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第12話 王都を震撼!決勝戦と襲撃、そして隠された力の目覚め
しおりを挟む競技場が混乱に包まれる中、黒装束の集団が次々と観客席から飛び出してきた。彼らは円形に配置され、中央を囲む形で陣を取った。
「いかなる愚かな真似だ!」
国王バイロンが立ち上がり、怒りの声を上げた。王国騎士団が素早く国王と王女を守る態勢を取る。
「陛下、『星のルーン』をお渡しください」
黒装束のリーダーが前に出て、高らかに宣言した。彼の声は競技場全体に響き渡る。
「さもなくば、この場にいる全ての者の命はない。すでに競技場の各所に魔法爆弾を仕掛けてある」
「なんと無礼な!」
国王の怒りに、リーダーは冷ややかに笑った。「無礼だとお怒りか? 陛下。我々は単に、古からの約束を果たそうとしているだけだ」
この混乱の中、レオンとアレンは目配せし、状況を把握しようとしていた。
「神託解析」
レオンの視界に情報が浮かび上がる。黒装束は全部で十五人。そのうち五人は高位の魔道士のようだ。そして競技場の四隅に確かに魔法爆弾が設置されていることも確認できた。
一方、アレンの聖剣が青白く輝き始めていた。彼もまた、戦闘準備を整えている。
「レオン、作戦は?」
「爆弾を無効化しつつ、彼らを倒さなければなりません。ですが……」
レオンの「神託解析」が、黒装束のリーダーに向けられた。
【黒装束のリーダー】
【不明な魔力:通常の人間を超えた力を持つ】
【警告:古代の闇の影響を受けている】
【目的:「星のルーン」と「神域の賢者」の力を奪取】
「彼らの狙いは『星のルーン』だけではない。私自身も狙っているようです」
「何だと?」
「説明している時間はありません。アレン、あなたは右側の爆弾を。私は左側を無効化します」
二人は頷き合い、素早く動き始めた。その時、突然、観客席から矢が放たれた。シルヴィアだ。彼女の矢が黒装束の一人を射抜く。
「援軍だ!」
続いてヴァレンが青い炎の剣を手に飛び出し、別の黒装束と交戦を始めた。さらに、鉄拳団のガロンも巨大な斧を振るいながら参戦。混乱は一気に戦闘へと発展した。
「愚か者どもめ!」
リーダーが叫び、黒い魔力を纏った手を天に掲げた。すると、競技場の上空に暗雲が渦巻き始める。
「おのれ!」
アレンが聖剣を掲げ、リーダーに突進した。しかし、リーダーは片手で彼の攻撃を受け止める。
「勇者か。聖なる力を持つとはいえ、我らには通じぬ」
彼の手から黒い炎が放たれ、アレンは吹き飛ばされた。
「アレン!」
レオンが叫ぶが、彼には爆弾を無効化する任務がある。「神託解析」で爆弾の仕組みを見抜きながら、競技場の隅へと走る。
「させるか!」
黒装束の二人が彼の行く手を阻んだ。レオンは「全知識吸収」で得た剣技を駆使し、二人を素早く倒す。彼の動きは以前にも増して洗練されており、「智慧の輝き」が青く輝いている。
ようやく爆弾に到着したレオンは、「神託解析」でその構造を完全に把握した。魔力の流れを遮断する必要がある。彼は集中し、爆弾の核心部分に剣を突き立てた。
「はっ!」
青白い光が爆弾から放たれ、それは無力化された。しかし、残りの爆弾もある。彼は急いで次の場所へと向かった。
競技場の中央では、アレンとリーダーの一騎打ちが続いていた。アレンの聖剣は確かに強力だが、リーダーの黒い魔力もそれに劣らない。二人の衝突するたびに、衝撃波が競技場を揺るがす。
「『星のルーン』を出せ! そして『神域の賢者』を我らに引き渡せば、これ以上の犠牲は出さん!」
リーダーの叫び声が響く中、フィオナ王女が立ち上がった。
「決して屈しないわ! 王国騎士団、彼らを捕らえなさい!」
彼女の命令に、騎士団が一斉に動き出す。しかし、黒装束たちは予想以上に強く、闘いは均衡していた。
レオンは二つ目の爆弾も無効化し、三つ目に向かう途中、突然の鋭い痛みに襲われた。
「うっ!」
頭痛と共に、視界が歪み始める。「神託解析」の表示がおかしくなり、情報が乱れる。
