「結婚しよう」

まひる

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第十章

≪Ⅶ≫不得手を狙うしかない【1】

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『赤いうろこには氷の魔法が効果的だった。剥がした後の肉には炎だ。あの竜は魔法に対する抵抗力も強い。少しでも不得手を狙うしかないだろ』

 淡々と言い放ってみせたが、実際の俺の内心は穏やかではなかった。
 ──冗談ではなく、もうあとがない。
 俺の魔力が枯渇するのが先か、魔物の体力が尽きるのが先かの違いだ。

『分かったよ~。んじゃ、俺は赤いうろこを剥がしてやる。丸裸にしてやるから覚悟しておけよ、魔物っ』

 にこやかな表情とは逆に、ベンダーツはその手に白い魔力で生成した弓を力強く握っている。
 俺の魔力と相性が良いのか、コイツは苦もなく魔法を操った。これで非能力者なのだから笑える。
 何故そうも簡単に魔力から武器を錬成出来るのか、全く不思議に思っていないようだ。並の魔力所持者でも、他者の魔力は操るのが容易ではないのに。
 これはベンダーツの才能なのかもしれなかった。だが誉めて調子に乗られると鬱陶うっとうしいので、俺はそのまま放置する事にする。

『俺は魔物を攻撃しつつ、山を破壊する』

 前方を見据え、俺は風の魔力を身にまとった。
 魔力の質として風の元素は使いやすく馴染んではいるが、現状の魔力量を考慮するとあとどの程度飛んでいられるか正直分からない。
 ただ一つ言えるのは、過去にないほど自分の魔力を使っているという点だった。

『メル、どうしてるかなぁ』

 俺がちゅうに浮かぶ瞬間、ベンダーツの何気ない呟きが聞こえる。
 そんなもの、言われなくても気になっているに決まっていた。彼女のそばに早く戻りたい。
 ここについてから、既に半日程がっていた。空が赤くなってきているのを見ると、余計に時間が経過した気がする。
 ──だが今は魔物と戦うのみ。
 俺はベンダーツに答える事なくスピードを増し、勢い良く空へと舞い上がった。
 相変わらず俺達を観察している竜である。そして舞い上がった俺が視線を同じくしても、少しも動じた素振りを見せなかった。

『行くぞ』

『はいは~い』

 俺の号令に、楽しそうに応じてくるベンダーツ。
 だが不意にそれも良いかもしれないと、何故だか漠然と思う。城にいた頃は、少しでも気を許せば殺されかねない針山だったのだ。
 感傷にひたりそうになる意識を切り替え、水魔法をのせた剣から水刃を繰り出して飛ばしつつ近寄る。
 水のやいばは魔物に当たると、その体表の高温で瞬時に蒸発していった。周囲に気化した水元素は魔力を含んだまま、俺の姿を隠す雲となる。
 そして身を隠しながらも、俺は火山の中心へ魔力をぶつけるべく氷の魔力を左手に集中し始めた。

『ヴォル、狙われてるよ!』

 ベンダーツの叫び声に竜へ意識を向ける。
 いつの間に距離を縮められていたのか、長い尾が鞭のように振るわれていた。
 結界壁が割れる音、風を切る音──それらは俺の耳には届かない。
 グッ!──強い衝撃が身体を駆け抜けた。受けた威力は肉体に直接響く。
 そしてける間もなく山肌に叩き付けられ、障壁が一気いっきに砕け散った。

『ヴォルっ!』

 悲鳴のようなベンダーツの声が頭に響く。
 俺はとりあえず生きている事を知らせる為、土煙の中から天の剣ラミナだけを上げてみせた。

『……のヤロ!』

 それでもカッとなったベンダーツの罵声が届く。
 そして俺の渡した氷魔法を使い、竜へ氷の矢を連射し始めた。 

『あまり無駄に使うなよ?』

 あきれを含んで声を掛けるが、こうする事でアイツなりに敵の目を自分へ向けているのかもしれない。
 それならばと、俺は起き上がりつつ自身の状態を確認した。結界がかろうじて二枚残っていた為、肉体的な損傷はない。
 しかしながら大地に叩き付けられたダメージは少なくなかった。──左手に集中していた氷の魔力は霧散してしまい、残念な事に全く残っていなかったのである。
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