「結婚しよう」

まひる

文字の大きさ
489 / 515
第十章

7.不得手を狙うしかない【4】

しおりを挟む
 そして魔物の肉を突き破る感触が手に伝わった。痛みの為か怒りによるものか──俺の身体に、魔物が咆哮ほうこうを上げていると思われる震動が伝わってくる。
 俺は体勢を変えて魔物に足をつけた。そしてその肩口に突き刺さった槍を引き抜き、すぐに蹴り飛ばすように距離をとる。
 すると即座に俺がいた場所へ、空気を切って振られる反撃の為の尾。俺も負けじと、その尾目掛けて再び槍を振るった。
 竜の咆哮ほうこうが響き渡る中、長い尾の一部が宙を舞って落ちていく。本体から離れたソレはビクビクとうごめきながらも、意思のない放物線を描いていった。
 ──っ?!
 突如として全身に浴びた黒い気配に目を見開く。その先に見えた竜は、瞳に理性を宿していなかった。──ただあるのは破壊衝動のみ。
 怒りが振り切れたようで、空中に停滞したまま大口を開けて一旦停止。そして吐き出された赤い光線は、今までのとは格が違った。
 大地が大きく削り取られる。
 海が割れる。
 空間さえも裂けそうなその光線は、竜が滞空しながら回転する動作に合わせて分裂した。
 それはまるで神々の怒りの鉄槌のごとく──。

『メルっ?!』

 ベンダーツの叫びが脳内に響く。
 それにつられるように視線を動かした俺は、有り得ない衝撃を受けた。
 上空にいる俺からは、この島の全貌が容易に見て取れる。そして竜が無作為に分断した世界の中に、メルの為に防御結界を張った大地があったのだ。

『な……に……?』

 俺の思考が停止する。
 見開かれた瞳に、塵となっていく大地が見るともなしに映っていた。
 竜は一通り島を破壊すると、その理性なき瞳に次に動く物体をとらえる。それは身近に存在する、唯一の生命体である俺だった。
 そしてそのまま、ただ闇雲やみくもに突進して来る。直撃した俺の結界障壁が悲鳴をあげた。だが、たんなる力業ちからわざでは俺の結界は破壊出来ない。
 しかしながらそれでも何度も何度も体当りをする事で、ようやく一枚の障壁が耐えきれずに砕け散った。

『お、おいっ!ヴォル、何してんだよっ!動けよ、けろよっ。戦えよっ!』

 なかば悲鳴のように聞こえるベンダーツの声。
 だが残念ながら俺には届かない。否──耳を貸す余裕はなかった。

Seirei yo.精霊よ。ore to no keiyaku wa ikite iru ka?俺との契約は生きているか?

 心ここにあらずの状態の俺から、知らずに言葉が漏れ出る。
 現状の自分では音が聞こえない為、どのような声音で口を開いているのかは分からなかった。けれどもこれは俺の本心からの願いでもある。

Kanojyo wo sukutte kure nai ka?彼女を救ってくれないか?

 それは俺自身を取り囲む精霊達へ、最初で最後の願いだった。
 これまでただの一度も、俺は精霊達へう事はなかったのである。それほど執着するものもなかったからだ。
 だが精霊への願いにはなくてはならない、対価となる俺が現在保有している魔力の残量は微々たるもの──。
 そして現在進行形で、結界壁を通じて魔物の攻撃を受け続ける震動が身体中に伝わってくる。それでも俺は、自らの意思を竜へ向ける事は出来なかった。

『ヴォルっ!』

 ベンダーツの叫びと共に、離れた場所から白い氷の矢がいくつも竜目掛けて飛んでいく。
 正直、視界に映る周囲の全てがうるさかった。
 今の俺が重要視するのは精霊との対話。結界にぶつかってくる魔物など、全く気に止めていられない。
 ──俺の邪魔を……するな。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

《完結》戦利品にされた公爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
戦いの《戦利品》として公爵邸に連れて行かれた公爵令嬢の運命は?

婚約解消は君の方から

みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。 しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。 私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、 嫌がらせをやめるよう呼び出したのに…… どうしてこうなったんだろう? 2020.2.17より、カレンの話を始めました。 小説家になろうさんにも掲載しています。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜

大森 樹
恋愛
髪は女の命。しかし、レベッカの髪は切ったら二度と伸びない。 みんなには秘密だが、レベッカの髪には魔法が宿っている。長い髪を切って、昔助けた男の子レオンが天才魔法使いとなって目の前に現れた。 「あなたを愛しています!絶対に絶対に幸せにするので、俺と結婚してください!よろしくお願いします!!」 婚約破棄されてから、一人で生きていくために真面目に魔法省の事務員として働いていたレベッカ。天才魔法使いとして入団してきた新人レオンに急に告白されるが、それを拒否する。しかし彼は全く諦める気配はない。 「レベッカさん!レベッカさん!」とまとわりつくレオンを迷惑に思いながらも、ストレートに愛を伝えてくる彼に次第に心惹かれていく…….。しかし、レベッカはレオンの気持ちに答えられないある理由があった。 年上訳あり真面目ヒロイン×年下可愛い系一途なヒーローの年の差ラブストーリーです。

お姉様優先な我が家は、このままでは破産です

編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。 だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!  愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理! 姉の結婚までにこの家から逃げたい! 相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。

処理中です...