「結婚しよう」

まひる

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第十章

2.アイツが良いのか【4】

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 不意に意識が戻りました。
 ──私は何をしていたのでしょうか。
 まばたきを繰り返し、現状の把握に努めます。今の私はベッドで横になっていました。いつの間に寝たのでしょう。
 そして買い物に出ていたベンダーツさんが目の前にいました。──しかも何故だか怒っているようです。私に背を向けていますが、腕を組んでの仁王立ち状態でした。
 その向こうにはヴォルが──、項垂れています。
 ──何故?

「あ……、あの……?」

 私が声を掛けると、二人が驚いた様に振り向きました。
 そもそも私とヴォルの間にベンダーツさんがいる事自体珍しいのですが、鬼気迫る様子で一斉に振り返られて逆に圧倒されてしまいます。
 若干じゃっかん腰が引けつつも、横になっていた為に後退しなくてすみました。

「メル?!大丈夫か?何処か痛いところはないか?苦しくない?気持ち悪かったりしない?」

 ですが怒濤どとうのごとくベンダーツさんに問い掛けられ、私は答える隙もありません。
 とにかく私は、壊れた人形の様に首を縦に振り続けました。

「よ……、良かった~……」

 途端に力が抜けたように、そばにあった椅子に腰を落としたベンダーツさんです。
 何でしょうか、これ──質問の意図が分かりませんでした。
 私は疑問を浮かべた視線を、そのままヴォルへ向けます。しかしながら目が合った途端に苦い顔をされ、すぐに視線をらされました。
 ──何がありましたっ?

「あ、今このバカは放っといて」

 私の視線に気が付いたのか、ベンダーツさんが冷たく言い放ちます。
 言葉が刺々しいのは、やはり怒っているからのようでした。何故だかはまだ分かりませんが、ヴォルとベンダーツさんが喧嘩をしています。

「……あ~、覚えてない?ヴォルに落とされたの」

 言葉の意味が分からず、小首をかしげてしまいました。
 『落とす』とは落下させるという意味の筈です。何処も痛くはないですし──と思考を巡らせました。

「あ、ゴメンゴメン。えっと……メル、気絶したんだけど」

 私の反応に苦笑いしながら、ベンダーツさんは言い直してくれます。
 言葉の意味が分かった事は良いですが、それ以上の驚きに包まれました。もしかして人生初の意識喪失でしょうか。

「気絶ですか?」

 思わず心の叫びが声に出てしまいました。そしてそれに一番反応したのがヴォルです。
 ビクッと肩を震わせ、顔はうつむきつつも視線だけこちらに向いていました。怒られた小さい子供のようもあります。

「そ。……このバカ、力加減もしないでメルを抱き締めるもんだから!」

 プンプンと音が聞こえそうな程に怒っているベンダーツさんでした。
 抱き──って、あの時の──?
 どうやら私はあの後、呼吸困難のあまり意識を失ったようです。苦しいとは思っていましたが、まさかの展開でした。
 ここへ戻ってきたベンダーツさんに物凄く怒られ、ヴォルがこんな風にシュンとしているといった流れのようでした。
 しかしながら何だか捨てられた子犬のようで、とても可愛く思えるのですけど──どうしましょう。無性にヴォルの頭を撫でたい衝動に駆られました。

「ったく……夕飯を作ってくれるって言うから期待してたのに、戻ってきたらメルは意識不明だしヴォルは自分を見失ってるし……」

 ブツブツ文句を言い続けるベンダーツさんの横から、私は項垂うなだれるヴォルを見つめます。
 内心では──起き上がって駆け寄って、彼の頭を撫で撫でしたい衝動を必死に抑えていました。
 何気に私、変態臭いです。
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