「結婚しよう」

まひる

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第八章

5.お前はついでだ【3】

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「メルってばぁ!」

「っ?!」

 突然耳の横で聞こえた声に物凄く驚いて、思わず逃げるように跳ねてしまいました。
 私のいる現在地は馬車の御者台の上です。それほど広い場所ではないので、横に跳び跳ねたら当たり前ですが落ちてしまうのです。

「何やってるの」

「あ、アハハ……すみません」

 あきれ声のベンダーツさんでした。
 驚いた拍子に勝手に御者台からずり落ちた私ですが、ベンダーツさんは当たり前のように私の腕を掴んで助けてくれました。何故それ程驚くのかと不思議そうな表情を見せながらも、軽々と引き上げてくれます。
 ──と言うか、いつの間に隣に来たのでしょうか。

「いくら呼んでも気付いてくれないんだから。隣に来ても声をかけても……、そんなに俺って存在感なし?」

「い、いえ……そんな事は決してないです」

 ベンダーツさんは眉根を下げつつ、首をかしげていました。
 落ちそうなところを助けてもらったのを頭では理解しているのですが、腕を掴まれたままなので私の中で焦りが生まれます。

「あ、腕輪が光ってる。……っ、ゴメン!本当に何もしないから、吹き飛ばす事はやめてよねっ?!」

 ベンダーツさんが慌てて私の腕を放しました。
 挙動不審気味の私に何かを感じたのか、自分が掴んでいた手を思い出したようです。パッと私の腕を放して距離をおき、諸手もろてを上げて謝罪されました。

「そ、そんな……吹き飛ばすだなんて……」

 私は急なベンダーツさんの態度の変化に、アワアワと前方に手を突き出して横に振ります。でもそこで自分の腕輪の光に気が付きました。
 これはヴォルの魔法が掛けられた腕輪なのです。私の感情が要因の一つであり、術者であるヴォルの設定で腕輪の防御魔法が発動するのでした。
 それを思い出し、常に一緒にいてくれているのだというヴォルの優しさに心が温かくなります。

「あ、光が消えた……。とりあえず助かったぁ」

 大きく息を吐くベンダーツさんでした。
 今の光が消えたのは、私の中から不安が消えたからなのでしょう。本当にヴォルが寄り添ってくれているかのような安心感がありますから。

「あの……それで、何かご用でしたか?」

「あ、そうだった。俺達はここで留守番じゃん?道が開けるまでの間に、食事を作ろうかなって思ってさ。そうすればヴォルが戻ってきた時にすぐ食事出来るし、俺もついでとか言われなくなるでしょう?」

 呼吸を整えた私は、ベンダーツさんに改めて問い掛けます。すると次の行動の指針を示してくれました。
 先程ヴォルから言われた事を、ベンダーツさんは思ったより気にしていると思われます。
 私は苦笑いを返しながらも、確かに合理的であると判断出来ました。

「そうですね、分かりました。私も手伝います」

「うん、宜しくぅ~」

 笑みを返して賛同します。
 私の答えを聞くが早いか、ベンダーツさんはすぐに御者台から降りて馬車の後ろへ回りました。馬車を取り囲むように結界が張り巡らされているので、周囲を移動する事に警戒する必要もありません。
 私もベンダーツさんにならって反対側に降り、馬車の後ろへと移動しました。馬車の後ろは荷台として使っているので、様々な用品が格納されているのです。

「あ、メルはこっちをお願いするよ」

「はい、分かりました」

 既に必要な品物を馬車から下ろしていたベンダーツさんでした。そしてパンなどが入った袋を私に渡してくれます。
 食材の入った袋は普通重いのですが、ベンダーツさんが渡してくれたのはとても軽いものでした。
 本当に色々と気遣ってくれるので、逆に恐縮してしまうくらいです。
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