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第七章
2.今は……まだ……【4】
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「この人達は……本当に町の人達ですよね?」
私は独り言のように呟きます。
どの人の顔も能面のようで、あまりにも状況と一致していませんでした。表情の乏しいヴォルに慣れてしまった私でも、この人達の無表情には人間味を感じられないのです。
「どうかしたのか、メル」
「えっと……何となく、『人』らしくないと言うか……ですね」
小首を傾げる私に、ヴォルが不思議そうに問い掛けてきました。
彼は違和感を感じないのか、私の言葉に反応しただけのようです。でも自分の思った感覚を言葉にするのは難しいですね。
「人間らしさ……。それは何だ」
「ん~、感情が感じられないと言うか……目に生気が見えないと言うか……ですかね?」
改めて問われると私も自信がなくなってしまうのですが、しどもどもろながらもヴォルに説明をしました。
いくら表情の変化が薄くても、人は感情の生き物です。全てを隠しきるなんて──しかもこれだけの人達全員がそう出来るだなんて、考えられませんでした。
「……なるほど。確かに、ここに集まって来ている人間には怒りや焦りなどが見えない。この辺りの魔物もそうだったな」
「魔物もですか?あんなに怖い顔で襲い掛かって来ていたのにですよ?」
「見た目に恐怖を感じるのはやむを得ない。それ以上に普段は捕食者ゆえの飢えなどを見せる。腹が空いてなければ余程襲い掛かっては来ない」
ヴォルの説明に私は納得して頷きを返します。
確かに野性動物はそんな感じですね。本能に忠実というのは、ある意味分かりやすくもありました。
「今は目にしたものを襲う感じなのでしょうか?」
「あぁ。ただ『襲う』事を命じられているようにだ」
私の問い掛けに答えてくれたヴォルは、僅かに瞳を細めます。
これは恐らく嫌悪だと思いました。何かでおかしくなってしまっているのではなく、故意に歪められてしまっていると感じているようです。
「あの、ヴォル。私の声を結界の外に届けられますか?」
「あぁ、問題ない。結界はこのまま維持し、映像と音声を外部に解放しよう」
思い付きのまま提案したのですが、ヴォルは簡単に首肯してくれました。
とにかくこのままでは何も出来ないので、こちらから行動してみようと考えたのです。それがどう影響するかは分かりませんが、結界の外にいる筈のベンダーツさんも心配でした。
私は深呼吸をして自らを落ち着けます。しかしながら次に瞳を開けた時、外の人達が私達を見ている事に気付いて一瞬身体が震えました。
だ、大丈夫です。見えるだけなのですから、危害を加えられる事はない筈──と、逃げそうになる自分を必死に奮い立たせました。
「あ、あの……サガルットの町の皆さん」
私が話すと、更に一層私へ視線が集中します。──うぅ、怖いです。
既に折れそうな心の私の後ろからヴォルが肩を支えてくれました。それでも私の腰は引けてますけど──が、頑張ります。
「あの、どうして貴殿方は武装しているのですか?」
声が震えてしまうのを承知で問い掛けました。
勿論、誰も答えてはくれません。
「ユーニキュアさんはいらっしゃいますか?……町長さんはどうしたのですかね?……お屋敷が大変な事になっていますけど……」
私は周囲を見回しながら、話を聞いてくれそうな人を捜しました。
ダメです、しかも誰も反応してくれません。ただ私の姿に視線を向けるばかりでした。ドキドキとうるさい鼓動を刻む胸元を抑えつつ、部屋の壁に映し出された町の人々の動きを待ちます。
ですが、突然何かがドカッと結界にぶつかって来ました。
「ヒッ!?」
あまりの音に、私は変な悲鳴を漏らします。
そして無意識に一歩後退り、当たり前ながら真後ろにいたヴォルにぶつかってしまいました。
「メル」
ヴォルが私を庇うように抱き包みます。
さっきからドキドキと心臓が暴れていますが、違うドキドキが混ざっているのは気のせいでしょうか。
「あ、あの……ヴォル?」
外の人々から私達が見えていた筈なのですが、ヴォルとの距離感が恥ずかしくて吹き飛んでしまいました。後ろを見上げながら訴えかけますが、彼は私を胸に囲んだままです。
解放を求めてモゾモゾと動きますが、ヴォルは私を包み込む腕の力を弱めてはくれませんでした。
「不味いな」
「えっ?」
ヴォルの呟きが聞こえた気がしますが、その後何度もドカッと重い何かがぶつかる音が続きます。
──ど、どうしたのです?何が起こってるのですか?
物音は聞こえますが、確認しようと周囲を見回した私の視界に映ったのは普通の部屋でした。いつの間にか、外の映像すら消えてしまっています。
「メル。ここは危険だ。脱する」
「は……」
ヴォルの判断で結界外と再度断絶されたのでしょうが、壁を揺らすような振動はまだ続いていました。
えぇ。問い掛けの体ではなかったので、私に返事を求められた訳ではないのです。そして私が言葉を発する暇もなく、クッとヴォルの身体に力が入りました。
正直、息が止まりましたよ。
私は独り言のように呟きます。
どの人の顔も能面のようで、あまりにも状況と一致していませんでした。表情の乏しいヴォルに慣れてしまった私でも、この人達の無表情には人間味を感じられないのです。
「どうかしたのか、メル」
「えっと……何となく、『人』らしくないと言うか……ですね」
小首を傾げる私に、ヴォルが不思議そうに問い掛けてきました。
彼は違和感を感じないのか、私の言葉に反応しただけのようです。でも自分の思った感覚を言葉にするのは難しいですね。
「人間らしさ……。それは何だ」
「ん~、感情が感じられないと言うか……目に生気が見えないと言うか……ですかね?」
改めて問われると私も自信がなくなってしまうのですが、しどもどもろながらもヴォルに説明をしました。
いくら表情の変化が薄くても、人は感情の生き物です。全てを隠しきるなんて──しかもこれだけの人達全員がそう出来るだなんて、考えられませんでした。
「……なるほど。確かに、ここに集まって来ている人間には怒りや焦りなどが見えない。この辺りの魔物もそうだったな」
「魔物もですか?あんなに怖い顔で襲い掛かって来ていたのにですよ?」
「見た目に恐怖を感じるのはやむを得ない。それ以上に普段は捕食者ゆえの飢えなどを見せる。腹が空いてなければ余程襲い掛かっては来ない」
ヴォルの説明に私は納得して頷きを返します。
確かに野性動物はそんな感じですね。本能に忠実というのは、ある意味分かりやすくもありました。
「今は目にしたものを襲う感じなのでしょうか?」
「あぁ。ただ『襲う』事を命じられているようにだ」
私の問い掛けに答えてくれたヴォルは、僅かに瞳を細めます。
これは恐らく嫌悪だと思いました。何かでおかしくなってしまっているのではなく、故意に歪められてしまっていると感じているようです。
「あの、ヴォル。私の声を結界の外に届けられますか?」
「あぁ、問題ない。結界はこのまま維持し、映像と音声を外部に解放しよう」
思い付きのまま提案したのですが、ヴォルは簡単に首肯してくれました。
とにかくこのままでは何も出来ないので、こちらから行動してみようと考えたのです。それがどう影響するかは分かりませんが、結界の外にいる筈のベンダーツさんも心配でした。
私は深呼吸をして自らを落ち着けます。しかしながら次に瞳を開けた時、外の人達が私達を見ている事に気付いて一瞬身体が震えました。
だ、大丈夫です。見えるだけなのですから、危害を加えられる事はない筈──と、逃げそうになる自分を必死に奮い立たせました。
「あ、あの……サガルットの町の皆さん」
私が話すと、更に一層私へ視線が集中します。──うぅ、怖いです。
既に折れそうな心の私の後ろからヴォルが肩を支えてくれました。それでも私の腰は引けてますけど──が、頑張ります。
「あの、どうして貴殿方は武装しているのですか?」
声が震えてしまうのを承知で問い掛けました。
勿論、誰も答えてはくれません。
「ユーニキュアさんはいらっしゃいますか?……町長さんはどうしたのですかね?……お屋敷が大変な事になっていますけど……」
私は周囲を見回しながら、話を聞いてくれそうな人を捜しました。
ダメです、しかも誰も反応してくれません。ただ私の姿に視線を向けるばかりでした。ドキドキとうるさい鼓動を刻む胸元を抑えつつ、部屋の壁に映し出された町の人々の動きを待ちます。
ですが、突然何かがドカッと結界にぶつかって来ました。
「ヒッ!?」
あまりの音に、私は変な悲鳴を漏らします。
そして無意識に一歩後退り、当たり前ながら真後ろにいたヴォルにぶつかってしまいました。
「メル」
ヴォルが私を庇うように抱き包みます。
さっきからドキドキと心臓が暴れていますが、違うドキドキが混ざっているのは気のせいでしょうか。
「あ、あの……ヴォル?」
外の人々から私達が見えていた筈なのですが、ヴォルとの距離感が恥ずかしくて吹き飛んでしまいました。後ろを見上げながら訴えかけますが、彼は私を胸に囲んだままです。
解放を求めてモゾモゾと動きますが、ヴォルは私を包み込む腕の力を弱めてはくれませんでした。
「不味いな」
「えっ?」
ヴォルの呟きが聞こえた気がしますが、その後何度もドカッと重い何かがぶつかる音が続きます。
──ど、どうしたのです?何が起こってるのですか?
物音は聞こえますが、確認しようと周囲を見回した私の視界に映ったのは普通の部屋でした。いつの間にか、外の映像すら消えてしまっています。
「メル。ここは危険だ。脱する」
「は……」
ヴォルの判断で結界外と再度断絶されたのでしょうが、壁を揺らすような振動はまだ続いていました。
えぇ。問い掛けの体ではなかったので、私に返事を求められた訳ではないのです。そして私が言葉を発する暇もなく、クッとヴォルの身体に力が入りました。
正直、息が止まりましたよ。
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