「結婚しよう」

まひる

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第九章

6.魔法とは想像【4】

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「……何しに来たのですか」

 冷めた目をこちらへ向けるベンダーツ。

「ただの散歩だ。気にするな」

 それに対し、俺は首をすくめつつ答える。
 その最中も俺は目の前に転がる男を足蹴あしげにしていた。他にも幾つか転がっているが、ベンダーツの視線は俺に向けられたままである。

「散歩だからって一人で教会まで来ないでしょ、普通。メルシャ様はどうしたのですか」

「寝かせてきた」

 溜め息混じりに問われるが、メルには強固な結界を張ってあるので心配していなかった。
 淡々と答えながらも、思い出されるのは先程まで抱き締めていた彼女である。
 ──柔らかい身体、甘い匂い……。
 触れるだけでは我慢がかなくなりそうだ。もう随分──と思考が走ったところで、思わず欲望が身をもたげそうになったが理性で抑え込む。

「ヴォルティ様。私はお呼びしていませんよね」

「あぁ、お前からはな」

「私が呼ばないで、何故貴方がワザワザ出向く必要があるのですか?」

「メルが気にしていたからな。それにお前も、その格好では彼女に会えないだろ」

 やたら食って掛かってくるベンダーツだったが、今のコイツの様子は酷いものだった。
 ──いや、前回よりはマシか。
 食い付いてくる元気があるならば、自力で戻ってくるくらいは出来たと推測される。

「……仕方がないでしょう。私が先に牙を向ける訳にはいかないのですから」

 ここで初めてベンダーツは目線をらした。
 現状が悔しいと思っているように見えた為、俺の口元が自然と緩む。

「俺が許す。次からは遠慮なく叩き潰せ。お前は正式な俺の……、ヴォルティ・ツヴァイスの従者だ。俺の許可なくお前にやいばを向ける事は、俺に向けるも同じ。そんなやからたみには不要だ。骨の二、三本は覚悟してもらおう」

「そこまでしますか……。分かりました、ではこれからは遠慮なくやらせていただきます」

「命は奪うなよ?」

 とことん打ちのめすのは構わないがな、と言外げんがいに告げた。

「誰がそこまでしますか。……でも助かりました。少しばかり手が足りなかったので、ありがとうございます」

「問題ない。それより治療だ。そのままメルの前に姿をさらせば泣かれるぞ」

 深く頭を下げ、いつもの飄々としたベンダーツに戻る。
 やはりコイツはこうでなければ張り合いがないと思った。
 次なる処置をする為、俺は自分の周りにいる精霊を見回す。そして中から他より一回り小さな精霊に声を掛けた。

「お手数をお掛けします。と言うかメルシャ様が涙する時は、私も違う意味で涙する事になりそうですよね」

 これだけ軽口を叩けるなら、ベンダーツは問題ない。
 更に以前と比べてしっかりしてきた生命の精霊は、正確に俺の求める事を実行してくれるようだ。
 治療を受ける為、ベンダーツは俺の前で膝を落とす。俺が精霊と会話している内容までは分からないだろうが、何をするつもりなのか聞かずとも察しているようだ。
 さすがに血や砂埃の汚れ、服の破れ等はどうにもならない。だがこと肉体において、生命の精霊の能力は遺憾なく作用された。
 精霊の魔法でベンダーツの全身に渡る刀傷が消えていくのが見てとれる。
 ──だがコイツ、ここまで切り刻まれて何故俺を呼ばない。
 呼び出した男との間に因縁があるのは間違いがないが、このベンダーツの状態に不満が沸き上がった。

「お前、何故俺を呼ばない」

「……強い魔物でもないのに、格好がつかないではないですか」

「ふん。それでその格好か」

 ベンダーツが負った肉体の損傷は完治したものの、その見てくれは先程と変わりがない。

「申し訳ないです。隙をついて昏倒させようとしたのですが、さすがは現役の騎士ですね。数の利もあって、抜刀せずに倒すのは骨が折れました」

「俺に格好をつけてどうする、相手を見ろ。そもそも人間の方が魔物よりタチが悪い。それに次、勝手に自分から傷付いてみろ。俺がお前を許さないからな」

「……申し訳ございません」

 鋭く告げれば、顔色を青くしてこうべを垂れた。
 刀剣類相手に素手で対峙するなど、言語道断である。確かに相手が貴族である事は間違いがないのだろうが、だからといって自由にさせて良いものではなかった。
 全ての物事が思い通りにいくと思っている、短絡的思考の人間は貴族に特に多い。俺はソイツ等を見ると虫酸が走るのだ。──叩きのめしたくなる。
 それに俺とベンダーツは主従のリングで繋がっているのだ。みずからが知らせなくても伝わる。
 ましてや勝手に傷付くなど──ここに転がっている奴等も、俺がただで許すと思うなよ。
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