「結婚しよう」

まひる

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第五章

8.己が手のように【4】

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「俺はメルがいるだけで良い。だいたいベンダーツと二人きりなど、考えただけでも虫酸 むしずが走る」

「酷い仰り様ですね。貴方が大人しく城内にいてくれれば、私もこの様な面倒な事をしなくても良いのです」

 あぁ──二人共、また喧嘩腰な言い方です。
 再びヴォルとベンダーツさんの喧嘩がはじまりました。初めの頃よりは口調が鋭くないものの、互いに思うところを言い合うのは悪い事ではないです。
 でも仲良くしてほしいと思うのも事実で、ヴォルの腕に囲まれたまま二人の言い合いを不安気味に聞いているしか出来ませんでした。

「俺が何をしようと、お前にとやかく言われる筋合いはない。嫌ならさっさと従者契約を破棄すれば良い事だろう」

「嫌ですね。己の指を切り落としてまで、何故その様な汚名を被らなければならないのですか」

「ゆ、指を?」

 ベンダーツさんの言葉に、思わず口を挟んでしまいます。そして互いの右手親指に光る銀色のリングに視線を落としました。
 『従者契約』とは、そこまで重いものなのですか?取り外し不可って事ですよね。

「そうですよ、メルシャ様。一度主従契約をすれば、その契約の無効条件は指輪部分の死滅にあります。つまりは死か、契約部分の破棄となります。……簡単に言えばですが」

 事も無げにベンダーツさんが答えてくれます。ヴォルの反応からもそれが事実のようでした。
 ──な、何だか呪いのような契約ですね。

「契約時の俺は詳しい事を知らされていなかったからな。単なる書面でのやり取りで、指輪はただのあかしかと簡単に考えていた」

「幼いヴォルティ様へ、その様に複雑な情報は不要だったのです。だいたい、利き腕の第一指を失うなどは愚の骨頂ですね。次の職にも響きますから、ヴォルティ様には私で我慢して下さいとしかお伝え出来ません」

 首をすくめるヴォルは、『知っていたらやらなかった』と言いたげです。対するベンダーツさんは勿論知っていての契約だったと思いますが、王家に連なる者への完全な束縛でもあったのだと思いました。
 しかも契約時という事は、五歳のヴォルです。正しく判断するのは無理ですよね。

「どうだかな。いずれ狂うと思われていただけなのだろ」

「あ……、精霊さん関係ですか?」

「そうだ。自我を失うまで待って、早々に魔法石化しようとしていたのだろうな」

 吐き捨てるようにヴォルが口にした言葉からは、彼への周囲の対応が見てとれました。
 皇帝様の血を引いていても、魔力を持っているという事が将来を決定してしまうのですよね。悲しい掟を持っている国です。

「無駄口を叩いていてばかりでは、次の集落までどれだけ掛かるか分かったものではありませんね」

 わざとらしく溜め息をくベンダーツさんでした。
 何だかベンダーツさん、わざとヴォルを怒らそうとしていませんか?そりゃ今までは無表情がデフォルトでしたけど。

「煩いな、ベンダーツは。ここで野宿でも構わないだろ。メル、疲れてないか。結界を張って火を用意しよう。それとも水を沸かそうか」

「また貴方は。簡単に魔法を使いすぎです。限界を知らないという事は、使い放題という訳ではありません。旅とは自らの手を使って火を起こし、水を汲むのです。それに、この様な日の高いうちから休むなどと……」

「本当に煩い」

 ベンダーツさんの言葉を遮り、ヴォルは耳に指を差し込むジェスチャーまでしました。何だか、お兄ちゃんに甘えている的に見えるのは私だけでしょうか。
 人間三人の揉め事にも、ウマウマさんは我関せずで足元の草をんでいます。その心の余裕が私も欲しいですよ。

「とにかく、手を見せて下さい」

「……問題ない」

「ないかどうかは私が判断します」

 言い合いを中断し、ベンダーツさんがヴォルに手を差し出しました。ヴォルは珍しくわずかばかりの抵抗を示しましたが、ベンダーツさんに効果はありません。
 そして広げられたヴォルの義手の掌には、先程の魔法を使った戦闘によって黒ずんでいました。焦げて──いないですよね?

「全く、無茶ばかりされますね」

 ヴォルの左腕を確認したベンダーツさんは、ウマウマさんから義手メンテナンス用の道具を取り出して作業を始めています。
 口で言う程怒ってはいないのがベンダーツさんなのですよね。ヴォルも全く気にしていないようですし。
 信頼関係がバッチリですよ──喧嘩は多いですが。
    
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