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第八章
≪Ⅹ≫俺にも利(り)がある事【1】
しおりを挟む「もしかして我々は悪側だったかな?あの赤い光が溢れる中では精霊言語を使って説明する余裕もなく、漂う精霊を半ば無理矢理拘束したのは確かに失礼な事だったと思うがね」
「えっ?それなら、捕獲ではなくて救出だったって訳?」
僅かに苦い顔をして見せた協会長さんでしたが、ベンダーツさんは驚いたように目を見開いています。
私も話の急展開についていけれませんでした。とにかく内容を把握しようと耳を傾けます。
「その通り。あの後こちらに残った精霊には話をし、非礼を詫びたのだ。ほら、今も中で自由にしておる。出でおいで、仲間の精霊が来たそうだよ」
協会長さんの続けられた言葉に、教会の奥から黄色と白の光が二つ飛んできました。
そしてヴォルの傍にいた青い光の精霊さんが飛んで近寄ります。その再会に、精霊さんは嬉しそうにクルクル円を描いていました。
やはり精霊さんは光の玉にしか見えません。それでもまだ存在が確認出来るだけ良いのだと思いました。
「納得したようだ……。ありがとうございました、協会長。魔力所持者が精霊に危害を加える事はないと思っていましたが、精霊の訴えを放置する事が出来ず、教会の結界を破壊してしまいました。申し訳ございません」
ヴォルが協会長さんに頭を下げます。
それを見た魔力協会の人達から、少しずつピリピリとした空気が薄れていきました。その為にも謝罪は必要だったようです。
確かに魔力所持者といえども、精霊さんに嫌われては魔法が使えなくなってしまう危険がありました。私達もそれを考慮せず、片側だけの話を鵜呑みにしてしまった訳です。
強行突破が出来る程の力を持つヴォルですから、分かった上での行動かもしれませんが。
「いやいや、我々も言葉を尽さなければならなかった。誤解を招く様な事をしてしまい、こちらこそ申し訳なかった」
協会長さんもヴォルに頭を下げます。
周りの空気が穏やかになった事で気付いたのですが、周囲を覆っていた黒い靄がいつのまにか消えていました。
フラフラと先頭を歩いてきた男性も、今は寝起きの何が起きたか分からないという様子で周囲を見回しています。
「この辺りを浄化してくれた事といい、我々は感謝しているよ」
「いえ、それは俺にも利がある事ですから」
満面の笑顔で告げる協会長さんに、ヴォルは変わらず淡々と答えていました。
いつの間にかヴォルが『浄化』をしたとの事です。天の剣を振るわなくても、魔物を浄化する時と同じ様な何かがあったようでした。
「あ……あの精霊さん達は、もう大丈夫なのですか?」
不意に心配になり、私は思わず二人の会話に口を挟みます。
ヴォルの言う利というものは分からないですが、それよりもずっと気になっていました。
出会った時の精霊さんは、自分の姿を隠せない程に弱っていた筈です。今は光の玉にしか見えないので、回復しているとは思うのですが。
「問題ない。既に8割方回復している」
「そ、そうですか。良かったです、元気になってくれて」
ヴォルの瞳がフッと和らぎ、その答えに私はとても安心しました。
お友達とも会えたようですから、精霊さんは光の動きから見て踊るように喜んでいると推測されます。姿はもう見えないのですが、想像して私も自然と笑みが浮かびました。
「……笑うと可愛いな、ツヴァイス殿の姫は」
精霊さんの光の玉を見てほのぼのしていた私に、協会長さんから声が掛けられます。
ですが聞こえたと思って顔を向けようとした時、視線が合う前に何故か私はヴォルに抱き締められていました。──これでは前が見えません。
「ふむふむ、嫉妬かね?ほほぅ、あのヴォルティ・ツヴァイス殿がなぁ。従者の……マクストリア・ベンダーツだったか。これは普段からかい?」
「あ、俺の名前を覚えてくれてたんだ。見た通りだよ、勿論。そうなの、この敵対心?俺まで標的として巻き込まれるから、結構迷惑しちゃってるんだよねぇ」
からかいを含んだ協会長さんの問いに、ベンダーツさんも楽しそうに答えています。
「そうか、そうか。市井の民とは言え、これ程まで彼の心を掴む事が出来るとは。これならば先の世も安泰だな」
そして豪快に笑い始める協会長さんでした。
悪感情は含まれていないような、それは──誉められているのでしょうか。
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