「結婚しよう」

まひる

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第十章

2.アイツが良いのか【3】

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「宿がとれたよ~。ヴォルとメルの買い物は済んだ?」

 別行動をしていたベンダーツさんと合流する頃には、私達も買い物を終えていました。
 町の商店を見て回っていたのですが、良く居所が分かったと不思議に──思いましたが、主従のリングがあったのを思い出します。お二人りは互いに迷子になったりはしないのでした。

「はい、終わりました」

「今日の夕食は俺が作る」

 返答をした私に続き、ヴォルが先程と同じ宣言をします。
 既に食材の買い物も終えていて、両手に一杯の荷物をヴォルが抱えていました。この状態でも安定した歩幅で歩けるヴォルは凄いです。

「へぇ?……どういう風の吹き回しか分からないけど、やってくれるなら頼もうかな」

 ニヤリと笑みを浮かべるベンダーツさんですが、それ以上ヴォルの感情をあおるような事はしませんでした。
 そして自然な仕草でヴォルに歩み寄り、彼の荷物を半分程受け取ります。その空いた手でしっかりと私の手を握ったヴォルに、ベンダーツさんは小さくですが柔らかな笑みを浮かべていました。

「はいは~い、宿屋に行くよっ」

 ヴォルが何も反応しない事をよしとしたのか、ベンダーツさんは確保した宿屋へ足を向けます。そしてすぐに私達も続きました。

「んじゃ俺は少し自分の買い物と、ちょっと情報収集に行ってくるよ」

 宿に入って荷物を下ろし、私達にお茶を出してくれたベンダーツさんです。
 でも彼自身は一息つく間もなく、すぐにそう告げました。お忙しい中でもお茶出しとか、素敵気遣いです。

「分かった。夕食までには戻ってこい」

「気を付けて行ってきてくださいね」

 入り口で退室モードのベンダーツさんを、座ったままでお見送りする私達でした。
 購入した物には何も口出しされませんでしたが、やはり何か足りない物があったのかも知れません。

「はいは~い」

 にこやかに手を振って出ていくベンダーツさんでした。
 しかしながら、これからどうしましょう。まだ日が高い今の時間では、さすがに食事の準備を取り掛かるには早すぎでした。

「アイツが心配か」

 不意にヴォルから声を掛けられ、私はずっと扉の方を見たままだった事に気付きます。
 脳内で彼の言葉を噛み砕き、私がベンダーツさんを心配して扉を見ていると受け取られたようだと思い至りました。
 それに気付いてヴォルに向き直ると、何故だか少しばかり視線が鋭く感じられます。

「あ、いえ……心配は心配ですけど、先程はこれから何をしようかと……考えていたのです」

 話しながら再度扉を見た私でしたが、次に視線を戻した時のヴォルの固い様子に戸惑ってしまいました。

「……そうか」

 短く返事をしてくれたヴォルですが、どうも様子が変です。
 ──何ですかね。

「ヴォル?」

 声を掛けながら、視線を床に落としてしまった彼へ近付きました。
 また塞ぎ込んでしまったようです。

「あの……っ?!」

 声を掛けた途端に抱き締められました。

「……ヴォ……」

 あまりの力強さに、私はそれ以上言葉を続けられません。
 今肺の中の空気を出してしまったら、そのまま身体が押し潰されそうでした。そんな事はないだろうと思っていても、これ程力強く拘束された事はありません。本当に苦しいです。

「……っ……、っ……」

 ヴォルと私の体格差は、はっきり言うと大人と子供のそれでした。
 つまりは胸の内に抱き入れられた場合、確実に私の顔は塞がれてしまうのです。

「……ル……」

 呼吸困難の中、小さな呟きが聞こえました。
 それはヴォルが私を呼ぶ声です。
 私は薄れる意識の中で、必死に思うように動かない腕を動かしました。
 怖がらないで──と、泣いている様に思えるヴォルの背中へ手を伸ばします。徐々に力が抜けていく震える手で、ただただ──ヴォルの背中を撫で続けたのでした。
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