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第七章
9.偽(イツワ)りを告げるのか【5】
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「……周囲の人間を疎かにしているのはお前だろ」
静かに告げられたヴォルの言葉に、ユーニキュアさんがカッと目を見開きます。
「皇帝様の御子息である貴方に、こんな辺境の町に住む私の気持ちなんか分からないでしょうねっ」
ユーニキュアさんは強気の態度で食って掛かりました。
確かにここはセントラルから離れていますが、同じ大陸なのですから辺境とまではいかないと思います。ここが辺境なら、マヌサワの農村は異世界になってしまう気がしました。
「お前の感情など知った事ではない」
「なっ……?!」
「俺はお前の周囲の人間の事を言った」
「私の周囲の人が何だと言うのですかっ?」
ヴォルは静かに言葉を綴ります。
感情的になっているユーニキュアさんは言葉の真意が分からないようで、顔に赤みが増して苛々しているようでした。
しかしながらヴォルの言い方は淡々と事実のみを告げるだけなので、喧嘩腰の相手には火に油を注ぐだけのようです。それがヴォルなのですが、これにはフォローが必要でした。
「本当に気付いてないんだぁ?ねぇ、メル」
「あ、はい。皆さん、ユーニキュアさんの事をとても大切に思われていますよ。この町への道中に商団の色々な人とお話ししましたが、娘のように、家族のように親身になって考えていらっしゃるようでした」
ベンダーツさんはヴォルの言葉を補足しつつ、私に話を振ってきます。でも言いたい事は分かったので、引き継いでみました。
だって私はこの町に来た時、ユーニキュアさんが不在の間もずっと商団の人達といたのです。皆さんはユーニキュアさんの事を本当に大切に思っているようで、自分の命を擲ってでも魔物が暴れる中を助けに行こうとしていたくらいでした。
「そんな事……」
「ないと言えるのか」
否定する呟きを溢すユーニキュアさんですが、ヴォルはその全てを告げさせる事すらしません。
ヴォルとベンダーツさんはあの時は町に行っていたので同じ場面は見ていませんでしたが、それ以外の旅の最中の様々な場面で感じ取れていたようです。
それくらい、町の人のユーニキュアさんへの思いは温かいものだったと私は思ったのでした。同じようにヴォルもベンダーツさんも感じているようで、この場でユーニキュアさんの味方をする人はいないようです。
「き、貴族の重圧は平民には分からないのよっ」
「なぁんだ」
突然、この場にそぐわないノンビリとした声がしました。
声の主はベンダーツさんです。
「アンタさぁ、結局自分が差別してるだけじゃん」
「な……にを……っ!?」
付き放つように言われ、怒りでカッと顔を赤くするユーニキュアさんでした。
それでもベンダーツさんはつまらないものでも見るような目を向けています。
「ブルーべ家の令嬢だからどんな立派な教育を受けているかと思えば……ハッ、笑っちゃうね。ヴォル、もう良いや。これじゃ役に立ちそうもないし……第一、俺は要らないな」
続けて嘲るようにユーニキュアさんへ告げました。そしてヴォルに振り返ると、呆れたように溜め息混じりで伝えます。
しかしながら私には彼等の話している内容が不明なままでした。そもそも、いるとかいらないとか──何の話ですか。
「そうか」
ヴォルは事も無げに応じます。
そうかって──ヴォルとベンダーツさんは何やら通じ合っているようでした。
「な、何を言ってるのかしら」
ヴォルとベンダーツさんのやり取りに狼狽えるユーニキュアさんです。
私も蚊帳の外感が半端ないですが、彼女も同じようで少し安心しました。
「……アンタ、ヴォルの事を『本当に』知らないでしょ。知っていたらそんな態度は出来ないよね、普通」
「知っています、第一皇太子様ですわ。魔力値が高く、精霊がつく程だとか。知識も深くて、幼少の頃から皇帝様の公務をお手伝いなさっていらっしゃる。容姿端麗であり武芸に秀でた方、過去に類を見ない逸材だとか」
ベンダーツさんの呆れを多分に含んだ問い掛けに、ユーニキュアさんが知った顔で答えます。
