「結婚しよう」

まひる

文字の大きさ
170 / 515
第四章

4.我が儘ではない【2】

しおりを挟む
「あ、ありがとう……ございます?」

 とがった視線を向けられているので少し自信がないですが、ベンダーツさんが悪い人ではないと今の私には分かります。
 ここに来るまでは、それはそれは攻撃的で怖かったのですけどね。

「おいおい、俺の言った事を聞いていたのか?一人は危険だ。アイツと一緒にいろ。一人なら外に出るな」

 けれどもベンダーツさんは、私の謝意を一刀両断です。
 それに『アイツ』とは。

「あの……、ヴォルの事……ですよね?」

「当たり前だ、お前は馬鹿か。他に誰がいるっ!?……頭の悪い奴だな。いっそ犯してやろうか」

「そんな事をしてみろ。お前の首が飛ぶだけで済むと思うなよ」

「っ?!」

 びっ……ビックリ二回目です。
 ベンダーツさんの背後から、冷たい鋭い声が静かに響いてきました。──ヴォル、登場なのです。
 えぇ、とても怖い顔をしていますよ。あ、ヴォルの場合は凍った様な感情のない顔なんですけどね。無表情とはまた違うのです。

「……何だ、自分から来たのか。てっきり研究室で拗ねてるから、また朝まで放置かと思ったんだが」

 ベンダーツさんは、私の手首を掴んだままヴォルに向き直ります。
 本当にこの人、ヴォルに慣れていると言うか怖がらない人ですね。怒っているのが分からない訳ではない筈なのですが。

「手を離せ」

「嫌だと言ったら?」

「……お前の手首ごと切り落とす」

 ベンダーツさんの言葉にわずかに眉を動かしましたが、視線を落としてすぐに射貫いぬくような鋭さに変わりました。
 ──ぅわ~、やめてくださいよっ!それ、冗談ではないですよね?
 ですがベンダーツさんは、それくらいでは表情を崩さないのです。私は二人のやり取りで、もう既に心臓が悲鳴をあげていますが。

「ったく……、しっかりとお前が掴まえとけ。今度フラフラしてるとこを見たら、俺が食ってやるからな」

 しばらく互いに睨み合っていましたが、先にベンダーツさんが溜め息と共に視線を外しました。
 ──はいっ?!私を食べても美味しくないですよっ?!

「……お前、考えてる事が違うから」

 青くなった私に向き直ったベンダーツさんは、一言それだけを告げて手を離してくれました。
 って言うか、人の考えてる事が読めるのですか?そんな事を思っていた私をよそに、さっさと立ち去るベンダーツさんです。勿論ヴォルは、彼の姿が見えなくなるまで鋭い視線を投げ付けていましたが。

「はぁ……」

 大きくヴォルが溜め息をきました。
 最近溜め息が多くないですか?もしかして、疲れています?

「あの……、大丈夫ですか?」

 私の言葉に、ヴォルが恨めしそうな瞳で見てきます。
 ん?何でしょうか。あ、私が原因だったりします?……もしかして、また精霊さんがヴォルを呼んだのですかね?

「帰るぞ」

「えっ?」

「部屋にだ」

 当たり前のように手を掴まれ、声を掛けられました。でも私は今自室前にいる訳でして、ヴォルの言っている事がすぐには理解出来ません。
 だいたい、私はガルシアさんを待っているのですから。

「はぁ……あ、あの……っ」

「ガルシアには言っておいた」

「あ……、そうですか」

 ヴォルの言葉に、私は小首をかしげつつも了承します。
 まぁ、ガルシアさんが知っていれば問題ないですから。それに部屋って言うのは、ヴォルの部屋の事ですよね。行き先が分かっていれば不安はないです。
 ──ん?何でしょうか。ヴォルが私を見ています。

「メルはガルシアの心配をするのだな」

「はい?」

「俺はどうでも良いのか?」

 ──な……、何ですと?
 目を見開いた私に、ヴォルが一歩近付きます。

「俺はメルじゃないと駄目だと言っているのに……、それでも俺を放っておくのか」

 ──ち、近すぎますよっ。
 顎を指先で取られ、アワアワしているだけの私でした。本当にこういった時の対処法が分かりません。
 いえ、慣れるもなにもないですよね。心臓バクバクですよっ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

さよなら、私の初恋の人

キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。 破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。 出会いは10歳。 世話係に任命されたのも10歳。 それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。 そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。 だけどいつまでも子供のままではいられない。 ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。 いつもながらの完全ご都合主義。 作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。 直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。 ※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』 誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。 小説家になろうさんでも時差投稿します。

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜

大森 樹
恋愛
髪は女の命。しかし、レベッカの髪は切ったら二度と伸びない。 みんなには秘密だが、レベッカの髪には魔法が宿っている。長い髪を切って、昔助けた男の子レオンが天才魔法使いとなって目の前に現れた。 「あなたを愛しています!絶対に絶対に幸せにするので、俺と結婚してください!よろしくお願いします!!」 婚約破棄されてから、一人で生きていくために真面目に魔法省の事務員として働いていたレベッカ。天才魔法使いとして入団してきた新人レオンに急に告白されるが、それを拒否する。しかし彼は全く諦める気配はない。 「レベッカさん!レベッカさん!」とまとわりつくレオンを迷惑に思いながらも、ストレートに愛を伝えてくる彼に次第に心惹かれていく…….。しかし、レベッカはレオンの気持ちに答えられないある理由があった。 年上訳あり真面目ヒロイン×年下可愛い系一途なヒーローの年の差ラブストーリーです。

お姉様優先な我が家は、このままでは破産です

編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。 だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!  愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理! 姉の結婚までにこの家から逃げたい! 相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。

処理中です...