「これは……」
女神アステリアの警告が脳裏に浮かぶ。「闇の影響」が彼の力を妨害しているのだ。
「レオン! しっかりしろ!」
気づくと、ガルムが彼の横に立っていた。彼は黒装束から守るように、レオンの前に立ちはだかる。
「ガルム……大丈夫だ。まだやれる」
レオンは「智慧の輝き」に触れ、集中力を取り戻そうとした。その時、突然の爆発が競技場の一角を揺るがせた。
「くそっ! 一つ発動してしまったか!」
爆発による煙と悲鳴が混じり合う中、レオンは残りの爆弾に向かって走り出した。しかし、その途中で——
「動くな、『神域の賢者』よ」
黒装束のリーダーが突然、彼の前に立ちはだかった。アレンは遠くに吹き飛ばされ、起き上がれない様子だ。
「お前の力こそ、我らの求めるものだ」
リーダーが黒い手袋をはめた手を伸ばしてきた。レオンは剣を構え、身構える。
「何が目的だ? なぜ『星のルーン』と私を狙う?」
「『月の門』を開くためだ。かつての神々の力を現世に取り戻し、新たな時代を作るのだ」
リーダーの声には狂気が混じっていた。
「新たな時代? 『大災厄』を再び起こそうというのか!」
「『大災厄』は単なる始まりに過ぎない。真の神々の世界を作るために必要な犠牲だ」
黒い魔力がリーダーの周りに渦巻き、彼の姿が変わり始めた。黒装束が剥がれ落ち、その下からは半透明の肌を持つ異形の存在が現れる。
「お前は……人間ではない!」
「正解だ。我らは『闇の眷属』。古の世界から、この時を待ち続けてきた」
レオンは「神託解析」で相手の正体を把握しようとしたが、あまりにも異質な存在に、情報が乱れて表示される。
「汝の力を我がものとする!」
異形の存在がレオンに襲いかかった。彼は剣で受け止めるが、その力に押され、徐々に後退していく。
「くっ……!」
「無駄だ。『神域の賢者』の力も、未熟な若者では使いこなせぬ」
異形の腕がレオンの首に伸び、彼を持ち上げる。呼吸が苦しくなる中、レオンは必死に抵抗した。
「諦めろ。お前の力は我らのものだ」
その時だった。
「離しなさい!」
鋭い声と共に、一筋の光がレオンと異形の間を貫いた。フィオナ王女が祭器のような短剣を手に、彼らの間に立ちはだかる。
「王家に伝わる『月光の短剣』……!」
異形が驚いた様子で後退る。その隙にレオンは地面に降り立ち、咳き込みながらも立ち上がった。
「フィオナさん、危険です!」
「大丈夫。これは『闇の眷属』を封じる力を持つ」
フィオナの手の中で短剣が輝きを増す。
「なるほど、王族にまだそのような武器が……」
異形は警戒しながらも、笑みを浮かべた。
「だが、それだけでは我を倒せぬ!」
彼が両手を広げると、競技場全体に黒い靄が広がり始めた。観客や騎士たちが苦しみ始める。
「これは……魂を侵す闇の力!」
フィオナが叫ぶ。レオンは「智慧の輝き」が激しく脈打つのを感じた。アステリアの祝福が彼を守っている。
「みんなを守らなければ……!」
必死の思いで立ち上がったレオンの目の前に、突然、青い光が現れた。
「レオン……汝の真の力を解放する時だ」
アステリアの声が彼の心に響く。
「しかし、どうやって……?」
「心の中に眠る『全知識吸収』の力を完全に引き出すのだ。そして、世界の真実を知れ」
レオンは深く息を吸い、目を閉じた。これまで断片的に使っていた「全知識吸収」の力に、全身全霊で意識を向ける。
すると、彼の脳裏に無数の情報が流れ込み始めた。古代の書物、失われた歴史、「大災厄」の真実、そして「闇の眷属」を倒す方法——全てが鮮明に理解できるようになる。
「わかった……!」
レオンの目が開かれた時、「智慧の輝き」が眩い光を放ち、彼の周りに青白い光の壁が形成された。
「フィオナさん、その短剣を私に!」
彼女は迷わず「月光の短剣」を手渡した。レオンはそれを自分の剣と交差させる。
「王家の短剣と、『神域の賢者』の力……古き約束に従い、闇を払おう!」
