隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世

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友達以上親友未満

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生きていたら、悩み事の一つや二つ、あって当たり前だと思う。

俺は今、悩んでいることがある。

いや、今だけじゃなくて、実はずっと悩んでる。

誰にも―聖にも、言ったことがない。

大事なことも、下らないことも、家族に言わないことでも、聖には全部話してたけど…これだけは言えない。

どう言えばいいのか分からないし…なんか、変だもん。

考え方や生き方、性格も趣味も成績も違う、どんな人と友達になっても、嬉しいし、面白いのに、どこか物足りない…なんて。


何をしても、聖が一緒じゃないと、つまらない。

聖が一緒にいたら、つまらないことも、楽しくなる。

…やっぱり、おかしい。

こんなの変だ。

だって、これじゃあ…聖がいれば、他の人はどうでもいいみたい。


聖のことは好きだ。一番好き。

だけど、俺は聖以外の人とも仲良くなりたい。

…俺、欲張りなのかな?

大好きな親友がいるのに、他にも友達が欲しい、とか。

欲張り、かな。

…分かんないや。


聖以外の友達が欲しい。

共通でもいいけど…できれば、聖と共通じゃない友達が。


―ずっと思っていたことだ。

けれど、まさか。

「大輝、友達、欲しいの?」

「じゃあ、純と友達になろう」

長年の悩みが、一瞬で解決するとは…。



週五日、聖はレストランでアルバイトをしている。

主に接客、たまに厨房を任されたりしていて、結構忙しい。

俺もアルバイトしてるけど、聖と違って、週三日だ。ちなみにコンビニ。

聖が働いているところは堅苦しいし、俺には無理そう。つーか、そもそも面接落ちる。

一応言っておくけど、コンビニも色々大変だよ?ただ、従業員のマナーに厳しくて、評判が高いレストランよりはマシかな、って話で。

…脱線した。

まあ、今日は暇なんだ。

アルは図書館で勉強するらしいし、一人ぼっちだ。

いや、誘われたけどね。

[大輝も勉強するかい?分からないところを教えてあげようか…ああ、ごめん。やっぱり聖に教えてもらった方が良いね]

[あ、ありがとう。でも、今日はやめておくよ…]

[そう?じゃあ、気を付けて]

[うん。アルも帰りは気を付けてね]

[ありがとう]

普段は天然なアルだけど、秀才なんだ。

聖と学年一位を毎回競ってる。全国模試でも上位な二人。

…聖も、アルも、凄過ぎ。

そういえば、お互いのことを[切磋琢磨できるライバル]だって言ってた。

仲良しだよなぁ…。


「…んん?」

見覚えのある顔。

(知り合いじゃないはず…)

「あ」

思い出した。

二週間前、ケンカ?言い合い?してた人。

俺の視線に気付いたのか、男がこっちを見た。

(うわわ。…あの時は一方的に怒鳴られてたし、優しい声だったから、穏やかな顔なのかと思ってたけど、意外と目が鋭い!身長高ぇ…。185はあるんじゃ)

内心ビビってたら、にこり、と笑いかけられた。

「こんにちは」

「こ、こんにちは…」

(笑顔は人懐っこいな)

「お客さん?いらっしゃいませ」

「へ…?」

「? お客さんじゃない…? ごめんなさい。早とちりした」

「えっと」

(お客さんって、何の?)

男の後ろを見たら[定食屋]と書いてある暖簾(のれん)があった。

(おぉ…。よく見たら、定食屋さんっぽい格好してる)

ぽい、じゃなくて、定食屋さんだからか。

初めて行く場所は、どんなところも聖と一緒…約束してるわけではないけど、自然とそうなっていた。

でも。

(こ、これは、幼なじみ離れをする第一歩、かも)

知らない店。知らない人。

店はともかく、大学生になったら、全く知らない人と話す機会が増えるだろう。

大学が違う聖とは、簡単に会えなくなる。

だから、今までしなかったことを、できるようにならなくちゃいけない。

「えっと、今、入っても大丈夫ですか?」

「!」

男の目が輝いた。

「どうぞ」

いそいそと扉を開ける。

その姿が、何だか…。

(犬っぽい)

