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第九章
≪Ⅴ≫不安なら【1】
しおりを挟む私は目の前にそびえる柱を見上げます。
前にも見た事がありますが、本当に大きな船でした。
私達は今、漸く到着したマグドリア大陸からの船の前にいます。
「口が開いてる」
ヴォルに指摘され、初めて気付かされました。
でも高い場所を見上げると、自然に口が開いてしまいませんか。 心の中で言い訳を返しながらも、真っ赤になったであろう顔を俯けると同時に口を閉じました。
「す、すみません」
こういうのは、自分で気付くより指摘された方が恥ずかしいのです。
このやり取りも前回と同様の気がして、成長のない自分にも悲しくなりました。それでもヴォルは特に追求する事なく、私の頭を撫でてくれます。──子供扱いな気もしますが。
「今は入港回数が限られているので、大型船内は人も物も満載のようです。積み降ろし作業は本日中掛かるとの事ですので、我々の乗船は明日の朝になります」
何処かで聞いてきてくれたらしく、ベンダーツさんが詳しく教えてくれました。
今はまだお昼前なのですが、作業が夜まで掛かるようです。たくさんの人や荷物が行き交い、私が迷い混んだら突き飛ばされて海に落ちてしまうだろうと簡単に予想出来ました。
「明日か」
「はい。既に準備は整っておりますので、現時点で取り急ぎ行う事はございません」
確認するヴォルと答えるベンダーツさんを見ながら、私は前回の船旅を思い出します。
いよいよ明日なのです──が、今更ながら船酔いの恐怖が蘇りました。とはいっても何だか大変だった記憶だけなので、詳しく覚えている程の余裕はなかったようです。
あの時は生まれ育った大陸から離れる哀愁もあり、精神的にも肉体的にも限界だったのでした。一人で意地も張っていましたから余計にです。
「どうかしたか、メル」
「え……あ、大丈夫です」
自分の世界に入ってしまっていました。
心配そうなヴォルの声で我に返り、慌てて首を横に振ります。
「……船酔いが心配か」
適当に誤魔化したところで私の思考は短絡的なので、ヴォルにすぐに気付かれていました。
こちらを真っ直ぐ見つめるヴォルの瞳に、私はそれ以上隠すのをやめます。彼に無駄な気遣いをさせてしまうだけでした。
「はい……。またヴォルに迷惑を掛けてしまうのかと……」
「問題ない。不安なら結界を張ってやる」
いつものように、事も無げに告げるヴォルです。彼はこうしてすぐに私の不安を取り除いてくれるのでした。
当たり前ですが、私はヴォルがいるからこのように色々な事が体験出来ているのです。
「ありがとうございます、ヴォル。また船酔いが酷かったらお願いしますね?」
自分だけで出来ない事は甘えて良いのだと、少しずつですが学習している私でした。
微笑み返しながらも、私はヴォルと出会う事でそれを知る事が出来たのだと喜びを噛み締めます。
「勿論だ」
「……ヴォルティ様」
「あぁ、分かっている」
ベンダーツさんが声を静めて伝え、ヴォルは既に承知しているようでした。
何でしょうか、急に雰囲気が変わった気がしなくもないです。
「メル、宿に戻る前に散歩だ」
「さ、散歩ですか?……買い物はもう終わっていますし」
「明日には出港となりますので、ユースピア港をお楽しみ下さいませ。ヴォルティ様、メルシャ様。では私は少々野暮用がありますので、本日はお二人でごゆるりとお過ごしください」
ヴォルから散歩に誘われましたが、必要な用事は終わっているので私は小首を傾げてしまいました。
更にベンダーツさんも同じ様に町を見て回る事を勧めてきて、何故だか微笑むベンダーツさんが逆に怖いです。しかも昨日もでしたが、またヴォルと二人との事でした。──いえ、嫌ではありませんが。
「分かった」
「では、後程」
ヴォルの返答の後、ベンダーツさんが胸に手を当てて深く頭を下げます。
野暮用って何か気になりますが、結局聞けずにベンダーツさんを見送りました。昨日の情報収集だけでは足りなかったのでしょうか。
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