しかしながらその内容が──何だかとても凄まじい看板を背負っていました。いえ、それらは知っていましたけどね。でも、世間一般的なヴォルの認識はそんな感じです。
静かに告げられたヴォルの言葉に、ユーニキュアさんがカッと目を見開きます。
「皇帝様の御子息である貴方に、こんな辺境の町に住む私の気持ちなんか分からないでしょうねっ」
ユーニキュアさんは強気の態度で食って掛かりました。
確かにここはセントラルから離れていますが、同じ大陸なのですから辺境とまではいかないと思います。ここが辺境なら、マヌサワの農村は異世界になってしまう気がしました。
「お前の感情など知った事ではない」
「なっ……?!」
「俺はお前の周囲の人間の事を言った」
「私の周囲の人が何だと言うのですかっ?」
ヴォルは静かに言葉を綴ります。
感情的になっているユーニキュアさんは言葉の真意が分からないようで、顔に赤みが増して苛々しているようでした。
しかしながらヴォルの言い方は淡々と事実のみを告げるだけなので、喧嘩腰の相手には火に油を注ぐだけのようです。それがヴォルなのですが、これにはフォローが必要でした。
「本当に気付いてないんだぁ?ねぇ、メル」
「あ、はい。皆さん、ユーニキュアさんの事をとても大切に思われていますよ。この町への道中に商団の色々な人とお話ししましたが、娘のように、家族のように親身になって考えていらっしゃるようでした」
ベンダーツさんはヴォルの言葉を補足しつつ、私に話を振ってきます。でも言いたい事は分かったので、引き継いでみました。
だって私はこの町に来た時、ユーニキュアさんが不在の間もずっと商団の人達といたのです。皆さんはユーニキュアさんの事を本当に大切に思っているようで、自分の命を擲ってでも魔物が暴れる中を助けに行こうとしていたくらいでした。
「そんな事……」
「ないと言えるのか」
否定する呟きを溢すユーニキュアさんですが、ヴォルはその全てを告げさせる事すらしません。
ヴォルとベンダーツさんはあの時は町に行っていたので同じ場面は見ていませんでしたが、それ以外の旅の最中の様々な場面で感じ取れていたようです。
それくらい、町の人のユーニキュアさんへの思いは温かいものだったと私は思ったのでした。同じようにヴォルもベンダーツさんも感じているようで、この場でユーニキュアさんの味方をする人はいないようです。
「き、貴族の重圧は平民には分からないのよっ」
「なぁんだ」
突然、この場にそぐわないノンビリとした声がしました。
声の主はベンダーツさんです。
「アンタさぁ、結局自分が差別してるだけじゃん」
「な……にを……っ!?」
付き放つように言われ、怒りでカッと顔を赤くするユーニキュアさんでした。
それでもベンダーツさんはつまらないものでも見るような目を向けています。
「ブルーべ家の令嬢だからどんな立派な教育を受けているかと思えば……ハッ、笑っちゃうね。ヴォル、もう良いや。これじゃ役に立ちそうもないし……第一、俺は要らないな」
続けて嘲るようにユーニキュアさんへ告げました。そしてヴォルに振り返ると、呆れたように溜め息混じりで伝えます。
しかしながら私には彼等の話している内容が不明なままでした。そもそも、いるとかいらないとか──何の話ですか。
「そうか」
ヴォルは事も無げに応じます。
そうかって──ヴォルとベンダーツさんは何やら通じ合っているようでした。
「な、何を言ってるのかしら」
ヴォルとベンダーツさんのやり取りに狼狽えるユーニキュアさんです。
私も蚊帳の外感が半端ないですが、彼女も同じようで少し安心しました。
「……アンタ、ヴォルの事を『本当に』知らないでしょ。知っていたらそんな態度は出来ないよね、普通」
「知っています、第一皇太子様ですわ。魔力値が高く、精霊がつく程だとか。知識も深くて、幼少の頃から皇帝様の公務をお手伝いなさっていらっしゃる。容姿端麗であり武芸に秀でた方、過去に類を見ない逸材だとか」
ベンダーツさんの呆れを多分に含んだ問い掛けに、ユーニキュアさんが知った顔で答えます。
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