「結婚しよう」

まひる

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第六章

2.説明が面倒だ【3】

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「馬鹿だな、本当に。ヴォルの事が分かってないだろう……って、当たり前か。まぁ俺もここまで変わるとは思ってなかったから、コイツ等と同じといえば同じだな」

 ベンダーツさんの呆れを含んだ冷たい視線が周囲を見渡します。
 この目を直接向けられると怖いのですが、それよりも今はヴォルのまとう空気の方が痛い程なのですけど。

「何がだよ。その女が大切なんだろ?生かしといてやるって言ってるんだ、何が悪い」

 とりあえずその男性はヴォルが怒ったのが伝わったのか、更に言葉を続けました。
 ですが──あぁ、それ以上彼の感情を逆なでないで下さい。隣で手を繋いでいるだけの私ですが、もう怖くてヴォルの顔を見上げられません。

「やめとけって言ってるのにぃ。本当に直情的な能無しは困るよなぁ」

 ベンダーツさんが大きく溜め息をつきました。
 彼はただ呆れて見せるだけで、そのやり取り自体を止めようとはしないようです。いえ、下手に首を突っ込むと自分の身に危険がしょうじるかもしれない雰囲気がここには漂っていました。

「それとも何だ。皆で可愛がってや……っ!」

 言葉の途中でドカッと何かを叩き付ける音がして、声の主が消えます。──え……?
 私は周囲を見回し、少し離れた小屋に大きな穴が空いているのを発見しました。そしてパラパラと落ちる音が続きます。

 ──もしかしなくても、先程の男性が吹き飛んでいった跡でしょうか。

「あちゃ~……、言わんこっちゃない。メル、少し離れた方が良いぜ?」

「え……?」

 ベンダーツさんは顔を片手で覆いながら呟きました。そして語り掛ける言葉と共に肩をポンと叩かれて驚いた私です。
 そばにいたヴォルを見上げた時、既に彼は後ろを向いていました。そのまま動かない私に、今度はベンダーツさんの両手が肩に触れます。

「加減はしておけよ?」

 その背に一言だけ告げたベンダーツさんですが、ヴォルから返答は返ってきませんでした。私達を背に、真っ直ぐネパルさんへ視線を向けています。
 ネパルさん達前方にいるクスカムの人々は、吹き飛んでいった男性の方を見ながら硬直したように動きがありませんでした。

「お前等っ!」

 その中で一足早く我に返った若い男性が声をあららげると、周囲の男性達の気配が一斉にとがります。
 それは先程までの上からの威圧感ではなく、ビリビリとした黒い──殺気なのでしょうか。そして彼等の手にそれぞれ異なる魔力が集まり、光を放ち始めました。

「えっ?えっ?」

 私は両肩にベンダーツさんの手を乗せられていますが、強く押さえられている訳ではありません。それでも動けませんでした。
 何がどうなってこうなるのでしょうか。

「さっすが、魔力所持者。喧嘩の仕方も半端ないって?」

 声を弾ませるベンダーツさんですが、私は混乱してこの状況についていけません。
 でも──楽しんでいる場合ではないって事は分かりますよ?!

「ベ……マークさん、止めて下さいよっ」

 後ろから両肩を掴まれているので振り返れないですが、頭だけ必死に振り返りました。
 その間にもヴォルに魔法が放たれます。──後ろにいる私達にはいつの間にかヴォルの結界が張られていて、後方を取り囲んでいる方々からの攻撃すら直接当たりはしませんが。

「冗談だろ。あんな魔法戦の中に俺を入れる気?」

 ベンダーツさんが言葉で示す通り、既にクスカムの方々とヴォルの間には一方的な攻撃魔法が吹き荒れていました。
 ただしヴォルは結界すら張らず、クスカムの方々の魔法を打ち消すだけです。

「ひゅ~。あれだけ殺気立ちながらも、さすがに自分の立場は忘れていないな」

「えっ?」

「あんな逆賊のような行いをされていても、国を支える民にはかわりないからな。俺から見れば甘いが、奴は人を裁いた事がない。時には必要な事な筈なんだが、ヴォルは自分が一番下にあると思ってるからなぁ」

「ど、どういう事なのでしょう」

 ベンダーツさんの言葉の意味が分からず、私は困惑してしまいました。
 逆賊が『主君に反逆した臣下』というのは分かります。ヴォルは皇帝様の御子息ですから、そう言った言い方になるのでしょうけど。
 でも人を裁くとか、立場が上とか下とか。

「だから……、まだメルには早いか」

 何かを言い掛けたベンダーツさんですが、私と目があった途端に口を閉ざしてしまいました。──何故でしょうか、気になるではないですか。
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