ガラガラ。

少し大きい音がした。

「親方、お客さん」

「らっしゃい!」

「いらっしゃいませ」

店内に足を踏み入れると同時に、野太い声と優しげな声を掛けられた。

「純が呼び込みに成功するなんざ、珍しいこともあるもんだ」

「あ…。呼び込み、してなかった」

「してねぇのか!次は気ぃ付けろ」

「うん」

(親方、目付き悪っ。…見た目と言葉は怖いけど、優しそうな人だ…)

親方と純という男性が会話していると、ニコニコ顔が可愛らしい、親方と(恐らく)同年代の女性が近付いてきた。

「お客様。こちらをどうぞ」

年配の女性にメニューを渡される。

「ありがとうございます」

写真とかはなくて、分かりやすい定食名がいくつか書かれている。

「唐揚げ定食を一つください」

「はい。唐揚げ定食ですね。ありがとうございます」


「お待たせしました」

メニューは女性が持ってきてくれたけど、お冷やとおしぼり、料理は純さんが運んでくれた。

「ありがとうございます」

「こちらこそ、ありがとうございます。ごゆっくり、どうぞ」

「! う、うまそう…」

見た目は普通の唐揚げ定食だ。

だけど…。唐揚げも、ご飯も、味噌汁も、すっごく美味しそうで、つい心の声が漏れてしまった。

「美味しいよ。 親方の料理、世界一」

「ええ。豪(ごう)さんは世界で一番の料理人よ」

「よ、よせやい。照れるだろーが」

(強面親方、照れ屋なの?)

「いただきます。……うっ!」

(これ…)

「マジうまい! 親方っ!すっごく美味しいです!」

「おぅ…。ゆっくり食え」

「はーい」


こうして、親方に胃袋を掴まれた俺は、週二で通うようになった。

美味しいだけでなく、学生の懐にも優しい値段で、行きやすいというのもあるけど。

従業員は三人…親方の豪さん、奥さんの恵(めぐみ)さん、住み込みで働いている純で、みんな優しくて、店の雰囲気が良いから、温かい気持ちになれる。

少し鋭い目で、男前な顔立ちの純は、意外なことに天然で、抜けているところがある。

19歳だから、俺より一つ年上だ。

年が近く、精悍な見た目に反して、幼いところがある純とは、かなり話しやすい。

俺は学校や友達(聖やアル)、家族のことを、純は親方と恵さんや慶くん―不良っぽい少年はまだ中学生だったらしい。あることがきっかけで知り合って、放っておけないから、傍にいたい。素直じゃないけど、本当は優しい。不器用なところも好きだ。と言っていた。彼のことになると、普段おっとりしている純のテンションが上がる。どんだけ好きなんだ。親方や恵さんと一緒に、ちょっぴり呆れつつも、微笑ましく見守ってる―のことを、お互い話して、親交を深めている。

ある日、純に「俺、友達が欲しいんだ。でも、友達付き合いが長続きしなくて。や、俺が悪いんだけどさ。いつも聖優先で、付き合いが疎かになるから…。うん、自業自得だね。…はは」と呟いた。

「大輝、友達、欲しいの?じゃあ、純と友達になろう」

「え…?」

長年の悩みがあっさり解決するとは思っていなくて、ぽかんとしてしまった。

「あ…。違う」

「違う?」

「ん。純と大輝は、もう友達」

「…うん。うん、そっか。そうだよな!俺たち、もう友達だ」

「うん」

どこか遊びに行ったり、相手に合わせるだけが友達じゃない。

少しの間話をするだけでも、お互いが友達だと思っていたら、もう友達なんだ。

純となら、ずっと仲良くできる気がする。

聖とアルみたいに、対等な友達になれるんじゃないかな。

―そんな希望に満ちた俺は、聖を連れて店に行くことにした。

理由は店自体がオススメなのもあるけど、聖も純を気に入ると思ったから。

聖は店も純のことも気に入ったようで、「また一緒に行こう」と言われた。

俺は頷きながら、(聖と一緒にも行くけど、一人でも行こう。聖に話せないことも、純には話せるかもしれない)そう思っていた。

聖は距離が近過ぎて、親し過ぎて、言いにくいことがある。

だけど、純は程よい距離感で、適度に仲良くて、しかも親しいから、言いやすいと思う。

純と友達になれて良かった。

上機嫌に笑う俺を、聖がじっと見つめていて、何か考えていることは、知らなかった。

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