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第十章
≪Ⅷ≫約束は守ろう【1】
しおりを挟む──あれ?私……いったい、どうしたのでしょう。
不意に感じた浮遊感に、私は自分の状況が全く理解出来ませんでした。何故か頭がクラクラします。
〈大丈夫……生きてる……〉
何処からか声が聞こえてきました。──いえ、何だか違います。
〈どう?……そう……そっかぁ……そうだよねぇ……〉
その声は頭の中へ直接響いてきているようで、他の誰かと話しているようでもありました。
でも残念ながら、この声の主を私は知りません。
〈うん、分かった……そっちは任せるね……〉
誰と話しているのかは分かりませんが、その口調からは親しみや信頼が感じられます。
その声は女の人のような、小さな子供のような高めの声音でした。そして優しげで、温かな感じです。
私はそんな事を第三者的に思っていたのですが、突然何かから引っ張られるように意識を動かされました。
「ぅきゃっ!」
思わず叫び声をあげてしまう私です。
──ん?ここは……何処でしょうか。
私は瞬きを繰り返しました。ついでに周囲を見渡します。
勿論、見えない訳ではありませんでした。この目は飾りではないので、しっかりはっきりくっきり景色は見えています。
それでも記憶している風景と違いすぎていて、すぐには現在地が分かりませんでした。
「えっと……、島……ですよね?」
疑問符を浮かべながらも、後ろを振り向きます。
私の背後では、波が岩場に当たる激しい音がしていました。そちらが外海側になるようで、逆に目の前──確かに少し遠いですが、水平線の向こうに別の山影が見えます。
私はそれがマグドリア大陸だと推測しました。
「それにしても……、火山はどうしたのですか?」
首を傾げながら陸地を見渡しました。
確かに、大きな火の粉を噴き上げる山があった筈です。岩なども飛んできていて、そちらへ向かったヴォルとベンダーツさんが心配だったのを思い浮かべました。
「あ、ウマウマさん……」
次に思い出された自分の役割に、呟きが溢れます。
私は彼等を見送りつつ、ヴォルの結界でお留守番なのでした。そしてあの時、ヴォルとベンダーツさんのウマウマさんを預かったのです。
記憶が甦るように、二人から渡された手綱の感触を思い出しました。思わず視線を落として自分の掌を見ますが、勿論何も掴んではいません。
こんな簡単なお仕事さえ出来ない──、と悲しくなった時でした。遠くから聞こえた鳴き声に、私は勢い良く顔を上げます。
「ウマウマさんっ!」
すぐに立ち上がり、私は思い切り両手を振って叫びました。
鳴き声と共に、見慣れた黄色が走ってきます。近付くごとに──顔から首にかけて生え揃ったフサフサの赤い鬣が、踊るように跳ねているのが見えました。
蹄の音にも乱れがなく、駆けてくる大地には緑がないので固そうな響きです。それでもその背後に緑が少し見えるので、僅かながら植物が育っているようでした。
「良かったですっ。二人とも元気そうですね?お散歩に行っていたのですか?」
私は駆け寄ってきたウマウマさんを二頭同時に撫でながら、怪我などをしていないか確認します。
でもどうやらそれは杞憂のようで二頭は元気でしたし、何を食べていたのかお腹も膨れているようでした。──更に心なしか、毛艶も良くなっているような気もします。
本当にこのウマウマさん達は、何処ででも元気に生きていけそうでした。とても素敵な事です。
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