レオンが二つの武器を掲げると、青と銀の光が混ざり合い、競技場全体を包み込んだ。黒い靄が後退し、闇の力が弱まっていく。
「な、何をする!」
異形が怒号を上げるが、もう遅い。レオンは「全知識吸収」で得た古代の呪文を唱え始めた。それは「闇の眷属」を封印するための言葉だった。
「古の約束に従い、光の名において、汝を封じる!」
彼の声が響き渡る中、異形の体が光に包まれ始める。
「まさか……『全知識吸収』が完全に覚醒したというのか! くそっ、今回はここまでか……」
異形の体が徐々に透明になっていく。
「だが忘れるな、『神域の賢者』よ。闇の眷属は我一人ではない。必ず戻ってくる。そして『月の門』を開く日も来るだろう……!」
最後の言葉と共に、異形の存在は光の中に消えていった。その瞬間、黒装束たちも一斉に倒れ、意識を失った。彼らは「闇の眷属」に操られていたのだ。
光が収まると、競技場内は静寂に包まれた。レオンは膝をつき、息が上がっている。「全知識吸収」の完全覚醒は、彼の体に大きな負担を与えたようだ。
「レオン! 大丈夫か?」
アレンが駆け寄ってきた。彼も傷を負っているが、立てるほどには回復していた。
「ああ、なんとか……」
「何をしたんだ? あの光は……」
「『全知識吸収』というスキルを使ったんだ。古代の封印術を呼び起こして」
フィオナが短剣を鞘に収めながら近づいてきた。
「レオン、あなたは王国を救ったわ。母から聞いていた伝説の『神域の賢者』は本当だったのね」
周囲から騎士団が集まり、黒装束たちを拘束し始める。シルヴィア、ヴァレン、ガロンもレオンの元に駆けつけた。
「見事だったぞ、レオン!」
「あんな力があったなんて……」
「本当の『賢者』だな」
彼らの言葉に、レオンは微笑んだ。しかし、心の中で彼は考えていた。異形の最後の言葉——「闇の眷属」はまだいる。そして「月の門」の脅威も去ったわけではない。
国王バイロンが宮廷魔道士を伴って近づいてきた。
「レオン・グレイ、王国を救ってくれた恩は決して忘れぬ。『神域の賢者』よ、汝の力に感謝する」
国王が深々と頭を下げると、観客席から大きな歓声が上がった。混乱は収まり、英雄の誕生を讃える声で競技場が満たされる。
「そして、決勝戦の勝者を宣言しよう」
国王が声を上げた。「これほどの力と勇気を見せてくれたレオン・グレイを、王国冒険者選抜試験の優勝者として認める!」
観客からの歓声がさらに大きくなる。レオンは驚いた様子でアレンを見たが、彼は笑顔で頷いていた。
「当然だ。お前こそ優勝にふさわしい」
「でも、正式な試合は終わっていない……」
「いや、終わっている」
アレンは自分の剣を抜き、地面に突き立てた。
「私の剣を降ろした時点で、勝負はついたのだ。私は敗北を認める」
彼の誠実な言葉に、レオンは感動した。かつての宿敵が、今やこうして互いに認め合う仲間になるとは。
国王の合図で、運営責任者のヘルマンが「星のルーン」を持って近づいてきた。眩い青い光を放つそれは、先ほどの封印の儀式で使われたにもかかわらず、その輝きは少しも衰えていない。
「これを授けよう、『神域の賢者』レオン・グレイよ」
国王がルーンを手渡そうとした時、レオンは一瞬躊躇った。このルーンが「月の門」の鍵であることを考えると、彼の手に渡すべきものなのか。
しかし、アステリアの声が彼の心に響いた。
「受け取るがよい。汝こそが守るべき者なのだから」
レオンは決意を固め、「星のルーン」を受け取った。その瞬間、ルーンが強く輝き、彼の「智慧の輝き」と共鳴するのを感じた。
「この力を正しく使うと誓います」
彼の言葉に、国王は深く頷いた。
「さらに、我が娘フィオナの提案により、汝に『王家の守護者』の称号を授ける。王宮への自由な出入りと、特別な地位を与えよう」
フィオナが微笑む。彼女の目には誇りと、何か特別な感情が浮かんでいるようだった。
---
数日後、王宮の晩餐会。
選抜試験の優勝者を祝う宴が盛大に開かれた。レオンは王家から与えられた正装に身を包み、やや居心地の悪そうな様子でいた。
「緊張している?」
