「結婚しよう」

まひる

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第七章

10.契約を破棄している【4】

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 それからは早かったです。

 ヴォルはまず、隔離している結界の中から人だけを解放しました。その人達は戸惑いつつも町に戻ったりその場に留まったりしていましたが、ヴォルはその後に残っている全て・・を更に大きな結界に閉じ込めます。
 中には人らしき影も見えますが、まさかヴォルが魔物と間違える筈もないと思いました。そして──あぁ、先程ベンダーツさんが言っていた事はこれなのかと気付きます。

 これまでのヴォルは見ていて辛くなる程、国民を守るのが使命と思っているような所が度々見受けられました。自分の命に代えても守るべき存在──その民の中身が魔物だとしたら、彼は酷く傷付くのではないかと嫌でも分かります。

 ようやく危機感を覚えたのか魔物達は暴れているようでしたが、それをものともせずに結界自体の大きさを縮めてしまいました。中身サイズを関係なくです。
 あっという間で良く分かりませんでしたが、両腕を広げたくらいの黒い一つの塊にした後に透明の方の剣──天の剣ラミナ──を結界に刺していたように見えました。
 だってその後に結界から漏れ出した光が空に昇って行きましたから、無事に浄化されたようです。

「早かったな、ヴォル。見た目のに誤魔化されなかったようで何よりだ」

 帰ってきたヴォルに場違いな程の明るい声を掛けるベンダーツさんでした。
 でもヴォルはそれに答える事なく、何故だか真っ直ぐに私へ歩み寄ってしがみつきます。それは幼い子供が母親にすがっているようでもあると感じました。
 そうとしか思えないこのギュッと感です。えっと──、私はどうすれば良いのか分かりませんでした。でも伝えるべき言葉はすぐにみつかります。

「お帰りなさいです、ヴォル」

 強く抱き締められていて少し苦しいのですが、私は少しだけ動く腕でヴォルの柔らかな紺色の髪を撫でました。
 小さな子供と違いその頭部は私の肩よりも上にあります。ですが先程の魔物に対する処置で受けたであろうヴォルの心の痛みを思うと、私は頭で考えるよりも自然と身体が動いていました。

「あぁ……ただいま、メル」

 私にくっついているのでそれはとても小さなくぐもった声でしたが、確かにヴォルが返事をしてくれます。
 ──エヘッ、嬉しいですね。

「あ~……、まだここは二人きりじゃねぇぞぉ?」

 ベンダーツさんが直視しないように、片手で顔を覆って空を仰いでいました。
 声音通り凄く呆れているのでしょう。でもだからといって、今の私はこれ以上動けませんでした。

「……分かった」

 渋々ながらと分かる声でヴォルがそれに返します。
 今は精神的に疲れているのでしょうけど、それでもヴォルは顔を上げて町へ意識を向けたようでした。
 その途端パシッと砕けるように町を覆っていた魔法が散ります。これ以上の被害が広がらないように張り巡らせていたと思われる結界がなくなった事で、事態の収拾が完全になされたと分かりました。

「え~っと、後はそちらで何とかしてもらおうかなユーニキュア嬢。俺達が口を出しても、民衆の感情は鎮まらないだろうしさ。とりあえず俺達はまだここにいるから、結果だけは教えに来てよ?……ってか、事後確認の為に俺が町へ行こうかなぁ。何だか居づらいし」

 ベンダーツさんが溜め息をつきました。
 未だにヴォルとくっついている私は、何だかとてもいたたまれないです。でもヴォルが放してくれないですし、私としても今の彼の様子から突き放す訳にも行かない状態でした。

「い、行ってらっしゃいです」

 私は若干の苦笑いを浮かべつつも、ヒラヒラと手を振って結界を出ていくベンダーツさんを見送りました。
 そのまま町へと戻っていくサガルットの人達、その後ろをついていくユーニキュアさんと幼馴染みのドガさんも見送ります。

「大丈夫……ですよね?」

「……当人次第だ」

 思わず不安が口に出たのですが、ヴォルは一言で答えました。
 私としては大丈夫だと言って欲しかったのですけど、ヴォルはそんな期待だけさせるような事は言わないのです。
 分かっていますよ、それもヴォルの優しさなのですから。
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