「結婚しよう」

まひる

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第六章

9.見なくて良い【5】

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「ありがとうございます。何から何まで……」

「問題ない。町の結界を張れる者はいるのか」

「は、はい。先の魔物の襲撃で負傷した者もおりますが、結界を張る事は出来るかと」

 何やらオドオドとした様子の町長さんでしたが、ヴォルは用件を話終わると直ぐ様席を立ち上がりました。
 私はアワアワとそれにならいます。

「あ、報酬の方は只今用意しておりますので……あの、今しばらくお待ち下さい」

「分かった」

 部屋を出る前に慌てた様子で引き留められ、町長さんが冷や汗を浮かべながら告げました。それに対してもヴォルは無表情で一言だけ返し、私の手を引いて屋敷を出ます。
 私達を取り巻くように侍女さんのような方々が周囲にいましたが、周りに目もくれず颯爽と歩いていくヴォルに声を掛ける人はいませんでした。

「良かったのですか?何だか皆さん、何か言いたそうでしたけど……」

「……あの様な空気は好きではない」

 心配になって問い掛けます。でも思いも寄らず不機嫌そうな声でヴォルが答えました。
 まぁ、確かに雰囲気からお城を連想させますけれど。

「あの、ベ……マークさんが帰って来ませんね」

 話を変えようと、私は周囲を見回しながら告げます。
 そう言えば、特にこの町ではベンダーツさんと呼んではいけないのでした。危なかったです。

 しかしながらここは比較的大きな町でした。ベンダーツさんも買い出しだと言っていたので、すぐに戻って来なくても私達の行った商店以外に見所があるかもしれません。

「アイツも面倒な奴だ」

 小さく溜め息をくヴォルでした。──はい?
 私は彼の言わんとする事が分からず、思い切り首をかしげます。私の問いに対する答えではないような気もしました。

「腹の探り合いは好かん。地位と権力にしがみつく輩は大概たいがい腹黒い」

 それでもヴォルは、私の頭を撫でながら言葉を続けます。
 ──まぁ、ベンダーツさんは色々と考えていそうですけど。
 でも何だかんだで、結構ヴォル優先で考えて行動している気がする私でした。

「だから危険な目にも合う」

「え?」

 サラリと続けられたヴォルの言葉に、私は思い切り彼を見上げます。
 危険──って、ベンダーツさんに何かあったのですか?

「今はまだ動く時ではない」

 焦りだした私に気付いてか、ヴォルが優しく頬を撫でてくれました。
 これ、気分がフワッてなりますね。──って、そうではなくてですよっ。しかもここは普通に道の往来ですし。

「マークさんの危険が分かるのですか?」

「……あぁ。音が鳴る」

 ──音?
 小首をかしげた私に、無く右手を上げて見せてくれたヴォルです。
 私と繋いでいる側のその親指には、銀色に輝く主従のリングがありました。勿論手首には私と一緒の既婚の腕輪があるのですが。

「音……ですか」

「耳鳴りのような高い音だ。今はまだ微かに聞こえる程度。危険度はそれほど高くはない。……それに白昼堂々と押し入って良いのならばそうするが、アイツも子供ではない。夜までは様子を見ようと思う」

 再び溜め息をくヴォルです。
 ベンダーツさんを心配していない訳ではなく、かといって今は行動に移すべきではないといった感じのようでした。何だか二人の間で色々と取り決めがありそうです。
 それでも私は、ヴォルの言う『危険度』が気になりました。

 そうかといって町を救った冒険者を襲うなんて事は、普通は誰であっても多くの町民達の反感を買いそうです。それに何をしているのかは分かりませんが、下手に私が動いたらベンダーツさんのプライドも傷付きそうでした。
 ──そっちの方が後々怖いですよね。
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