「結婚しよう」

まひる

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第八章

5.お前はついでだ【2】

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「人へ過度な魔法を与えるなって精霊に言ったところで、そんな勝手な言葉を聞き入れてくれる訳ないよなぁ」

「当たり前だ。精霊は基本的に気紛れで人間に力を与えている。それでいて契約者の魔力だけはしっかりと取得しているからな。こちら都合の言い分を聞き入れる筈はない」

 ベンダーツさんの溜め息交えた言葉に、ヴォルはいつものように表情少なく答えます。
 現在の私達は、遠目に魔物の黒い集団が見える場所に留まっていました。
 これまで魔物を避けて来た為か、倒す筈であったそれらが一塊ひとかたまりになっているようです。

「で、どうするよ?」

 ベンダーツさんが顔をゆがめながら問い掛けました。 
 今は現実逃避気味な意見を交わしたところで、現状が好転する訳ではありません。

「迂回は……無理ですよね」

「そうだな。あれだけ広範囲に取り囲んでいるのだ。既に何事もなくこれより南下をする事は出来ないと考えた方が良い」

「ケストニアって、グレセシオ大陸最南端の大都市なんだけどねぇ。大体、ここから先は通るなって言われると行きたくなるもんだろう?」

 解決策が思い付かない私の呟きも、ヴォルの事実のみを告げる淡々とした声音に打ち返されました。
 大都市──しかも大陸の一番南なのですね。目的地であるケストニアには魔力協会があると言われていたので、大きな町だろうと想像はしていました。
 ベンダーツさんの言いたい事は分からなくもないですが、そこまで無理を押し通して行く程の事でしょうか。

「無傷でとはいかない」

「それに、ヴォルの魔法が必要になってしまいます」

「……じゃあ、やめる?」

 馬車を降り、私達はヴォルの結界で作戦会議でした。でも戦闘要員はヴォルとベンダーツさんのみです。
 ヴォルもさすがに見通しを明るくは言わないですし、ベンダーツさんはそれを察して逃げ道を示すくらいでした。
 それでも『撤退』の賛成は出来ないのです。
 様々な『たら』『れば』が思い浮かびますが、今ここで引き返したらどうなるのか──となると更に頭を悩ませるのでした。

「魔物の守るこの先に、魔力の坩堝るつぼがあるとしたら」

「勿論そんなの誰だって分からないさ。でも、何だか守っている風にも見えちゃうよね?それともまた誰かの意思?」

 ヴォルとベンダーツさんの討論が続きます。
 魔物に守られる土地と考えると、確かに怪しくもありました。

「やむを得ない。抜くか」

 小さく溜め息をついたヴォルです。それでも、伏せた瞳を再度開いた時にはもう輝きが違いました。
 力強い、何があっても安心して見ていられるという感じです。──実際の状況は好転を見せないのですが。

「あの、無理だけはしないでくださいね?」

「分かっている」

 私にはこう言うしか出来ませんでした。いつも留守番で、待って祈ってるしか出来ません。
 それでもヴォルはそんな私の頭を優しく撫でてくれました。

「マーク、ここを任せた」

「分かった。くれぐれも地形だけは変えないでくれな」

 冗談なのか、ベンダーツさんはニヤリと笑みを向けながら告げます。
 ヴォルはそれに返答をする事なく、その場で風を纏いながらフワリとちゅうに浮かび上がりました。

「いってらっしゃいっ」

「……あぁ。行ってくる」

 背を向けるヴォルに向け、私はそれだけしか口に出来ません。
 それを分かってなのかヴォルは一度振り向き、わずかに口端を上げながら手をあげてくれました。
 危ないと分かっているので、引き留めたい衝動が沸き上がります。

「さてと。本当は俺も行きたかったけど、あの勢いじゃ巻き込まれ兼ねないからな。ってか、普段は俺と二人にするのを嫌がる癖に」

 ブツブツと呟いているベンダーツさんでしたが、私はヴォルの姿が見えなくなるまでずっと見送っていました。
 あの黒い地平が全て魔物だなんて、いったいこの世界はどうなってしまったのでしょうか。
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