「結婚しよう」

まひる

文字の大きさ
267 / 515
第六章

3.ないと困るのだろ【4】

しおりを挟む
 低木草地帯から景色が変わっていき、この辺りでは木々の緑が濃いようです。森とまではいきませんが、周囲を木々が覆っていました。

「身を隠す場所が多いからか、この辺りは小型の魔物に要注意だな」

「いるぞ。其方此方そちこちに」

「はぁ?って、何処にだよっ!?」

 澄ました顔のヴォルに指摘され、ベンダーツさんが周囲を見回します。
 私も同じように首を回しましたが当然のように姿なんて見えるはずもなく、ただ木々が立ち並んで見えるだけでした。

「魔力を感じるからな。精霊も警戒しているが、今のところ襲ってくる気はないようだ」

「気配も感じるのかよ、ヴォルは。本当に何でもありだな。俺も殺気を向けられれば分かるけど、ただ傍観してるだけの奴の気配まではなぁ」

 振り向くとヴォルが上を見上げていました。彼には怯える精霊さんが見えるのでしょうか、わずかに瞳が細められます。
 対してあきれたように告げるベンダーツさんですが、その言葉に私は内心で頷いてしまいました。
 だって本当に、ヴォルは何でも出来る感じなのです。──以前本人に言ったら、即否定されましたけど。

「魔物とはいえ、あれらもバカではないからな。こちらの隙を狙ってくるつもりなのだろう」

「そうは言っても、俺としてはいい加減討伐も飽きたんだけどなぁ。魔物ばかりで食えないし、しかも今度は雑魚ときた。剣のさびにしかならないじゃねぇか」

「奴等の狙いは俺の魔力だ。魔物は常に魔力に飢えている」

 いつものようにテンポ良く交わされる会話でした。
 でも、真顔で自分が餌だなんて言うの、ヴォルくらいじゃないですか?しかもそれが妙に現実的な分、私は怖いだけです。

「ヴォル、その言い方じゃメルが怖がるぞ」

 ──え?と、思わず隣を並走するベンダーツさんを見つめました。
 まるで今の私の感情が伝わってしまったかのような絶妙なタイミングでしたから。

「何がだ」

「気付けよ、本当に。頼りに思っているのはお互い様なんだろ?ヴォルもメルも、互いを必要としているのははたから見ていて良く分かる。ムカツクくらいにな。でもだからこそ、どちらも欠けないような努力が必要なんじゃないのか?」

 指摘の意味が分からない様子のヴォルですが、噛み砕いて諭すように言葉を紡ぐベンダーツさんです。
 努力──ですか。確かに、私はいつもヴォルに守ってもらってばかりでした。それでヴォルに傷付いて欲しくないって言うのは、勝手すぎますよね。
 私にも彼を失わない努力が必要です。戦う事は出来ないですが、何か私でも可能な事がある筈ですよね。

「俺は…………」

 何かを言い掛け、口を閉ざしてしまいました。
 ヴォルはヴォルなりに、考えがあっての事なのだと思います。だからこそ私は、ヴォルだけを責めるような事が出来ません。
 それこそ筋違いですもの。

「あのなぁ。これは魔力持ちだろうがそうじゃなかろうが、当たり前の事なんだぜ?守る為の努力をおこたれば、どちらかが残される立場になるだろうが。残った方はどうなる?…………守れなかったと自分を責める事になるんだ」

 重い言葉でした。
 私の心に両親の顔が浮かびます。私の我が儘を聞いてくれて──結果、失う事になってしまった人達でした。

 そう──私は今でもいています。あの時どうすれば良かったのかと、自問し続けていました。
 ヴォルのおかげで以前程の辛い感情はなくなりましたが、それでも思い出す度に心に痛みを感じます。何故あの時、自分はあんな我が儘を言ってしまったのかと。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました

みん
恋愛
伯爵家の長女シルフィーは、5歳の時に魔力暴走を起こし、その時の記憶を失ってしまっていた。そして、そのせいで魔力も殆ど無くなってしまい、その時についてしまった傷痕が体に残ってしまった。その為、領地に済む祖父母と叔母と一緒に療養を兼ねてそのまま領地で過ごす事にしたのだが…。 ゆるっと設定なので、温かい気持ちで読んでもらえると幸いです。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜

大森 樹
恋愛
髪は女の命。しかし、レベッカの髪は切ったら二度と伸びない。 みんなには秘密だが、レベッカの髪には魔法が宿っている。長い髪を切って、昔助けた男の子レオンが天才魔法使いとなって目の前に現れた。 「あなたを愛しています!絶対に絶対に幸せにするので、俺と結婚してください!よろしくお願いします!!」 婚約破棄されてから、一人で生きていくために真面目に魔法省の事務員として働いていたレベッカ。天才魔法使いとして入団してきた新人レオンに急に告白されるが、それを拒否する。しかし彼は全く諦める気配はない。 「レベッカさん!レベッカさん!」とまとわりつくレオンを迷惑に思いながらも、ストレートに愛を伝えてくる彼に次第に心惹かれていく…….。しかし、レベッカはレオンの気持ちに答えられないある理由があった。 年上訳あり真面目ヒロイン×年下可愛い系一途なヒーローの年の差ラブストーリーです。

お姉様優先な我が家は、このままでは破産です

編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。 だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!  愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理! 姉の結婚までにこの家から逃げたい! 相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。

処理中です...