「結婚しよう」

まひる

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第六章

3.ないと困るのだろ【5】

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「ヴォルはメルに後悔させたいのか?」

「有り得ない。俺はメルを守ると決めた。身も心も一片いっぺんの傷も付けさせない」

 あざけるような問い掛けをするベンダーツさんに、ヴォルは迷いなく断言しました。
 ──というかそれ、激しく恥ずかしい台詞なのではないでしょうか?
 時折ヴォルはこういう物凄い・・・ストレートな言い方をするのですが、それが私の心臓に悪いって事はまさか知らないでしょうね。

「それだよ。……ってかそこまで言うか、ったく。ともかく、メルを守るならヴォル自身も守らなくてはならない。ヴォルが傷付けば当然メルが傷付く。分かれよ」

「…………」

 ヴォルの視線が私に向けられているのが分かります。後頭部に突き刺さる視線を受け、先程の言葉によって熱を持った頬が今度はひきつりそうでした。
 このまま無言で見つめられているとハゲそうです。私は意を決して振り返り、ヴォルを見上げました。
 ウマウマさんに乗っているので真っ直ぐ向き合えないのが残念ですけれど、それでも彼の青緑の瞳を見つめます。ベンダーツさんの言わんとする事は、まさに私が常日頃から思っている事なのですから。

「っ!?」

 不意打ちでした。
 突然ヴォルの顔が降ってきたのです。──いえ、なんと言うか。

「おいこら、俺の目の前でナニ・・するな!」

 ベンダーツさんが並走するウマウマさんから叫びました。
 はい。今のヴォルと私は唇と唇を重ねて──って真っ赤になっているであろう私は置いておいて、何故かベンダーツさんも赤面しています。
 ヴォルはいつもの──感情があまり現れていない表情でしたが、瞳だけは熱いモノをたぎらせているのでした。
 えぇ、あまりの事に瞳を閉じる暇がなかったのですよ。

「く、口付けは神聖な……っ」

「お前は目の前に旨い物があって、手を出さない自信があるのか」

 赤面したままで言い淀むベンダーツさんに、何故か偉そうなヴォルです。
 だいたい、美味しそうな物って私の事ですか?

「何を……っ?」

「俺はメルと出会って知ったが……、甘美なる誘惑とはのがれがたいものだぞ」

 意味が通じていないベンダーツさんですが、ヴォルは続けてあおりました。
 しかしながら強くヴォルに抱き寄せられている私の思考は、現在進行形で停止中なのです。反論もツッコミもお休みでした。

「年のわりに子供なのはお前の欠点でもあるな」

「……貴方が大人しく帝位を継いていれば、私にも所帯を持つ余裕が出来た筈なのですけどね」

「それは残念だったな」

 知らなかったですが、ベンダーツさんは思ったよりうぶなようです。
 そして彼等の間には何やら不思議な空気が流れていました。
 ヴォルの腕の中でそれをボンヤリと感じていた私ですが、突然立ち止まったウマウマさんのいななきで我に返りましたよ。

「っ?!」

「襲われているな」

 前方に巻き上がる砂埃と共に怒号、悲鳴が聞こえます。
 静かに告げたヴォルですが、そんなに落ち着いていても良いのですか?!

「おいおい。もう少し切羽詰まった状況だと思うが?」

 ベンダーツさんまでもが、先程の動揺を見せない落ち着きぶりでした。──ってだから。

「助けないのですか?!」

 思わず声に出してしまいましたが、そこは仕方がない事にしてください。
 私は間違ってないですよね?だって、目の前──点のようにしか見えませんが──で魔物に襲われている商団がいるのですよ?
 あ、商団であるだろうという判断はたくさんの荷馬車がありますからね。

「護衛がいる」

 冷静なヴォルの声に、私も良く状況を見てみました。距離があって人の顔までは判別出来ませんが、大まかな状況判断は可能です。
 確かに襲われている商団のあちこちで、鎧を装備した数人による魔法や武器を使っての戦闘が行われているようでした。
 それでも見ている限り魔物の方が優勢で、倒れて動けなくなってしまっている人の数が多くなっています。

「ヴォル……」

 私は深く考える事なく、視線をヴォルに向けていました。あの人達を助けて欲しいと、そう目で訴えたのです。
 浅慮せんりょな私の、これは単なる我が儘でしかなかったのかもしれません。
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