376 / 515
第八章
5.お前はついでだ【2】
しおりを挟む
「人へ過度な魔法を与えるなって精霊に言ったところで、そんな勝手な言葉を聞き入れてくれる訳ないよなぁ」
「当たり前だ。精霊は基本的に気紛れで人間に力を与えている。それでいて契約者の魔力だけはしっかりと取得しているからな。こちら都合の言い分を聞き入れる筈はない」
ベンダーツさんの溜め息交えた言葉に、ヴォルはいつものように表情少なく答えます。
現在の私達は、遠目に魔物の黒い集団が見える場所に留まっていました。
これまで魔物を避けて来た為か、倒す筈であったそれらが一塊になっているようです。
「で、どうするよ?」
ベンダーツさんが顔を歪めながら問い掛けました。
今は現実逃避気味な意見を交わしたところで、現状が好転する訳ではありません。
「迂回は……無理ですよね」
「そうだな。あれだけ広範囲に取り囲んでいるのだ。既に何事もなくこれより南下をする事は出来ないと考えた方が良い」
「ケストニアって、グレセシオ大陸最南端の大都市なんだけどねぇ。大体、ここから先は通るなって言われると行きたくなるもんだろう?」
解決策が思い付かない私の呟きも、ヴォルの事実のみを告げる淡々とした声音に打ち返されました。
大都市──しかも大陸の一番南なのですね。目的地であるケストニアには魔力協会があると言われていたので、大きな町だろうと想像はしていました。
ベンダーツさんの言いたい事は分からなくもないですが、そこまで無理を押し通して行く程の事でしょうか。
「無傷でとはいかない」
「それに、ヴォルの魔法が必要になってしまいます」
「……じゃあ、やめる?」
馬車を降り、私達はヴォルの結界で作戦会議でした。でも戦闘要員はヴォルとベンダーツさんのみです。
ヴォルもさすがに見通しを明るくは言わないですし、ベンダーツさんはそれを察して逃げ道を示すくらいでした。
それでも『撤退』の賛成は出来ないのです。
様々な『たら』『れば』が思い浮かびますが、今ここで引き返したらどうなるのか──となると更に頭を悩ませるのでした。
「魔物の守るこの先に、魔力の坩堝があるとしたら」
「勿論そんなの誰だって分からないさ。でも、何だか守っている風にも見えちゃうよね?それともまた誰かの意思?」
ヴォルとベンダーツさんの討論が続きます。
魔物に守られる土地と考えると、確かに怪しくもありました。
「やむを得ない。抜くか」
小さく溜め息をついたヴォルです。それでも、伏せた瞳を再度開いた時にはもう輝きが違いました。
力強い、何があっても安心して見ていられるという感じです。──実際の状況は好転を見せないのですが。
「あの、無理だけはしないでくださいね?」
「分かっている」
私にはこう言うしか出来ませんでした。いつも留守番で、待って祈ってるしか出来ません。
それでもヴォルはそんな私の頭を優しく撫でてくれました。
「マーク、ここを任せた」
「分かった。くれぐれも地形だけは変えないでくれな」
冗談なのか、ベンダーツさんはニヤリと笑みを向けながら告げます。
ヴォルはそれに返答をする事なく、その場で風を纏いながらフワリと宙に浮かび上がりました。
「いってらっしゃいっ」
「……あぁ。行ってくる」
背を向けるヴォルに向け、私はそれだけしか口に出来ません。
それを分かってなのかヴォルは一度振り向き、僅かに口端を上げながら手をあげてくれました。
危ないと分かっているので、引き留めたい衝動が沸き上がります。
「さてと。本当は俺も行きたかったけど、あの勢いじゃ巻き込まれ兼ねないからな。ってか、普段は俺と二人にするのを嫌がる癖に」
ブツブツと呟いているベンダーツさんでしたが、私はヴォルの姿が見えなくなるまでずっと見送っていました。
あの黒い地平が全て魔物だなんて、いったいこの世界はどうなってしまったのでしょうか。
「当たり前だ。精霊は基本的に気紛れで人間に力を与えている。それでいて契約者の魔力だけはしっかりと取得しているからな。こちら都合の言い分を聞き入れる筈はない」
ベンダーツさんの溜め息交えた言葉に、ヴォルはいつものように表情少なく答えます。
現在の私達は、遠目に魔物の黒い集団が見える場所に留まっていました。
これまで魔物を避けて来た為か、倒す筈であったそれらが一塊になっているようです。
「で、どうするよ?」
ベンダーツさんが顔を歪めながら問い掛けました。
今は現実逃避気味な意見を交わしたところで、現状が好転する訳ではありません。
「迂回は……無理ですよね」
「そうだな。あれだけ広範囲に取り囲んでいるのだ。既に何事もなくこれより南下をする事は出来ないと考えた方が良い」
「ケストニアって、グレセシオ大陸最南端の大都市なんだけどねぇ。大体、ここから先は通るなって言われると行きたくなるもんだろう?」
解決策が思い付かない私の呟きも、ヴォルの事実のみを告げる淡々とした声音に打ち返されました。
大都市──しかも大陸の一番南なのですね。目的地であるケストニアには魔力協会があると言われていたので、大きな町だろうと想像はしていました。
