すごい……一太刀で……」
岩の隙間から出てきた女性冒険者が、信じられない様子で呟いた。彼女はマリーと名乗り、王都ギルドのEランク冒険者だという。
「噂通りね! 赤鱗竜を一人であんなに簡単に倒すなんて、本当にすごい!」
二回目の提出では、レオンはEランク魔物二十体とCランク魔物一体の討伐証拠を記録した。
「これは…暫定首位です!」
記録係は驚きを隠さなかった。周囲の冒険者たちもレオンを注目の眼差しで見ていた。
最後の討伐時間、彼は遠くで青い光が煌めくのを見た。ヴァレンの魔法剣の光だ。「神託解析」で確認すると、「巨角獣(きょかくじゅう)」——Bランク下位の強力な魔物——と戦うヴァレンの姿が見えた。
レオンは自分のやるべきことに集中し、残り時間を有効に使った。日が沈み始め、終了の合図が鳴り響いたとき、彼の最終成績は驚異的なものだった。
Fランク魔物五十二体、Eランク魔物二十五体、Dランク魔物八体、Cランク魔物二体——これは合計点でトップクラスの成績だった。
「レオン・グレイ、総合ポイント235点! 現在の暫定順位は……第一位です!」
会場がざわめいた。「一般職」の冒険者が首位に立つという前代未聞の事態に、誰もが驚きの声を上げた。
「まだヴァレン様が戻っていませんが……」
その言葉が終わらないうち、森の奥から青い光を放ちながらヴァレンが現れた。彼の肩には巨角獣の角が担がれていた。
「Bランク魔物の討伐証拠! これは単独では……」
記録係は興奮した様子で記録を取った。「ヴァレン様、総合ポイント242点! 第一位です!」
僅差で首位を譲ったレオンだったが、笑顔で拍手した。ヴァレンは彼に視線を送り、小さく頷いた。それは認めたという意思表示にも見えた。
第一日目の試験が終わり、結果が発表された。上位十名が第二段階「迷宮突破競争」に進出する。
「明日の第二段階進出者を発表します! 第一位、ヴァレン! 第二位、レオン・グレイ!」
レオンの名前が呼ばれると、会場から驚きと賞賛の声が上がった。
「『一般職の賢者』、第二位だって!」
「あの若者、本当に一般職なのか?」
「これは面白くなってきたぞ!」
宿に戻る道すがら、レオンは複雑な気分だった。目立ちすぎているという自覚と、同時に力を発揮できた満足感。そして何より、明日の試験への期待と緊張が入り混じっていた。
「強くなりすぎて収集がつかない……か」
彼は自分の成長の速さに、時々戸惑いを感じていた。勇者パーティを追放されてからまだ一月も経っていないというのに、今や王国最大の試験で二位につけている。
宿の窓から見える王都の夜景を眺めながら、レオンは明日に向けた決意を新たにした。彼の真の実力が試される「迷宮突破競争」——それは単なる迷路探索ではなく、様々な仕掛けと試練が待ち受ける難関だという。
「明日も全力を尽くそう」
レオンは「智慧の輝き」の髪飾りに触れながら、静かに目を閉じた。遠くの空の向こうで、女神アステリアが彼の活躍を見守っているような気がした。
174
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました
Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である!
主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない!
旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む!
基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。
王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる