「結婚しよう」

まひる

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第五章

1.俺だけの【2】

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「すまなかった、ヤナード。感謝する」

 ヴォルもお礼を言った事で、逆にヤナードさんの方が恐縮してしまいました。

「いえいえ、そんなお二方から……。調子に乗ってしまいましたな、申し訳ございませんでした。ともかく、傷口の方は縫ったばかりですので、あまり激しい運動は控えて下され」

「………考慮する」

 渋々答えたようなヴォルです。
 それに対して苦笑を浮かべるヤナードさんでしたが、ヴォルの何処かに落ちなさそうな瞳に私は首をかしげてしまいました。

「メルシャ様、ヴォルティ様を頼みますぞ」

「は、はい」

 『何をどうすれば良い』のかは分かりませんでしたが、とにかく激しい運動が良くないのは分かりました。──と、不意に先程の皇妃様を思い出しましたよ。

「あの、ヴォル?食堂の結界なんですけど……」

「あぁ、そうだったな。少し騒ぎにはなってしまったが、仕方のない事だ」

「そうですな。あの方にも少々お考え頂かなくてはなりますまい」

 私の告げた内容がすぐに伝わったのか、ヴォルの合点がってんのいった表情が返ってきます。ですが続けられたヤナードさんの言葉に、私の頭に疑問符が浮かびました。
 何故かヴォルとヤナードさんは話が通じているようで会話が成り立っているようですが、私にはさっぱりなのです。

「ヴォルティ様。皇帝閣下がお呼びでございます」

 ノックの後、衛兵さんと共にベンダーツさんが現れました。時を同じくしてザワザワとした外の音が聞こえてきて──忘れていました。
 医務室内は静かでしたが、廊下では先程と変わらず何やら重々しい空気が流れてます。

「分かった。今から行く」

「あ、私もっ」

 立ち上がるヴォルに添うように、私も慌てて身を起こします。
 これから何があるのか良く分かってはいませんが、ヴォルのそばにいなければならない気がします。

「……分かった」

 わずかな逡巡しゅんじゅんの後、ヴォルが頷きます。私は──私なんかが役に立てるとは思いませんが、彼を支えるようにと寄り添いました。

「お身体の方は大丈夫ですか」

「問題ない」

 ベンダーツさんの心配も軽く流し、確かな足取りで皇帝様の部屋を目指します。
 えっと──、どうやら謁見の間ではないようです。

 黒い重量感のある扉の前に立ち、ヴォルがノックをしました。勿論扉の横には二人の衛兵さんがいますが、彼等はこの場では何もしないようです。

「入れ」

「失礼します」

 中からの返答の後、頭を下げて入室するヴォル。私も見よう見まねで彼の背を追いました。

「このたびは申し訳なかった」

 え──、何故皇帝様が頭を下げてるのですか?!
 ヴォルの後について部屋に入るなり、謝罪をする皇帝様に驚きます。

「父上が悪い訳ではありません」

「しかし、グラセリーナの罪は私の罪。我が子に傷を負わすなど、あってはならない事だ」

 深く頭を下げたままの皇帝様。思わず見回してしまいましたが、この場には私達三人しかいないようです。
 しかしながら逆に私の方がこの場にいてはならない気がしてきました。
 ちなみに一緒に来た筈のベンダーツさんは、部屋の外で待っているようです。──ついてきていませんでしたっ。
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