273 / 515
第六章
4.貴族だろうが俺には関係がない【5】
しおりを挟む
「私はね、商人になりたかったの。家の為ではなく、自分の為に生きたかった」
ユーニキュアさんの視線は遠くを見ていました。それは荷馬車の方を見ているようでいて、もっと違う場所に思いを馳せているようです。
既に終わった事のように語ってはいるものの、彼女の瞳は夢に向けられ輝いていました。
「それなのに、もうダメね。商団もなくなってしまった……。あ~あ、これで私の自由も終わり。後は両親の為に家の為に、この身を捧げなくちゃ」
「諦めて……しまうのですか?」
言葉と共に私に向けられた彼女の瞳からはもう先程の輝きは消えています。夢としての光が潰えてしまったようでした。
確かに多くの荷馬車は壊れて倒され、たくさんの荷物が散乱しているようです。そして周囲には倒れている人達。彼女の仲間である事は明白でした。
それでも私の言葉に偽りの仮面をつけたユーニキュアさんが微笑みます。
「そうよ。今回が最後のチャンスだったもの。私、十九になるの。もう夢見る少女じゃいられなくなったのよ」
「夢を見るのに年齢制限があるのですか?」
「当たり前じゃないの。結婚して子供を育てなきゃならないのよ?夢の中では王子様が来てくれても、実際に王子様なんてみつからないわ。長女なら家を守る為にお金持ちではなくともそれなりの相手と結婚しなくちゃいけないし、好き嫌いがどうであれ子孫を残して繁栄させなければならないの」
表情では笑みを浮かべてはいました。
ですがこれって、彼女の本心ではないですよね。だって、瞳に輝きがないのです。夢が捨てきれないと雄弁に語っていました。
「ユーニキュアさんの思いは、そうではないですよね?本当は商人になりたいのではないのですか?」
「……なりたいわよ。でも、思ってるだけじゃダメだもの。私は長女なの。家を守るのは当たり前の事。貴族の義務ね」
「その為にご自分を犠牲にされるのですか?」
追及した私の言葉に首肯しつつも、立場が優先されるのだと言い切りました。でも私は彼女の考えに思わず自分の思いをぶつけてしまいます。
──あぁ、これって私の自己満足ですよね。
不意に冷静になりました。私は今ユーニキュアさんの事ではなく、ヴォルの事を思って怒っていたようです。勝手なのは私ですよね。
「ごめんなさい」
「……良いのよ。貴女の言いたい事も分からなくはないもの」
申し訳なくなって謝罪した私に対し、ユーニキュアさんは力なく微笑みました。
気分を害した様子はないので、少しだけ安心します。
「本当は私もそう思って、無理矢理この商団を率いて町を出たの。……でもその結果がこれ。商団の仲間も荷物も護衛も、皆ダメにしてしまったわ。もう言い訳が出来なくなっちゃった。これが現実なのよね」
「あの……、ご両親はユーニキュアさんの夢の事を知っているのですか?」
「知っている訳がないじゃない。教えた事すらないわよ。それに……言ったところで無駄なんじゃないかしら。だって貴族は、家を繁栄させていかなくてはならないもの」
消えそうな溜め息が聞こえました。
そして全てを諦めてしまったかのように、ユーニキュアさんは寂しく笑います。とても儚い雰囲気でした。
固定観念というものでしょうか。幼い頃から当たり前と聞かされて、それ以外の事実を知ろうともしていないのです。本当はもっと良い方法があるかもしれないのに。
何だか悲しいです。ヴォルもそうでしたけど、地位や権力を持った方々はそういうものなのでしょうか。
それが『普通』の事なのでしょうか。私には分かりません──分かりたくもないのかもしれないですね。
ユーニキュアさんの視線は遠くを見ていました。それは荷馬車の方を見ているようでいて、もっと違う場所に思いを馳せているようです。
既に終わった事のように語ってはいるものの、彼女の瞳は夢に向けられ輝いていました。
「それなのに、もうダメね。商団もなくなってしまった……。あ~あ、これで私の自由も終わり。後は両親の為に家の為に、この身を捧げなくちゃ」
「諦めて……しまうのですか?」
言葉と共に私に向けられた彼女の瞳からはもう先程の輝きは消えています。夢としての光が潰えてしまったようでした。
確かに多くの荷馬車は壊れて倒され、たくさんの荷物が散乱しているようです。そして周囲には倒れている人達。彼女の仲間である事は明白でした。
