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第九章
6.魔法とは想像【5】
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お腹が空きました。
それは意識が戻った私の、何よりも先に出た感情です。
──本能に忠実で申し訳ありません。
「起きたのか、メル」
「あ……おはようございます、ヴォル」
いつものように、後ろから抱き締められて寝ていた私でした。
背後からのヴォルの声に挨拶を返し、私は見える範囲の周囲を確認します。
「おはようございます。ヴォルティ様、メルシャ様」
「あぁ」
「おはようございます、ベンダーツさん」
私が見つけるよりも早く声がして、目的たるベンダーツさんを視界に映しました。
既に入口のところで立っていたベンダーツさんは、いつでも出掛けられる装いです。しかしながら足元にシーツが畳んであるところを見ると、昨夜のうちに戻ったのだと推測されました。
良かったです、無事に帰ってきていたようで胸を撫で下ろします。
「スマクトブさんに会いに行くと言われていたので、心配していたのです。お帰りなさい、ベンダーツさん」
「……はい、ご心配頂きありがとうございます」
帰宅時に気付けない不甲斐なさは今更な私ですが、ともかく言葉で安堵を伝えました。
その時の返答に僅かな違和感を感じましたが、ベンダーツさんはいつものようにピシッとした服を着ています。何処にも怪我等をしている様子が見受けられませんでした。
ベンダーツさんの装いが普段から整っているのは、口調が荒い時も変わりません。これは彼本来の真面目な性格が現れているようでした。
「朝食の用意をしてくれ」
「かしこまりました」
ヴォルの命に、直ぐ様ベンダーツさんが動きます。勿論宿の室内なので、ヴォルが魔法で水と火を用意してくれていました。
──と言うか私、お腹が酷く空いています。
私はまだ惚けていない筈ですが、昨日の夜ご飯を食べたかの記憶にありませんでした。
「食事が終わったら出港の準備だ」
「あ、はい」
考えていましたが、ヴォルの声に我に返ります。
今更過ぎた事を考えたって仕方がありませんでした。もしかしたらご飯を逃してしまったかもしれませんが、最近太り気味だと感じているので良い機会だと思いましょう。
それにしても、いつもながらベンダーツさんは手際が良いのでした。このくらい私も食事を作る事が出来れば良いのですけど、残念ながらそこまでの料理能力はありません。
ともあれ、この後は船旅でした。そして私の二度目の船旅です。まさかまたマグドリア大陸へ行く事が出来るとは思わなかったですが、今回はただの旅行という訳ではないので心境は微妙でした。
それでも一緒に行ってくれるヴォルに感謝です。
「どうした、メル」
「ありがとうございます、ヴォル。また故郷の大陸へ渡る事が出来るとは思っていなかったです」
「……そうか」
僅かに視線を逸らしたヴォルでした。
あ、これって──違います、決して責めている訳ではないのです。
私はヴォルの反応から、彼の思い違いを訂正しようと慌てて口を開きました。
「あの、嬉しいのです。また……ヴォルと一緒にマグドリアへ行ける事が、とても嬉しいのです」
出来上がっていく食事を前に、私はバタバタと身振り手振りで説明します。
ヴォルは私を、半ば無理矢理連れて来た事を悔やんでいると言っていました。でも今の私は嘘偽りなく、ヴォルと一緒にいる事が出来てとても幸せなのです。
始まりはどうであれ、今こうして二人でいる事は私自身が選んだ結果でした。だからもう、ヴォルが気に病む必要などないのです。
それは意識が戻った私の、何よりも先に出た感情です。
──本能に忠実で申し訳ありません。
「起きたのか、メル」
「あ……おはようございます、ヴォル」
いつものように、後ろから抱き締められて寝ていた私でした。
背後からのヴォルの声に挨拶を返し、私は見える範囲の周囲を確認します。
「おはようございます。ヴォルティ様、メルシャ様」
「あぁ」
「おはようございます、ベンダーツさん」
私が見つけるよりも早く声がして、目的たるベンダーツさんを視界に映しました。
既に入口のところで立っていたベンダーツさんは、いつでも出掛けられる装いです。しかしながら足元にシーツが畳んであるところを見ると、昨夜のうちに戻ったのだと推測されました。
良かったです、無事に帰ってきていたようで胸を撫で下ろします。
「スマクトブさんに会いに行くと言われていたので、心配していたのです。お帰りなさい、ベンダーツさん」
「……はい、ご心配頂きありがとうございます」
帰宅時に気付けない不甲斐なさは今更な私ですが、ともかく言葉で安堵を伝えました。
その時の返答に僅かな違和感を感じましたが、ベンダーツさんはいつものようにピシッとした服を着ています。何処にも怪我等をしている様子が見受けられませんでした。
ベンダーツさんの装いが普段から整っているのは、口調が荒い時も変わりません。これは彼本来の真面目な性格が現れているようでした。
「朝食の用意をしてくれ」
「かしこまりました」
ヴォルの命に、直ぐ様ベンダーツさんが動きます。勿論宿の室内なので、ヴォルが魔法で水と火を用意してくれていました。
──と言うか私、お腹が酷く空いています。
私はまだ惚けていない筈ですが、昨日の夜ご飯を食べたかの記憶にありませんでした。
「食事が終わったら出港の準備だ」
「あ、はい」
考えていましたが、ヴォルの声に我に返ります。
今更過ぎた事を考えたって仕方がありませんでした。もしかしたらご飯を逃してしまったかもしれませんが、最近太り気味だと感じているので良い機会だと思いましょう。
それにしても、いつもながらベンダーツさんは手際が良いのでした。このくらい私も食事を作る事が出来れば良いのですけど、残念ながらそこまでの料理能力はありません。
ともあれ、この後は船旅でした。そして私の二度目の船旅です。まさかまたマグドリア大陸へ行く事が出来るとは思わなかったですが、今回はただの旅行という訳ではないので心境は微妙でした。
それでも一緒に行ってくれるヴォルに感謝です。
「どうした、メル」
「ありがとうございます、ヴォル。また故郷の大陸へ渡る事が出来るとは思っていなかったです」
「……そうか」
僅かに視線を逸らしたヴォルでした。
あ、これって──違います、決して責めている訳ではないのです。
私はヴォルの反応から、彼の思い違いを訂正しようと慌てて口を開きました。
「あの、嬉しいのです。また……ヴォルと一緒にマグドリアへ行ける事が、とても嬉しいのです」
出来上がっていく食事を前に、私はバタバタと身振り手振りで説明します。
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