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第七章
7.コレとは何の事だ【4】
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「メル……。すまないが、少し力を緩めてくれないか」
不意にヴォルから告げられた言葉で、私は自分のしている事に漸く気が付きました。
私、ヴォルの頭を思い切り胸に抱き締めています。大した質量のない胸ですが、一応の柔らかさは装備されている筈でした。
「ご、ごめんなさいっ!」
慌てて手を離して謝罪したのですが、ヴォルの様子が変です。片手で顔を覆い、呼吸を整えているようでした。
何でしょう──もしかして痛かったとか、苦しかったとかでしょうか。
「すまない、その……自分が抑えられなくなりそうだ」
首を傾げそうになった私ですが、ヴォルの逸らされた瞳に熱を見ました。
そんな気はなかったのですが、考えなしの行動ですみません。
「お~い、俺の事を忘れてはいないよねぇ?」
突然聞こえた声に振り向くと、いつの間にかベンダーツさんがいました。結界外の景色は相変わらず見えないのですが、出入りは可能のようです。
ですがベンダーツさんのその視線がいつもより細められていて、今の私達に不快感を示していました。
「そんなに密着して、今からナニを始める気だったのかな?」
ニコニコしているベンダーツさんは笑顔なのに目が笑っていなくて、とても怖く感じます。
既に身体の密着は解除されていた私達ですが、慌てて更に後退して離れます。──不機嫌そうなヴォルには申し訳ないですけど。
「煩い。……それより、アイツはどうした」
「何、俺の話を聞きたい?そうでしょう、聞きたいでしょう?本っ当に大変だったんだから、完全に自失状態でぇ。野郎なんて担ぎたくないけど動かないから仕方なくて、引き摺って辛うじて機能し始めていた自警団に連れていったよ」
胸を張って告げるベンダーツさんでした。
でもあの──ゼブルさんへの対応は大丈夫なのでしょうか。しかも担ぎたくないから引き摺ったなんて、これは事実ではなく揶揄であると思う事にしました。
「あ、何?心配なの、メル。大丈夫だよ、アイツはもう魔力を声に乗せる事が出来ないから。それに気付かないまま、自警団に着いた後に色々と自分を正当化させる為に叫んでいたけど」
「えっ?」
ベンダーツさんの言葉に驚きます。
でも『魔力を声に乗せる事が出来ない』の意味が分からず、思わず説明を求めてヴォルを見上げてしまいました。
「声帯と魔力を繋ぐ筋を切った。奴はただの魔力所持者だ」
視線だけで問い掛けの内容が伝わったのか、ヴォルは事も無げに答えてくれます。
しかしながらそんな事も出来るのかと、感心するしかありませんでした。
「アイツは普通に喋る事は出来るけど、もう魔力を乗せられないからただの言葉にしかならないんだよ。結構危険な能力だったから、このまま放置する訳にもいかなかったんだよねぇ」
「そうですか……。あの、もう皆さんは元に戻ったのでしょうか」
「そうみたいだよ?自警団は状況が分からず慌てていたけど。この件の犯人だって言って突き出してやったから、さすがにアイツの言葉へ耳を貸す奴はいなかったな。って事でヴォル、外の人達はどうすんの」
「あれはまだ良い。だが、奴の犯罪が立証出来るのか」
ベンダーツさんの報告が終わり、ヴォルはそう告げた後で再び私を抱き締めます。
この町の人達は皆が魔法に操られていたのですが、その方法が言葉によるものなので証明が難しい事に気付きました。
セントラルに連れていけたとしても、誰もゼブルさんを犯人だと分からないのではないでしょうか。
「大丈夫さ、俺が証拠を置いてきたから。何の為に潜入してたと思ってんの。ちゃんと自警団には記録魔石を渡してきたよ。それに魔法操作を受けたとはいえ、全く記憶がなくなる訳じゃないからね。ほら……まだ良いとか言ってないで、早く外の処理をしてこいって。現時点で拘束しているのはヴォルの方なんだから、長引くとこっちが不利になるだろ?」
私の心配を予想していたのか、ベンダーツさんは楽しそうに告げました。