それでも私の言葉に偽りの仮面をつけたユーニキュアさんが微笑みます。
「そうよ。今回が最後のチャンスだったもの。私、十九になるの。もう夢見る少女じゃいられなくなったのよ」
「夢を見るのに年齢制限があるのですか?」
「当たり前じゃないの。結婚して子供を育てなきゃならないのよ?夢の中では王子様が来てくれても、実際に王子様なんてみつからないわ。長女なら家を守る為にお金持ちではなくともそれなりの相手と結婚しなくちゃいけないし、好き嫌いがどうであれ子孫を残して繁栄させなければならないの」
表情では笑みを浮かべてはいました。
ですがこれって、彼女の本心ではないですよね。だって、瞳に輝きがないのです。夢が捨てきれないと雄弁に語っていました。
「ユーニキュアさんの思いは、そうではないですよね?本当は商人になりたいのではないのですか?」
「……なりたいわよ。でも、思ってるだけじゃダメだもの。私は長女なの。家を守るのは当たり前の事。貴族の義務ね」
「その為にご自分を犠牲にされるのですか?」
追及した私の言葉に首肯しつつも、立場が優先されるのだと言い切りました。でも私は彼女の考えに思わず自分の思いをぶつけてしまいます。
──あぁ、これって私の自己満足ですよね。
不意に冷静になりました。私は今ユーニキュアさんの事ではなく、ヴォルの事を思って怒っていたようです。勝手なのは私ですよね。
「ごめんなさい」
「……良いのよ。貴女の言いたい事も分からなくはないもの」
申し訳なくなって謝罪した私に対し、ユーニキュアさんは力なく微笑みました。
気分を害した様子はないので、少しだけ安心します。
「本当は私もそう思って、無理矢理この商団を率いて町を出たの。……でもその結果がこれ。商団の仲間も荷物も護衛も、皆ダメにしてしまったわ。もう言い訳が出来なくなっちゃった。これが現実なのよね」
「あの……、ご両親はユーニキュアさんの夢の事を知っているのですか?」
「知っている訳がないじゃない。教えた事すらないわよ。それに……言ったところで無駄なんじゃないかしら。だって貴族は、家を繁栄させていかなくてはならないもの」
消えそうな溜め息が聞こえました。
そして全てを諦めてしまったかのように、ユーニキュアさんは寂しく笑います。とても儚い雰囲気でした。
固定観念というものでしょうか。幼い頃から当たり前と聞かされて、それ以外の事実を知ろうともしていないのです。本当はもっと良い方法があるかもしれないのに。
何だか悲しいです。ヴォルもそうでしたけど、地位や権力を持った方々はそういうものなのでしょうか。
それが『普通』の事なのでしょうか。私には分かりません──分かりたくもないのかもしれないですね。
0
あなたにおすすめの小説
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜
大森 樹
恋愛
髪は女の命。しかし、レベッカの髪は切ったら二度と伸びない。
みんなには秘密だが、レベッカの髪には魔法が宿っている。長い髪を切って、昔助けた男の子レオンが天才魔法使いとなって目の前に現れた。
「あなたを愛しています!絶対に絶対に幸せにするので、俺と結婚してください!よろしくお願いします!!」
婚約破棄されてから、一人で生きていくために真面目に魔法省の事務員として働いていたレベッカ。天才魔法使いとして入団してきた新人レオンに急に告白されるが、それを拒否する。しかし彼は全く諦める気配はない。
「レベッカさん!レベッカさん!」とまとわりつくレオンを迷惑に思いながらも、ストレートに愛を伝えてくる彼に次第に心惹かれていく…….。しかし、レベッカはレオンの気持ちに答えられないある理由があった。
年上訳あり真面目ヒロイン×年下可愛い系一途なヒーローの年の差ラブストーリーです。
お姉様優先な我が家は、このままでは破産です
編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。
だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!
愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理!
姉の結婚までにこの家から逃げたい!
相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる