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第九章
5.不安なら【5】
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「こ、こんな事って……」
「どうするよ、兄貴。……俺達で歯向かえる相手か?」
「くそっ、逃げるぞっ。覚えてやがれっ!」
ヴォルの魔法で吹き飛ばされた人を助け起こしつつ、口々に弱気な討論が交わされていました。
そしてこちらを振り返ったかと思うと、再び定番の悪役っぽい捨て台詞を残して賊さん達が逃亡します。
「誰が覚えておくか。Kaze no ami.」
でもヴォルはそれを逃しませんでした。
そもそも一番離れている私にも聞こえる相談内容でしたから、撤退する事はヴォルにも当たり前に届いています。更には町の出入口にいた私達ですから、賊さん達の逃亡方向は予想通り町の外へ向けてでした。
ヴォルは走り去る彼等の背に向け、静かに風の魔法を放ちます。
「ぅわっ!?」
それはもう一網打尽でした。
風の魔力で作られた網は、まるで大漁のお魚の如く賊さん達を捕らえます。
十人程の男の人達は絡まるように一纏めにされ、互いの怒号に包まれて何を言っているのかも分からない状態になっていました。
「お疲れさまです、ヴォルティ様」
突然のベンダーツさん登場に、私はビクッと肩を跳ねさせて驚きます。
接近に気付いていたらしきヴォルは全く普通に振り返りました。
「遅かったな」
「えぇ、申し訳ございません。なかなか話を信じてくれないものですから、思ったより手間取ってしまいました」
ヴォルの問い掛けに、少しだけ申し訳なさそうにベンダーツさんが頭を下げます。
相変わらずこれだけで二人の会話は成り立っていました。もしかしなくても、この事態を分かっていたという事でしょうか。
小首を傾げた私の視界に、ベンダーツさんの後ろ──町側からぞろぞろ現れる騎士の方々が入りました。
「メルシャ様にお怪我は……ございませんよね、はい。……ヴォルティ様、そんなに睨まないでください。貴方様がお傍にいらして、何かある筈もない事は分かっております。念の為にお伺いしただけではありませんか」
私に声を掛けてくれたのですが、ヴォルが間に立ち塞がってしまいます。前方をヴォルの背中が覆い、焦ったような呆れたようなベンダーツさんの声しか聞こえませんでした。
それよりも賊さん達を捕らえに来たらしい騎士団の方達は、魔法で捕らえられた彼等を見て同情的な視線を向けています。
私も驚きましたが、なかなか人がこのような状態になるところは目にしないと確信出来ました。
「相手が悪かったのですよ、貴方達は。もう少し相手を見て選びなさい。騎士団の方々、後は宜しくお願いします」
ベンダーツさんは冷たく彼等に告げます。
そしてヴォルの魔法から解放された賊さん達は、大人しく騎士団の方に縄で縛られていました。
しかしながら今彼等がこの場で再度暴れたところで、同じ結果しか想像出来ません。
「あの……、ヴォルとベンダーツさんは知っていたのですか?」
今更ですが、私は二人に問い掛けました。
いつからなのかも私は全く気付かず、ただ大口を開けて船を見上げていたのです。ヴォルから急に『散歩に』と言われたので、思えばあの時かもしれないと想像するくらいでした。
「悪意を感じた」
「私は計略の臭いを感じましたね」
事も無げに答えるヴォルとベンダーツさんです。
聞くところによるとどうやら散歩発言以前のようで、この町に来た頃からだったようでした。──何だか二人共、感覚が鋭すぎます。
でもそれを悟る事が可能になるだけ、今まで彼等の生きてきた道が険しかったのかもしれませんでした。
「あぁ言うのは久し振りでした。妙に懐かしく思えましたよ。ただ拙いですね。我々を貶めるならもう少し根性を入れて、罠を張るなり強力な魔法を用意するなりしないといけません」
ベンダーツさんはかなり黒い事を話しています。
