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第六章
9.見なくて良い【3】
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瓦礫を飛び越えたヴォルが、ゆっくりと私を大地に下ろしてくれます。
「っ?!」
抱き上げられた照れ臭さから彼に背を向けて後ろを──町の壁側を振り向いた私ですが、そのまま息を呑んで固まってしまいました。
後ろからヴォルが私の目元をそっと覆います。私の視界からそれを隠すように。
「見なくて良い」
静かにヴォルが告げます。
耳元でうるさい程に聞こえる音は、ドクドクと暴れる私の心臓でした。背中にヴォルの温もりを感じるものの、恐怖から私は血の気が引いていくのを感じます。確かに──見たくないものでした。
「だ……い……じょうぶ……です」
震えてしまう声は仕方ないのですが、私は目元を包むヴォルの手に触れます。
これは現実なのだと分かっているのですから、いつまでも目を背けているだけではダメでした。
「……これ……は、どういう……事なのでしょうか」
少し吐き気がするものの、私は意識的にそれを観察します。
目の前にあるものは、私の中の常識では有り得ない事でした。
「魔物が突進した跡だ」
ヴォルが静かに説明をしてくれます。
そこに残る、魔物の突進によって起こったとされる壁の痕跡。辛うじて残る壁には大量の魔物の体液が付着しており、崩れた壁の周辺には肉や骨までもが散乱していました。
「何故……、魔物が結界壁にぶつかりに来るのでしょうか」
自然と震える身体を両手で抱きながら、逸らしてしまいそうになる視線で原因を探します。
普通は有り得ない──魔物が魔物避けに近付く事や、死を厭わずに壁にぶつかる──事が起きていました。特別な何かがあるのでしょうか。
「事実は不明だが、魔物が狂ってきているのと何か関係があるのかも知れない」
ヴォルが口元に拳を当てながら呟きます。
狂って──今回の魔物討伐の旅で、何度かヴォルとベンダーツさんが話していました。通常であれば、魔物と言えど命を粗末にする訳がないのです。
「操られている、とかですか?」
「……そうか。そういう考え方もあるな」
私の言葉に、思いもよらなかったという様子でヴォルが告げました。
でも魔物も他の生き物も、人とは違って自害などあまりしないと私は思います。それほどに生きるという本能の方が強い生命体の筈でした。
「ここを浄化する。メルは俺の後ろにいてくれ」
そういって私を少し下がらせると、ヴォルが天の剣を抜きました。
そして彼が剣を振る度にガラスのような透明な刃が煌めき、この場の無惨な魔物達の破片を光に変えていきます。
いずれ土に返るというそれらですが、現状のまま放置していては場を汚すだけのようでした。
「これで……ここは大丈夫になりましたか?」
「いや、完全には無理だ。染み込んだ魔物の体液が多すぎる」
暫くして魔物の骸はなったので、私はヴォルに確認します。ですが彼の返答は芳しくありませんでをした。
ヴォルのその言葉通り、大地の変色は未だに残ったままです。
壁と大地をまるごと──私は単純に、この周辺だけを取り除く事が必要だと思いました。
「転移、とかさせられませんか?」
「……そうか。分かった」
思い付きではありますが、私はヴォルを見上げて告げます。彼はそれを受け、僅かに瞳を見開きました。
すぐに首肯したヴォルがその場に結界を張ります。そして魔物の体液で変色してしまった周辺部分だけを包み込んだ結界は、いとも簡単に汚れと共に消失しました。
本当に何処かに飛ばしてしまったようです。
「これなら新しい結界を張る事が出来る」
目を細めたヴォル。
私は彼を見上げ、そしてもう大丈夫なのだと確信出来ました。
目の前にガッポリと空いてしまった大きな穴がありますが、この町を害する物はなくなったという事ですね。
「っ?!」
抱き上げられた照れ臭さから彼に背を向けて後ろを──町の壁側を振り向いた私ですが、そのまま息を呑んで固まってしまいました。
後ろからヴォルが私の目元をそっと覆います。私の視界からそれを隠すように。
「見なくて良い」
静かにヴォルが告げます。
耳元でうるさい程に聞こえる音は、ドクドクと暴れる私の心臓でした。背中にヴォルの温もりを感じるものの、恐怖から私は血の気が引いていくのを感じます。確かに──見たくないものでした。
「だ……い……じょうぶ……です」
震えてしまう声は仕方ないのですが、私は目元を包むヴォルの手に触れます。
これは現実なのだと分かっているのですから、いつまでも目を背けているだけではダメでした。
「……これ……は、どういう……事なのでしょうか」
少し吐き気がするものの、私は意識的にそれを観察します。
目の前にあるものは、私の中の常識では有り得ない事でした。
「魔物が突進した跡だ」
ヴォルが静かに説明をしてくれます。
そこに残る、魔物の突進によって起こったとされる壁の痕跡。辛うじて残る壁には大量の魔物の体液が付着しており、崩れた壁の周辺には肉や骨までもが散乱していました。
「何故……、魔物が結界壁にぶつかりに来るのでしょうか」
自然と震える身体を両手で抱きながら、逸らしてしまいそうになる視線で原因を探します。
普通は有り得ない──魔物が魔物避けに近付く事や、死を厭わずに壁にぶつかる──事が起きていました。特別な何かがあるのでしょうか。
「事実は不明だが、魔物が狂ってきているのと何か関係があるのかも知れない」
ヴォルが口元に拳を当てながら呟きます。
狂って──今回の魔物討伐の旅で、何度かヴォルとベンダーツさんが話していました。通常であれば、魔物と言えど命を粗末にする訳がないのです。
「操られている、とかですか?」
「……そうか。そういう考え方もあるな」
私の言葉に、思いもよらなかったという様子でヴォルが告げました。
でも魔物も他の生き物も、人とは違って自害などあまりしないと私は思います。それほどに生きるという本能の方が強い生命体の筈でした。
「ここを浄化する。メルは俺の後ろにいてくれ」
そういって私を少し下がらせると、ヴォルが天の剣を抜きました。
そして彼が剣を振る度にガラスのような透明な刃が煌めき、この場の無惨な魔物達の破片を光に変えていきます。
いずれ土に返るというそれらですが、現状のまま放置していては場を汚すだけのようでした。
「これで……ここは大丈夫になりましたか?」
「いや、完全には無理だ。染み込んだ魔物の体液が多すぎる」
暫くして魔物の骸はなったので、私はヴォルに確認します。ですが彼の返答は芳しくありませんでをした。
ヴォルのその言葉通り、大地の変色は未だに残ったままです。
壁と大地をまるごと──私は単純に、この周辺だけを取り除く事が必要だと思いました。
「転移、とかさせられませんか?」
「……そうか。分かった」
思い付きではありますが、私はヴォルを見上げて告げます。彼はそれを受け、僅かに瞳を見開きました。
すぐに首肯したヴォルがその場に結界を張ります。そして魔物の体液で変色してしまった周辺部分だけを包み込んだ結界は、いとも簡単に汚れと共に消失しました。
本当に何処かに飛ばしてしまったようです。
「これなら新しい結界を張る事が出来る」
目を細めたヴォル。
私は彼を見上げ、そしてもう大丈夫なのだと確信出来ました。
目の前にガッポリと空いてしまった大きな穴がありますが、この町を害する物はなくなったという事ですね。
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