「結婚しよう」

まひる

文字の大きさ
419 / 515
第九章

3.魔力の質は個性【4】

しおりを挟む
 そして空腹を訴えた私の主張が通り、朝食をしようかと思っていたのです。ところがそこへ、ヨルグト騎士団長さんからの呼び出しがありました。
 食事を用意してくれたと言うのです。けれどもこんな早い時間から、アポなしで突然の馬車訪問はどうかと思いました。

「普通ならこの様なお誘いはお断りするのですが」

 ベンダーツさんが冷たく告げます。
 確かに安全の為には、見ず知らずの方の差し出す食事は避けた方が良いのかも知れませんでした。
 ここには私が知らないだけで、ヴォルの事を知っている人がたくさんいるのです。

「申し訳ございません。ここは我々騎士が使用している屋敷なのです。食事の安全は私が保証いたします。市井しせいの食事処などでツヴァイス様にお食事をさせる訳にも参りません」

「私としては市井しせいの食事処の方が安心出来ます。ヴォルティ様の素性を知る者はおりませんので。それに今回は食事込みで会談をなさると言うから、仕方なくあるじに足を運んでいただいたのです。お考え違いのないように」

 ピシャリと釘を刺すベンダーツさんでした。
 騎士団の方々はヴォルの事を知っている筈ですので、スマクトブさんのような方も他にいらっしゃるかもしれません。

「も、申し訳ございませんでした。で、では食事の方は……」

「毒や薬のたぐいが入っていないとも限らない。俺には効かないが、メルにその様な危ない物は出せない。ベンダーツ、お前が作れ」

「かしこまりました」

 ベンダーツさんはそう言われて、胸に手をあてて深く頭を下げます。そしてすぐに部屋を後にしました。
 まさか、今からここで作るとは思わなかったので驚きです。確かに私はお腹が空いていましたし、既に目の前のたくさんのご馳走が並んでいるのを見た事で空腹が増しました。

「その様な事に気付かず、大変申し訳ございませんでした。すぐに下げさせます」

 ヨルグト騎士団長さんがオタオタしています。
 すみません、お気遣いを無下むげにしてしまいました。
 その後、数人の騎士の方が食事を下げに呼ばれてやって来ます。あ、スマクトブさんもいました。
 テーブルに並んだ美味しそうな食事達が引き上げられていくのを見送る私でしたが、体調が悪いのかスマクトブさんは青い顔をしています。

「……何だか顔色が悪いですね」

 何気に私が小さく漏らした言葉に、ヴォルがこちらへ視線を向けました。
 隣に座っているので、テーブル向かい側のヨルグト騎士団長さんには届いていないと思います。

「お前、それを食べてみろ」

 そしてスマクトブさんに告げられたヴォルの言葉で、ガチャンと大きな音と共に食事が床に散らかりました。
 スマクトブさんが持っていたお盆を落としたようです。

「も、申し訳ございません。すぐに片付けます」

 慌てふためいた様子で、スマクトブさんは頭を下げました。
 ヴォルが急に声をかけたから、驚いて落としてしまったようです。先程より一段とスマクトブさんの顔色が悪いように見えました。私が思うに彼は緊張し過ぎですけど、ヴォルの立場を知っている人ならば当たり前かもしれません。
 そうしてその一連の流れを見ていたヨルグト騎士団長の顔色が凄く悪くなりました。勿論、団員の方が粗相をしてしまったのですから仕方ないです。
 それなので、ヴォルはそれ以上怒ったらダメだと思ってしまいました。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

お姉様優先な我が家は、このままでは破産です

編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。 だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!  愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理! 姉の結婚までにこの家から逃げたい! 相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。

悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。 処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。 まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。 私一人処刑すれば済む話なのに。 それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。 目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。 私はただ、 貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。 貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、 ただ護りたかっただけ…。 だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。  ❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

《完結》戦利品にされた公爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
戦いの《戦利品》として公爵邸に連れて行かれた公爵令嬢の運命は?

婚約解消は君の方から

みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。 しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。 私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、 嫌がらせをやめるよう呼び出したのに…… どうしてこうなったんだろう? 2020.2.17より、カレンの話を始めました。 小説家になろうさんにも掲載しています。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

処理中です...