でも罠や強力な魔法を用意出来ていたら、既にただの盗賊ではないような気もしました。
「どうするよ、兄貴。……俺達で歯向かえる相手か?」
「くそっ、逃げるぞっ。覚えてやがれっ!」
ヴォルの魔法で吹き飛ばされた人を助け起こしつつ、口々に弱気な討論が交わされていました。
そしてこちらを振り返ったかと思うと、再び定番の悪役っぽい捨て台詞を残して賊さん達が逃亡します。
「誰が覚えておくか。Kaze no ami.」
でもヴォルはそれを逃しませんでした。
そもそも一番離れている私にも聞こえる相談内容でしたから、撤退する事はヴォルにも当たり前に届いています。更には町の出入口にいた私達ですから、賊さん達の逃亡方向は予想通り町の外へ向けてでした。
ヴォルは走り去る彼等の背に向け、静かに風の魔法を放ちます。
「ぅわっ!?」
それはもう一網打尽でした。
風の魔力で作られた網は、まるで大漁のお魚の如く賊さん達を捕らえます。
十人程の男の人達は絡まるように一纏めにされ、互いの怒号に包まれて何を言っているのかも分からない状態になっていました。
「お疲れさまです、ヴォルティ様」
突然のベンダーツさん登場に、私はビクッと肩を跳ねさせて驚きます。
接近に気付いていたらしきヴォルは全く普通に振り返りました。
「遅かったな」
「えぇ、申し訳ございません。なかなか話を信じてくれないものですから、思ったより手間取ってしまいました」
ヴォルの問い掛けに、少しだけ申し訳なさそうにベンダーツさんが頭を下げます。
相変わらずこれだけで二人の会話は成り立っていました。もしかしなくても、この事態を分かっていたという事でしょうか。
小首を傾げた私の視界に、ベンダーツさんの後ろ──町側からぞろぞろ現れる騎士の方々が入りました。
「メルシャ様にお怪我は……ございませんよね、はい。……ヴォルティ様、そんなに睨まないでください。貴方様がお傍にいらして、何かある筈もない事は分かっております。念の為にお伺いしただけではありませんか」
私に声を掛けてくれたのですが、ヴォルが間に立ち塞がってしまいます。前方をヴォルの背中が覆い、焦ったような呆れたようなベンダーツさんの声しか聞こえませんでした。
それよりも賊さん達を捕らえに来たらしい騎士団の方達は、魔法で捕らえられた彼等を見て同情的な視線を向けています。
私も驚きましたが、なかなか人がこのような状態になるところは目にしないと確信出来ました。
「相手が悪かったのですよ、貴方達は。もう少し相手を見て選びなさい。騎士団の方々、後は宜しくお願いします」
ベンダーツさんは冷たく彼等に告げます。
そしてヴォルの魔法から解放された賊さん達は、大人しく騎士団の方に縄で縛られていました。
しかしながら今彼等がこの場で再度暴れたところで、同じ結果しか想像出来ません。
「あの……、ヴォルとベンダーツさんは知っていたのですか?」
今更ですが、私は二人に問い掛けました。
いつからなのかも私は全く気付かず、ただ大口を開けて船を見上げていたのです。ヴォルから急に『散歩に』と言われたので、思えばあの時かもしれないと想像するくらいでした。
「悪意を感じた」
「私は計略の臭いを感じましたね」
事も無げに答えるヴォルとベンダーツさんです。
聞くところによるとどうやら散歩発言以前のようで、この町に来た頃からだったようでした。──何だか二人共、感覚が鋭すぎます。
でもそれを悟る事が可能になるだけ、今まで彼等の生きてきた道が険しかったのかもしれませんでした。
「あぁ言うのは久し振りでした。妙に懐かしく思えましたよ。ただ拙いですね。我々を貶めるならもう少し根性を入れて、罠を張るなり強力な魔法を用意するなりしないといけません」
ベンダーツさんはかなり黒い事を話しています。
でも罠や強力な魔法を用意出来ていたら、既にただの盗賊ではないような気もしました。
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