「結婚しよう」

まひる

文字の大きさ
286 / 515
第六章

7.もう使えんな【3】

しおりを挟む
「しっかし、思っていたよりも凄まじい力だったなぁ」

 いつの間にか口調が戻っていると思っていたが、あれは本人の動揺から現れたものか。逆に今は砕けた言い回しで、それがかえってわざとらしくも思えた。
 あぐらをかいて大地に座っている格好は変わらず、グルリと首を回すようにベンダーツが周囲を見渡す。
 しかしこの馴れ馴れしい話し方は、年齢差を考えるならば妥当かもしれないが初めから気に入らなかった。いつにもましてベンダーツの腹の中は中々読めない。

「鬱陶しかったからな。大半の魔力を練り込んだ」

 事も無げに答えると、わずかにベンダーツが目を見開いた。
 自分でも平時にはやらない珍しい行動だと思う。本当に地形を変える程の魔法が使えるなど笑止しょうしにも程があるが、周りに何もないこの場所だから出来ただけの事だ。
 しかもその後、急激な魔力消耗による意識消失とはいささ体裁ていさいが悪い。

「しかし…………、もう使えんな」

 俺は動かない左腕を見やった。つられるようにベンダーツの視線も感じる。

「……急に倒れるから俺も心臓が止まったぜ。ヴォルが強いのはマジで良く分かったから、もう二度としないでくれよ。ただでさえストレス溜まる仕事をしてきたんだから、これ以上俺の寿命を縮めさせないでくれないか?」

「ふん。お前の寿命など知った事ではないが、目の前でショック死されても寝覚めが悪いからな。考慮してやる事にする」

 本気か軽口かは分からないが、ベンダーツの言葉にのってやった。どちらにしても今はすぐに動けない。
 わずかになごんだところで、精霊が慌ただしく飛び回っている事に気付いた。──何だ?

「……メルが?」

「何だ、どうした?」

 ベンダーツが問い掛けてくるが、複数の精霊の声を聞き分けるのに忙しい。
 普段から言いたい事を口にする性質の精霊だが、今は酷く慌てている様子で更に要領を得なかった。

「聞き取れない。落ち着いて話せないか」

 俺の言葉にようやく精霊達が静まる。そうこうしている間に、いつも取りまとめをしている力のある精霊が出てきた。
 人間の声とは違い、実際に声帯を震わせて音を出す訳ではない生命である。それでも俺に声として届くのはひとえにこれ精霊との繋がりでもあるのだと感謝したくなった。

「……分かった。ありがとう」

「な、何だよ……」

「メルに危険が迫っている」

 精霊達に礼を告げる。すると即座にベンダーツが問い掛けてきた。
 俺の様子から吉報ではない事が伝わったのだろうが、あまり口にもしたくない内容である。──精霊の情報では、何とかサガルットには到着したらしい事は分かった。だが、現地の方がダメだったとは。

「サガルットに着かなかったのか?」

「着いたようだが、サガルット自体が魔物に襲われていた」

「は?あの大きな町が、崩れたって言うのか?」

 驚くベンダーツだが、俺も精霊からの情報なので詳しくは分からないのだ。
 それでもメルの安全だけは、俺が魔法をほどこした腕輪の力もあって心配はしていない。だがそれ以外の人間は保障出来ないし、そもそも俺にとって重要ですらなかった。

「……戻れるのか?」

「すぐには難しい」

 渋い顔で問い掛けてくる。俺は不本意ではあるが即答した。
 行けない。
 そうだ。行けるならすぐにでも飛んでいる。だが実際、今の俺の魔力残量ではこれ程離れてしまったメルの場所まで飛べなかった。

「すまない、ヴォル。俺にもっと力があれば良かったのに……」

「バカな事を言うな。俺がお前に求めているのはそんなものではない。更にこれに関する謝罪は受け付けない。あれは俺が自らの意思で行った事だ」

 頭を下げるベンダーツの言葉を妨げる。
 それに、悔やむ事など許されないのだ。メルに何かあってはならない。

「でもあの時魔法を使わなければ……」

うるさい。お前が危険だからあの魔法を放った訳ではないぞ、調子に乗るな。単に魔物の数がわずらわしかっただけだ。それ以上グダグダ言うと、お前を吹き飛ばすぞ」

 俺はベンダーツのそれ以上の言葉を封じた。
 今は魔力の回復に専念しなくてはならない。一刻も早くメルのそばに行かなくてはならないのだ。
 考えれば考える程、俺の精神をむしばむ。あぁ、気が狂いそうだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

チョイス伯爵家のお嬢さま

cyaru
恋愛
チョイス伯爵家のご令嬢には迂闊に人に言えない加護があります。 ポンタ王国はその昔、精霊に愛されし加護の国と呼ばれておりましたがそれももう昔の話。 今では普通の王国ですが、伯爵家に生まれたご令嬢は数百年ぶりに加護持ちでした。 産まれた時は誰にも気が付かなかった【営んだ相手がタグとなって確認できる】トンデモナイ加護でした。 4歳で決まった侯爵令息との婚約は苦痛ばかり。 そんな時、令嬢の言葉が引き金になって令嬢の両親である伯爵夫妻は離婚。 婚約も解消となってしまいます。 元伯爵夫人は娘を連れて実家のある領地に引きこもりました。 5年後、王太子殿下の側近となった元婚約者の侯爵令息は視察に来た伯爵領でご令嬢とと再会します。 さて・・・どうなる? ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。 処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。 まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。 私一人処刑すれば済む話なのに。 それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。 目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。 私はただ、 貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。 貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、 ただ護りたかっただけ…。 だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。  ❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

婚約解消は君の方から

みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。 しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。 私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、 嫌がらせをやめるよう呼び出したのに…… どうしてこうなったんだろう? 2020.2.17より、カレンの話を始めました。 小説家になろうさんにも掲載しています。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜

大森 樹
恋愛
髪は女の命。しかし、レベッカの髪は切ったら二度と伸びない。 みんなには秘密だが、レベッカの髪には魔法が宿っている。長い髪を切って、昔助けた男の子レオンが天才魔法使いとなって目の前に現れた。 「あなたを愛しています!絶対に絶対に幸せにするので、俺と結婚してください!よろしくお願いします!!」 婚約破棄されてから、一人で生きていくために真面目に魔法省の事務員として働いていたレベッカ。天才魔法使いとして入団してきた新人レオンに急に告白されるが、それを拒否する。しかし彼は全く諦める気配はない。 「レベッカさん!レベッカさん!」とまとわりつくレオンを迷惑に思いながらも、ストレートに愛を伝えてくる彼に次第に心惹かれていく…….。しかし、レベッカはレオンの気持ちに答えられないある理由があった。 年上訳あり真面目ヒロイン×年下可愛い系一途なヒーローの年の差ラブストーリーです。

処理中です...