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第四章
≪Ⅸ≫限界だ【1】
しおりを挟む「っ?!」
次の瞬間、私はヴォルに抱き締められていました。
何がどうなったのでしょう。
「……もう……限界だ……」
「え……」
苦しそうに絞り出したような声に驚いてヴォルを見上げましたが、その後の私の言葉は続けられませんでした。
──はい、塞がれました。何に?勿論、ヴォルの『唇に』です。
「……っ……、ふっ……」
長い、呼吸すらも奪うような荒々しいキスでした。
私はもう自力で立っていられず、腰元を強く抱き締めるヴォルに支えられているだけでした。
「……何をしていらっしゃるのですか」
冷たい声が後ろから聞こえました。
──というか、いつ入って来たのですか?!
「見て分からないのか」
第三者の登場により、私は驚き戸惑います。
ですが腕の中で逃げようと暴れる私をそのままに、唇を放したヴォルは淡々と答えました。
勿論、相手はベンダーツさんですよ?──キ、キスしているところをしっかりと見られてしまいましたしっ。
「ここは執務室です」
「知っている」
「……場所をわきまえて頂きたいですね」
「分かった」
青筋が立ちそうな程、ベンダーツさんの眉がピクピク動いています。
それに対してヴォルは何でもなさそうに答えて──って、何処に行くのですか?!
「どちらに行かれるのですか」
ヴォルの腕の中の私とベンダーツさんの疑問が同時に告げられます。
それは、何故かヴォルが出口である扉に向かって歩き出したのですから。
「場所をわきまえるんだろ?」
挑発的な視線でした。
その一言に、ベンダーツさんの周りの空気がピリッとした事が分かった程です。──やめてくださいよ、そうやって喧嘩を売るようなやり方はっ。
「今日はもう終いだ。俺は明日から三日間休みにする。そして間はお前に任せる」
ヒラヒラと手を振りながら、私の腰を抱いたまま部屋を出ていきます。
──あぁ~、こんな事をして大丈夫なのでしょうか。
オロオロとする私ですが、抵抗する事なくヴォルに付き従いました。でも、疑問が解消された訳ではありません。
「ヴォル?」
「何だ」
怒っているのかと思いつつ怖々話し掛けると、なんとも機嫌の良さそうな声が返ってきました。──あ、あれ?
「あ、あの……良かったのですか?」
「アイツの事か?」
「い、いえ……あの、それもありますが……お仕事は……」
恐々話し掛けます。
ベンダーツさんの事が気にならないかと言われたら嘘になりますが、それよりもお仕事の事ですよ。
私がお邪魔してしまったなら、それは申し訳ない事なのです。
「問題ない」
「で、でも……」
事も無げに答えるヴォルでした。
私はヴォルが公務でどの様な事をされているのか分かりません。でも、大切なんだろう事は何となく伝わってきます。
私のせいでそれが疎かになったのだとしたら──ただでさえ居心地の悪いこのお城で、どうすれば良いのでしょうか。
歩みを止めないヴォルに、私は泣きそうになりながらも問うのでした。
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