シルヴィアが近づいてきた。彼女もドレス姿で、いつもと違う雰囲気だ。
「ええ、少し。こんな場所に呼ばれるなんて」
「当然よ。あなたは王国の英雄なんだから」
宴会場には多くの貴族や高位の冒険者たちが集まっていた。中にはアレンとその仲間たちの姿も見える。ガルムが手を振り、セリアは少し複雑な表情を見せつつも頷いた。
「レオン」
後ろから声がかかり、振り返るとフィオナ王女が立っていた。彼女は純白のドレスに身を包み、王冠をつけている。
「フィオナさん……いや、殿下」
「私の前では、フィオナでいいわ」
彼女は微笑み、レオンを庭園へと誘った。月明かりに照らされた庭は、幻想的な美しさを放っている。
「『王家の守護者』として、これからどうするの?」
「まだ迷っています。力が増し、責任も大きくなりました」
彼は「星のルーン」を手に取った。今はネックレスとして首から下げている。
「これを守り、さらに『闇の眷属』に備える必要がある」
「でも、一人じゃないわ」
フィオナは真剣な表情でレオンを見つめた。
「私たちがいるもの。王国全体があなたの味方よ」
「ありがとう」
レオンの心は温かさで満たされた。かつて勇者パーティから追放された時の孤独は、もはや感じない。今や彼には仲間がいる。力だけでなく、絆も得たのだ。
庭の奥から、青い光が彼らを呼んでいるかのように輝いた。
「あれは……」
二人が近づくと、小さな祠があり、その中で青い炎が揺らめいていた。
「女神の祭壇?」
フィオナが驚いた声を上げる。「この祭壇は何百年も使われていなかったはずなのに」
レオンは「智慧の輝き」が反応しているのを感じた。彼がそっと祭壇に近づくと、青い炎が大きく燃え上がり、アステリアの姿が浮かび上がった。
「アステリア様!」
「レオン、よくぞ試練を乗り越えた」
女神の声は穏やかだった。フィオナも驚きの表情で女神を見つめている。
「これはほんの始まりに過ぎぬ。『闇の眷属』はまだ存在し、『月の門』の危機も去ったわけではない」
「わかっています。これからも力を尽くします」
「汝はもはや一人ではない。仲間がおり、王国の力もある」
アステリアの目がフィオナに向けられ、彼女は微笑んだ。
「王家の血筋もまた、古の力を受け継いでいる。共に世界の均衡を守るのじゃ」
フィオナは驚いたが、すぐに深く頷いた。「はい、私も力を尽くします」
「そして、レオン」
女神の声が柔らかくなった。
「汝の成長はまだ続く。『全知識吸収』が覚醒し、次はいずれ『万物創造』も目覚めるだろう。その時こそ、真の『神域の賢者』となる」
レオンは決意を新たにして頷いた。「導きに感謝します、アステリア様」
「また会おう、わが選びし者よ」
女神の姿が光の中に消えると、祭壇の炎も静かに消えた。夜風が二人の周りを優しく撫でる。
「すごいわ……女神が直接姿を現すなんて」
フィオナの目には驚きと敬意が浮かんでいた。
「これが私の歩む道なんだ」
レオンは夜空を見上げた。星々が眩く輝き、まるで彼の未来を照らすかのようだった。
「そして、その道を一緒に歩む人たちがいる」
フィオナが彼の手を取った。「そう、一緒に」
二人は静かに庭を歩き、宴会場へと戻っていった。そこには、彼の新しい仲間たち——シルヴィア、ヴァレン、ガルム、そしてアレンまでもが待っていた。
「役立たず」と呼ばれ、勇者パーティから追放されたかつての冒険者は、今や「神域の賢者」として、王国の英雄となった。
しかし、彼の旅はまだ始まったばかり。「月の門」の謎、「闇の眷属」との戦い、そして自らの力のさらなる覚醒——多くの課題と冒険が彼を待ち受けている。
レオンは「智慧の輝き」と「星のルーン」に手を触れ、決意を新たにした。女神アステリアの導きと仲間たちの絆があれば、どんな困難も乗り越えられる。
「さあ、新たな冒険の始まりだ」
彼の心の中で、そう呟いた言葉が、未来への扉を開く鍵となった。
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