「結婚しよう」

まひる

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第四章

≪Ⅷ≫歩み寄って【1】

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 あれから何日の時が過ぎたのでしょうか。
 ヴォルと私は相変わらずで、朝と夕の食事を共にして抱き枕として眠るだけでした。
 うっすらこんな毎日に麻痺していく一方で、私の心を波立たせる事が一つあります。

「またヴォルティ様に側室候補の方が謁見希望だって聞いた?」

 通りすがり、聞こえよがしに侍女さん達の噂話でした。
 そんな事を大きな声で言わなくても、散々耳に入っていますって。

 ガルシアさんが気にしなくても良いって言ってくれますが、するもしないも意識的に出来る訳ではありません。我先にヴォルとの子供を、って話を無関心に聞き流せる筈がないです。いえ、子供がどうとかではなく。

「……っ!」

 叫びたいです。何故、皆さんはヴォルの事を見てないのですか?

「メルシャ様?」

「……ガルシアさん……」

 声を掛けられても取り繕う事が出来ず、今にも死にそうな顔を向けてしまいました。
 語学の勉強の為にガルシアさんの部屋に行く途中だったのですが、あまりの精神的ダメージに行き倒れ状態です。──いえ、本当に倒れてはいませんよ。ただ、途中の芝生の上に腰を下ろして膝を抱えていただけで。
 勿論、廊下の壁に隠れるようにしてですが。

「どうなさったのですかっ?!ご気分が悪いのですかっ?」

 物凄い慌てようのガルシアさんが走り寄ってきました。あぁ、ごめんなさいです。

「いえ……少し、現実逃避を……」

 苦笑いを見せたのですが、失敗のようです。泣き笑いのような顔になってしまいました。
 それに気付いたのは、ガルシアさんが眉を寄せてつらそうな表情になりましたから。

「私の部屋に行きましょう?」

 優しく告げる彼女に悪く思い、私は何とか気力を振り絞って立ち上がります。それでも足腰にあまり力が入らず、ガルシアさんに支えられてしまいました。

「ハーブティです。心が落ち着きますよ」

 ガルシアさんの部屋に着き、勧められるまま椅子に腰掛けます。そのままボンヤリしている間に、ガルシアさんがお茶を用意してくれました。

「ありがとう……ございます」

 両手に包み込むようにカップに手を掛けました。
 温かい──です。…………あ……っ。

 掌が温まるのと同時に、私の涙腺が緩まりました。そうなってはもう止められません。
 次から次へと涌き出る泉のように、大粒の涙がドレスに滴り落ちていきました。

 私、何故こんなにも──心が痛いのでしょうか。
 今の状態って、初めのヴォルの話通りではないですか。『婚儀を挙げたい』と、『その後は互いに自由だ』と言われていました。
 違うのは──今でも朝夕のご飯を一緒にする事と、毎夜の抱き枕でしょうか。

 『自由』の範疇はんちゅうが何処までかは分かりませんが、旅の時と変わらない関係性という意味で拘束されている感じはしないですね。
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