ベンダーツさんの言いたい事は分からなくもないですが、そこまで無理を押し通して行く程の事でしょうか。
「無傷でとはいかない」
「それに、ヴォルの魔法が必要になってしまいます」
「……じゃあ、やめる?」
馬車を降り、私達はヴォルの結界で作戦会議でした。でも戦闘要員はヴォルとベンダーツさんのみです。
ヴォルもさすがに見通しを明るくは言わないですし、ベンダーツさんはそれを察して逃げ道を示すくらいでした。
それでも『撤退』の賛成は出来ないのです。
様々な『たら』『れば』が思い浮かびますが、今ここで引き返したらどうなるのか──となると更に頭を悩ませるのでした。
「魔物の守るこの先に、魔力の坩堝があるとしたら」
「勿論そんなの誰だって分からないさ。でも、何だか守っている風にも見えちゃうよね?それともまた誰かの意思?」
ヴォルとベンダーツさんの討論が続きます。
魔物に守られる土地と考えると、確かに怪しくもありました。
「やむを得ない。抜くか」
小さく溜め息をついたヴォルです。それでも、伏せた瞳を再度開いた時にはもう輝きが違いました。
力強い、何があっても安心して見ていられるという感じです。──実際の状況は好転を見せないのですが。
「あの、無理だけはしないでくださいね?」
「分かっている」
私にはこう言うしか出来ませんでした。いつも留守番で、待って祈ってるしか出来ません。
それでもヴォルはそんな私の頭を優しく撫でてくれました。
「マーク、ここを任せた」
「分かった。くれぐれも地形だけは変えないでくれな」
冗談なのか、ベンダーツさんはニヤリと笑みを向けながら告げます。
ヴォルはそれに返答をする事なく、その場で風を纏いながらフワリと宙に浮かび上がりました。
「いってらっしゃいっ」
「……あぁ。行ってくる」
背を向けるヴォルに向け、私はそれだけしか口に出来ません。
それを分かってなのかヴォルは一度振り向き、僅かに口端を上げながら手をあげてくれました。
危ないと分かっているので、引き留めたい衝動が沸き上がります。
「さてと。本当は俺も行きたかったけど、あの勢いじゃ巻き込まれ兼ねないからな。ってか、普段は俺と二人にするのを嫌がる癖に」
ブツブツと呟いているベンダーツさんでしたが、私はヴォルの姿が見えなくなるまでずっと見送っていました。
あの黒い地平が全て魔物だなんて、いったいこの世界はどうなってしまったのでしょうか。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について
みん
恋愛
【モブ】シリーズ①(本編)
異世界を救うために聖女として、3人の女性が召喚された。しかし、召喚された先に4人の女性が顕れた。そう、私はその召喚に巻き込まれたのだ。巻き込まれなので、特に何かを持っていると言う事は無く…と思っていたが、この世界ではレアな魔法使いらしい。でも、日本に還りたいから秘密にしておく。ただただ、目立ちたくないのでひっそりと過ごす事を心掛けていた。
それなのに、周りはおまけのくせにと悪意を向けてくる。それでも、聖女3人のお姉さん達が私を可愛がって守ってくれるお陰でやり過ごす事ができました。
そして、3年後、聖女の仕事が終わり、皆で日本に還れる事に。いざ、魔法陣展開で日本へ!となったところで…!?
R4.6.5
なろうでの投稿を始めました。
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜
大森 樹
恋愛
髪は女の命。しかし、レベッカの髪は切ったら二度と伸びない。
みんなには秘密だが、レベッカの髪には魔法が宿っている。長い髪を切って、昔助けた男の子レオンが天才魔法使いとなって目の前に現れた。
「あなたを愛しています!絶対に絶対に幸せにするので、俺と結婚してください!よろしくお願いします!!」
婚約破棄されてから、一人で生きていくために真面目に魔法省の事務員として働いていたレベッカ。天才魔法使いとして入団してきた新人レオンに急に告白されるが、それを拒否する。しかし彼は全く諦める気配はない。
「レベッカさん!レベッカさん!」とまとわりつくレオンを迷惑に思いながらも、ストレートに愛を伝えてくる彼に次第に心惹かれていく…….。しかし、レベッカはレオンの気持ちに答えられないある理由があった。
年上訳あり真面目ヒロイン×年下可愛い系一途なヒーローの年の差ラブストーリーです。
お姉様優先な我が家は、このままでは破産です
編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。
だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!
愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理!
姉の結婚までにこの家から逃げたい!
相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる