「結婚しよう」

まひる

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第七章

6.胸の辺りが重い【4】

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「……ヴォル、それ……分かって言ってる?」

 魔物と戦闘中だというのに、何故か小さな溜め息と共に放たれた言葉である。
 余裕だな、何だと言うのだ。ベンダーツの視線に酷くあわれみを乗せてられているように感じるのは気のせいだろうか。

「何が言いたい」

 ベンダーツの言葉の意味が分かる訳ではないが、現状の自分の鬱憤もあって更に低い声音で問い掛けた。
 そしてその苛立ちと共に、少しばかり強力な魔法を周囲に放ち問う。

「……ったく、いい加減に経験から察しろって」

 あきれの色濃い言葉と溜め息。それでもベンダーツの舞うような戦闘スタイルが崩れはしなかった。
 何なんだ。酷く気分がざわつく。感情が逆撫さかなでされる。

「腕輪。右腕にした方が良いんじゃない?」

 突然のベンダーツからの指摘に、話の脈絡みゃくらくがないように思えた。
 俺の眉が動いたのが見えたのか、ベンダーツはこの戦闘の最中さなかでも分かる程大きな溜め息をつく。

「左腕は義手だ。あくまでもであって、神経のかよったではない。今それが熱を持っている事が分からないのだろう?」

 クルリと一回り回転しながら魔物を数体切り裂き、更に俺へ顎で促してきた。
 それ・・と指し示したのは腕輪なのだろう。俺は魔物討伐に意識をかれながらも、自らの左手に視線を移した。
 ──淡く光っている。
 その輝きは屋外では目立たない程の光量ではあったが、通常時では有り得ないものだった。

「それ……、メルと繋がっているのだろう?」

 背後から襲い掛かる魔物を一太刀で斬り捨て、疲れも焦りも見せずに俺へ語りかけてくる。
 そして俺は、ようやくベンダーツの言葉が意味しているところが分かった。何かが──彼女に起きている。

「メル……」

 「そう言う事だよね。何があったかは分からないけど、普通に結界の中で大人しくしていれば異変は起こらない筈だよね?」

 魔物の叫びとざわめきでうるさい戦闘中ではあるが、俺とベンダーツの会話は精霊の助けを借りる事で成り立っていた。それは些細な呟きすら届けてしまう。
 俺が彼女の名を口にした事で笑みを浮かべたベンダーツは、こちらの感情を煽るように更なる爆弾を投下してきた。
 ──なん……だとっ?
 俺は即座に結界の中を読み取ろうとするが、周囲の魔物が邪魔で集中出来ない。

「くっ……、うるさいっ!」

 叫びと共に俺はベンダーツに防御の結界を張りながら、四方へ攻撃魔法を放った。
 ある魔物は炭となり、あの魔物は瞬時に凍り付いて砕ける。風の刃で複数個に分断される魔物、大地から突き出した岩の槍に串刺しになる魔物もあった。
 そうして俺が放った強力魔法の効果で、周辺にいた中型以下の魔物が全て動かぬ肉へ変わる。

「まさか……っ」

 そんな魔法効果による結果など気にする余裕もなく、俺は意識をメルがいる筈の結界に向けて驚きに息をんだ。

 ──いない。

 結界内のみならずその周囲も感知の幅を広げてみるが生命反応はない。少しも熱も感じなかった。
 結果から推測される事は、そこを出てから随分と時間がっているだろう事実。愕然がくぜんとする己の感情をじ伏せ、メルの腕輪を探知する。
 いた──のだが、何故かそれは町の中心にあった。

「ここは良いから、行ってきたら?」

 俺の様子を見てとったのか、ベンダーツが事も無げに言い放つ。
 状況からして良い筈もないのにそう告げられ、誰が素直に首肯出来るのだ。まだ大型の魔物が複数体残っている。
 とりあえずサガルットの民は拘束型の結界にこのまま閉じ込めておくとしても、ベンダーツ一人で手に負える数ではなかった。

「ベンダーツ。メルは町の中心にいる。お前が行け」

「良いの?」

 現状の最良の判断としてそう言ったのだが、俺の言葉に意外そうに驚くベンダーツである。
 その態度に心外だと文句をつけたくなるが、俺とて大型を任せられるなら任せているのだ。だが通常の剣士には明らかに荷が重すぎる。この数を相手にするには更なる強力な魔法が必要だと本能で分かっていた。

「他にいない。メルを守れ。傷一つ付ける事も許さない」

「……分かった。行ってくる」

 驚きの表情で問われた為に追加で条件をつければ、神妙な顔で頷いたベンダーツは町へ向けて駆け出す。そしてその背を事を確認し、俺は再び魔物に向き合った。
 早く片付けて俺も行く。ベンダーツだけに──いや、本心では誰にも任せたくはないのだ。

 しかし、何故腕輪の異常に気が付かなかったのか。

 自責の念にさいなまれた。
 だがまだ間に合う。知らせてきている状態は『異常』だが、『危険』ではないのだ。
 ──いや、そう思い込みたいのかも知れない。
 俺は顔を上げた。
 目の前に俺の道を塞ぐ壁がある。それは凄く邪魔だった。
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