「結婚しよう」

まひる

文字の大きさ
283 / 515
第六章

6.抑えが利(きか)なくなる【5】

しおりを挟む
「あの、怪我をしている方々は大丈夫なのですか?」

「えぇ……、何とか持ちこたえてはいるわ」

 わずかに眉を寄せたユーニキュアさんでした。
 どうやら、口で言う程大丈夫ではないのでしょう。

 それもそうです。私達の手持ちの薬草では簡単な治療しか出来ません。しかも、商団の方々は人数が多すぎます。
 元々彼等が運んでいた荷物は魔物に襲われて使える状態の物が少なく、しかも馬車の中へ怪我人を収容する為に不要な荷物はほとんど置いてきてしまいました。

「貴女達の薬草も使ってしまってごめんなさい。このまま町に辿り着く事が出来れば、必ずお礼をするわね」

 無意識なのか、ユーニキュアさんに諦めにも似た空気が漂います。ヴォルやベンダーツさんがそばにいない事で、更に不安が増しているようでした。
 それでもユーニキュアさんは強いです。歩ける人が徒歩で、怪我人の方々が馬車なのだと彼女が言いました。さすがに反論する人もいましたが、それは彼女を思っての事なのでしょう。
 そしてユーニキュアさんは言葉通り不馴れな筈の旅路を徒歩で行く事を選び、私が勧めたウマウマさんにも乗りませんでした。

 あ、そういう私はウマウマさんに乗っています。──と言うか私も歩いたのですが、その速度の遅さに怒られました。すみません。

「魔物って、こんなにもいるのね。町にいた時は気付きもしなかったけど、商団を移動させるのがこれ程大変だったなんて」

 溜め息をくようにユーニキュアさんが周囲を見回します。彼女の瞳に映るのは疲弊しつつも文句を言わず、黙々と足を進める仲間達なのだと思いました。
 そうですよね。私も村にいた時は──いえ、知りたくもなかったです。両親を亡くしてからは、魔物自体からも目をらしていましたから。
 そうなのです。私にとって冒険者の方々とは、その姿すら視界に入れたくない存在でした。──えぇ、ヴォルに会って連れ出されるまでは。

「以前旅をした時には、これ程魔物がいなかったと思います」

「そう……。何処かおかしくなっているのかしら。それともこれは一時的なものなのかしら」

 ユーニキュアさんの言葉に、私は引っ掛かりを感じました。
 魔物が──でしょうか。
 それともこの世界が──。

 そんな時、後方左手から激しい光の爆発が見られました。そうです。それはヴォル達のいる方向で。

「何? 貴女の魔剣士の魔法かしら……」

 ユーニキュアさんが呟きます。でも、私は答える事が出来ませんでした。
 不安が募ります。現在私達は、ヴォル達の討伐地点を大きく右に迂回する形でサガルットへ向かっていました。

 魔物達は強い魔力に引き付けられてか、私達を無視してヴォル達の方へ向かっていきます。つまり私達は結界の効果もあり、魔物からノーマークで進めている訳ですが。

「行かなくて良いの?」

 ユーニキュアさんが問い掛けてきます。
 そんな──事、当たり前ではないですか。行きたいですよっ、今すぐ!

 でも──出来ません。私はこの商団の方々をヴォルから任されたのですから。
 本当に私自身は何も出来ませんが、ヴォルの掛けてくれたこの結界がある限り大丈夫です。

 ──大丈夫です。

 …………大丈夫……ですよね?

「このまま進みましょう」

「……分かったわ」

 私は無理矢理前を向きます。ユーニキュアさんも何か思うところがあるでしょうけど、それ以上何も言わずにいてくれました。
 まだ目指すサガルットまでは距離があります。ここで私が商団を足止めしてしまえば、全員の生存率が下がるのだと心に鞭打ちました。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜

大森 樹
恋愛
髪は女の命。しかし、レベッカの髪は切ったら二度と伸びない。 みんなには秘密だが、レベッカの髪には魔法が宿っている。長い髪を切って、昔助けた男の子レオンが天才魔法使いとなって目の前に現れた。 「あなたを愛しています!絶対に絶対に幸せにするので、俺と結婚してください!よろしくお願いします!!」 婚約破棄されてから、一人で生きていくために真面目に魔法省の事務員として働いていたレベッカ。天才魔法使いとして入団してきた新人レオンに急に告白されるが、それを拒否する。しかし彼は全く諦める気配はない。 「レベッカさん!レベッカさん!」とまとわりつくレオンを迷惑に思いながらも、ストレートに愛を伝えてくる彼に次第に心惹かれていく…….。しかし、レベッカはレオンの気持ちに答えられないある理由があった。 年上訳あり真面目ヒロイン×年下可愛い系一途なヒーローの年の差ラブストーリーです。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

処理中です...