486 / 515
第十章
≪Ⅶ≫不得手を狙うしかない【1】
しおりを挟む『赤い鱗には氷の魔法が効果的だった。剥がした後の肉には炎だ。あの竜は魔法に対する抵抗力も強い。少しでも不得手を狙うしかないだろ』
淡々と言い放ってみせたが、実際の俺の内心は穏やかではなかった。
──冗談ではなく、もう後がない。
俺の魔力が枯渇するのが先か、魔物の体力が尽きるのが先かの違いだ。
『分かったよ~。んじゃ、俺は赤い鱗を剥がしてやる。丸裸にしてやるから覚悟しておけよ、魔物っ』
にこやかな表情とは逆に、ベンダーツはその手に白い魔力で生成した弓を力強く握っている。
俺の魔力と相性が良いのか、コイツは苦もなく魔法を操った。これで非能力者なのだから笑える。
何故そうも簡単に魔力から武器を錬成出来るのか、全く不思議に思っていないようだ。並の魔力所持者でも、他者の魔力は操るのが容易ではないのに。
これはベンダーツの才能なのかもしれなかった。だが誉めて調子に乗られると鬱陶しいので、俺はそのまま放置する事にする。
『俺は魔物を攻撃しつつ、山を破壊する』
前方を見据え、俺は風の魔力を身に纏った。
魔力の質として風の元素は使いやすく馴染んではいるが、現状の魔力量を考慮すると後どの程度飛んでいられるか正直分からない。
ただ一つ言えるのは、過去にないほど自分の魔力を使っているという点だった。
『メル、どうしてるかなぁ』
俺が宙に浮かぶ瞬間、ベンダーツの何気ない呟きが聞こえる。
そんなもの、言われなくても気になっているに決まっていた。彼女の傍に早く戻りたい。
ここについてから、既に半日程が経っていた。空が赤くなってきているのを見ると、余計に時間が経過した気がする。
──だが今は魔物と戦うのみ。
俺はベンダーツに答える事なくスピードを増し、勢い良く空へと舞い上がった。
相変わらず俺達を観察している竜である。そして舞い上がった俺が視線を同じくしても、少しも動じた素振りを見せなかった。
『行くぞ』
『はいは~い』
俺の号令に、楽しそうに応じてくるベンダーツ。
だが不意にそれも良いかもしれないと、何故だか漠然と思う。城にいた頃は、少しでも気を許せば殺されかねない針山だったのだ。
感傷に浸りそうになる意識を切り替え、水魔法をのせた剣から水刃を繰り出して飛ばしつつ近寄る。
水の刃は魔物に当たると、その体表の高温で瞬時に蒸発していった。周囲に気化した水元素は魔力を含んだまま、俺の姿を隠す雲となる。
そして身を隠しながらも、俺は火山の中心へ魔力をぶつけるべく氷の魔力を左手に集中し始めた。
『ヴォル、狙われてるよ!』
ベンダーツの叫び声に竜へ意識を向ける。
いつの間に距離を縮められていたのか、長い尾が鞭のように振るわれていた。
結界壁が割れる音、風を切る音──それらは俺の耳には届かない。
グッ!──強い衝撃が身体を駆け抜けた。受けた威力は肉体に直接響く。
そして避ける間もなく山肌に叩き付けられ、障壁が一気に砕け散った。
『ヴォルっ!』
悲鳴のようなベンダーツの声が頭に響く。
俺はとりあえず生きている事を知らせる為、土煙の中から天の剣だけを上げてみせた。
『……のヤロ!』
それでもカッとなったベンダーツの罵声が届く。
そして俺の渡した氷魔法を使い、竜へ氷の矢を連射し始めた。
『あまり無駄に使うなよ?』
呆れを含んで声を掛けるが、こうする事でアイツなりに敵の目を自分へ向けているのかもしれない。
それならばと、俺は起き上がりつつ自身の状態を確認した。結界が辛うじて二枚残っていた為、肉体的な損傷はない。
しかしながら大地に叩き付けられたダメージは少なくなかった。──左手に集中していた氷の魔力は霧散してしまい、残念な事に全く残っていなかったのである。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
修道院パラダイス
羊
恋愛
伯爵令嬢リディアは、修道院に向かう馬車の中で思いっきり自分をののしった。
『私の馬鹿。昨日までの私って、なんて愚かだったの』
でも、いくら後悔しても無駄なのだ。馬車は監獄の異名を持つシリカ修道院に向かって走っている。そこは一度入ったら、王族でも一年間は出られない、厳しい修道院なのだ。いくら私の父が実力者でも、その決まりを変えることは出来ない。
◇・◇・◇・・・・・・・・・・
優秀だけど突っ走りやすいリディアの、失恋から始まる物語です。重い展開があっても、あまり暗くならないので、気楽に笑いながら読んでください。
なろうでも連載しています。
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜
大森 樹
恋愛
髪は女の命。しかし、レベッカの髪は切ったら二度と伸びない。
みんなには秘密だが、レベッカの髪には魔法が宿っている。長い髪を切って、昔助けた男の子レオンが天才魔法使いとなって目の前に現れた。
「あなたを愛しています!絶対に絶対に幸せにするので、俺と結婚してください!よろしくお願いします!!」
婚約破棄されてから、一人で生きていくために真面目に魔法省の事務員として働いていたレベッカ。天才魔法使いとして入団してきた新人レオンに急に告白されるが、それを拒否する。しかし彼は全く諦める気配はない。
「レベッカさん!レベッカさん!」とまとわりつくレオンを迷惑に思いながらも、ストレートに愛を伝えてくる彼に次第に心惹かれていく…….。しかし、レベッカはレオンの気持ちに答えられないある理由があった。
年上訳あり真面目ヒロイン×年下可愛い系一途なヒーローの年の差ラブストーリーです。
お姉様優先な我が家は、このままでは破産です
編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。
だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!
愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理!
姉の結婚までにこの家から逃げたい!
相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる