「結婚しよう」

まひる

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第八章

≪Ⅴ≫お前はついでだ【1】

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 本当に魔物と会わなくなりました。
 ヴォルは淡々とウマウマさんを操っている様に見えますが、それでも魔力感知を使って魔物を避けているようです。
 この調子で馬車を走らせる事が出来たなら、これまでの遅れを取り戻せるかもと期待してしまいました。

「あ~……これ、もっと早くやって欲しかったよなぁ」

 馬車の奥から聞こえるベンダーツさんの呟きす。
 確かに大陸を南下すればする程、魔物の数が増えていました。これまでの私達はとても多くの魔物討伐をしてきたからこその言葉です。

「文句があるなら自分でやれ」

「またそんな……。俺が出来ないと分かっている事を、そう強い口調で言われても困るんだけど……」

 馬車の内側からの愚痴にも、ヴォルは静かに返していました。
 それに苦笑いで返すベンダーツさんに、ヴォルは追い討ちをかけるよう更に続けます。

「メルの願いだからやっている」

「あ~……、そうだよねぇ。どうせ俺なんか……」

 はっきりと断言するヴォルでした。
 あまりにも無感情に言い切ったので、私は思わず隣のヴォルを見上げます。
 返すベンダーツさんの声が低くなりました。

「だからお前はついでだ」

 前言撤回などはヴォルの辞書にないようです。
 それでもこれは、先程の言葉の補助でしょうか。私にはそれが『いで』なのだと聞こえました。
 ベンダーツさんも同じように受け取ったのか、ゆっくりと表情が明るく変わっていきます。そして浮かべた笑みから、優先順位が私の次でも彼的には良いのだと感じました。

「……本当に素直じゃないんだから」

「うるさい、マーク。ついでだと言っている」

「はいはい、ついでね。分かったって」

 この二人の関係は何だかうらやましいです。
 私は自然と緩む頬を両手で隠しつつ──このままケストニアに何事もなく辿たどり着けるのかも知れないと、明るい希望をいだいたりしていました。



 でもこれって、やっぱり希望や願望は贅沢なのだという証拠です。
 あれ程、障害なく馬車を走らせてきたのにでした。

「何だよ、これ」

 呆然と呟くように漏れ出たベンダーツさんの言葉です。それに私は全く反応を返せませんでした。
 今私達の目の前にあるのは、それはたくさんの黒々とした魔物の群れです。
 そう、見渡す限りの──地平を埋め尽くさんばかりの、大小様々な魔物達でした。

「魔力感知も必要ないな」

 ヴォルが呆れた様に呟きます。
 魔力感知魔法を使う必要がない程、魔物に埋め尽くされている前方の視界でした。
 それこそ蟻のい出る隙間もない程に──です。

「これ、ブルーべ家の一姫がやってるんじゃないよね?彼女、魔物を呼んで操っていたでしょ」

「それはない。その者の魔力は精霊が離れた事もあり、本人の申し出があって断ち切った」

 いぶかし気にベンダーツさんが告げますが、ヴォルは即座にそれを否定しました。
 いつの間に──と思わなくもないです。それでも確かにユーニキュアさんには、もう音の魔力を使う必要がないと思えました。

「だったらまた、別の魔力所持者って事?セグレスト・ゼブル卿やユーニキュア・ブルーべ嬢の例もあるしなぁ。四元素魔力所持者よりも、実質にはこっちの方が癖がありすぎてヤバいんじゃないの?」

 停止した馬車の窓から顔を出したベンダーツさんが目を細めます。
 攻撃主体の魔法よりも応用力があるのか、ゼブルさんやユーニキュアさんの使っていた魔法は怖い結果を導いていました。
 さすがにユーニキュアさんは本当に町を魔物に攻撃させるとは思っていなかったようでしたが、ゼブルさんは結界の壁を壊すだけで終わらなかったのです。
 強い力を持つ魔力所持者が危険視されるのは分からなくもないですが、間接的に人へ影響を及ぼす力もたくさんあるようでした。
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