何やらベンダーツさんが捜査官のようです。忘れていましたが、彼は優秀なヴォルの秘書官の役割をしていました。状況を記録する魔石なんていうのも、お城では普通に使われていたのでしょうか。
不意にヴォルから告げられた言葉で、私は自分のしている事に漸く気が付きました。
私、ヴォルの頭を思い切り胸に抱き締めています。大した質量のない胸ですが、一応の柔らかさは装備されている筈でした。
「ご、ごめんなさいっ!」
慌てて手を離して謝罪したのですが、ヴォルの様子が変です。片手で顔を覆い、呼吸を整えているようでした。
何でしょう──もしかして痛かったとか、苦しかったとかでしょうか。
「すまない、その……自分が抑えられなくなりそうだ」
首を傾げそうになった私ですが、ヴォルの逸らされた瞳に熱を見ました。
そんな気はなかったのですが、考えなしの行動ですみません。
「お~い、俺の事を忘れてはいないよねぇ?」
突然聞こえた声に振り向くと、いつの間にかベンダーツさんがいました。結界外の景色は相変わらず見えないのですが、出入りは可能のようです。
ですがベンダーツさんのその視線がいつもより細められていて、今の私達に不快感を示していました。
「そんなに密着して、今からナニを始める気だったのかな?」
ニコニコしているベンダーツさんは笑顔なのに目が笑っていなくて、とても怖く感じます。
既に身体の密着は解除されていた私達ですが、慌てて更に後退して離れます。──不機嫌そうなヴォルには申し訳ないですけど。
「煩い。……それより、アイツはどうした」
「何、俺の話を聞きたい?そうでしょう、聞きたいでしょう?本っ当に大変だったんだから、完全に自失状態でぇ。野郎なんて担ぎたくないけど動かないから仕方なくて、引き摺って辛うじて機能し始めていた自警団に連れていったよ」
胸を張って告げるベンダーツさんでした。
でもあの──ゼブルさんへの対応は大丈夫なのでしょうか。しかも担ぎたくないから引き摺ったなんて、これは事実ではなく揶揄であると思う事にしました。
「あ、何?心配なの、メル。大丈夫だよ、アイツはもう魔力を声に乗せる事が出来ないから。それに気付かないまま、自警団に着いた後に色々と自分を正当化させる為に叫んでいたけど」
「えっ?」
ベンダーツさんの言葉に驚きます。
でも『魔力を声に乗せる事が出来ない』の意味が分からず、思わず説明を求めてヴォルを見上げてしまいました。
「声帯と魔力を繋ぐ筋を切った。奴はただの魔力所持者だ」
視線だけで問い掛けの内容が伝わったのか、ヴォルは事も無げに答えてくれます。
しかしながらそんな事も出来るのかと、感心するしかありませんでした。
「アイツは普通に喋る事は出来るけど、もう魔力を乗せられないからただの言葉にしかならないんだよ。結構危険な能力だったから、このまま放置する訳にもいかなかったんだよねぇ」
「そうですか……。あの、もう皆さんは元に戻ったのでしょうか」
「そうみたいだよ?自警団は状況が分からず慌てていたけど。この件の犯人だって言って突き出してやったから、さすがにアイツの言葉へ耳を貸す奴はいなかったな。って事でヴォル、外の人達はどうすんの」
「あれはまだ良い。だが、奴の犯罪が立証出来るのか」
ベンダーツさんの報告が終わり、ヴォルはそう告げた後で再び私を抱き締めます。
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セントラルに連れていけたとしても、誰もゼブルさんを犯人だと分からないのではないでしょうか。
「大丈夫さ、俺が証拠を置いてきたから。何の為に潜入してたと思ってんの。ちゃんと自警団には記録魔石を渡してきたよ。それに魔法操作を受けたとはいえ、全く記憶がなくなる訳じゃないからね。ほら……まだ良いとか言ってないで、早く外の処理をしてこいって。現時点で拘束しているのはヴォルの方なんだから、長引くとこっちが不利になるだろ?」
私の心配を予想していたのか、ベンダーツさんは楽しそうに告げました。
何やらベンダーツさんが捜査官のようです。忘れていましたが、彼は優秀なヴォルの秘書官の役割をしていました。状況を記録する魔石なんていうのも、お城では普通に使われていたのでしょうか。
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