499 / 515
第十章
9.これはもう動かない【4】
しおりを挟む
「あ~、そろそろ良いかな?」
それまで口をつぐんでいたベンダーツさんが、ヴォルと私の会話へ静かに割って入ります。
話し掛けるタイミングを見計らっていたようでした。
「とりあえず、ヴォルの腕を見たいんだけど。潜在魔力が極限まで削られたのなら、尚更早目に処置をしないとならないからね」
そう言いつつ──いつの間に持ってきたのか、ベンダーツさんの手には義手治療に必要と思われる道具箱が握られています。
元々ベンダーツさんはヴォルの専属技師でもありました。私も一度義手治療を見た事がありますが、あの時は同じ素材を使った筈です。
もう替えがないというこの高級素材は、自分の手と同じように使える義手でした。魔力所持者専用に開発されたとの事で、根本的に魔力がないと使用不可のようです。
「この義手に使用している木材は魔力を吸収するからさ。以前のヴォルなら問題は全くないんだけど、今は動かなくても魔力を吸い取られちゃうからキツいでしょ」
「ちょっとごめんよ」とばかりにヴォルの隣に腰掛けるベンダーツさんでした。
今は結界内で布を敷き、直接大地に座っています。ヴォルはベンダーツさんが横に座っても反応せず、ちらりと視線を動かしただけでした。
そしてヴォルの服はあちらこちらが破れている状態だったので、ベンダーツさんは遠慮なく左肩から服を裂きます。
──っ?!
初めて明るい中で見たヴォルの左肩に、私は息を呑みました。
頭では分かっていましたが、実際に目にするのとでは精神的に受けるものが違います。
「あ~……、メル?ダメそうなら離れていても良いよ?」
ベンダーツさんはそう苦笑いを浮かべました。
対する私は、何とか視線を逸らさずにいられただけでした。──情けないです。
私はそのまま無言で首を横に振り、涙の浮かんだ瞳をベンダーツさんの手元へ向けました。
ヴォルの左肩は関節部分はあるものの、そのすぐ先から木製の義手に替わっています。接続部は血管が浮いたような凹凸があり、青黒く変色してもいました。
「……実はこの素材、所有者の魔力を吸って意思を伝達してるんだ。だから所有者の肉体に根を張ってる。その対価として本当の腕のように動かせるんだけどね。で、今のままだとヴォルが干からびるまで魔力を吸い取られちゃう。だから早急な分離が必要って訳」
その場から立ち去らない私をどう思ったのか、ベンダーツさんは淡々と現状の説明をしてくれています。
そうして手際良く道具箱から接続部を外す為の工具を取り出し、まるで機械の修理をするかのように手際良く金具を外していました。──でも忘れるべからず、相手は人間です。
身体に埋め込まれた金具を回して取り外す度に赤い血が流れ、義手を筋状に染めていきました。
見ているだけの私でも痛いのに、ヴォルは一切顔色を変えません。
「麻酔薬があまりないから、痛み止効果が少ないかもだよ」
「問題ない。やってくれ」
ベンダーツさんは未だ出血の続く接続部に透明な液体を掛けました。
それが麻酔薬なのかもしれませんが、ベンダーツさんはそのまま微動だにしないヴォルの横顔に話し掛けます。
「分かったよ。……まぁ俺としては、ここが回復出来る精霊結界の中で良かったかな。んじゃ、いくよ?」
僅かに安堵を見せたベンダーツさんでしたが、その手はしっかりとヴォルの義手を握り締めていました。
それまで口をつぐんでいたベンダーツさんが、ヴォルと私の会話へ静かに割って入ります。
話し掛けるタイミングを見計らっていたようでした。
「とりあえず、ヴォルの腕を見たいんだけど。潜在魔力が極限まで削られたのなら、尚更早目に処置をしないとならないからね」
そう言いつつ──いつの間に持ってきたのか、ベンダーツさんの手には義手治療に必要と思われる道具箱が握られています。
元々ベンダーツさんはヴォルの専属技師でもありました。私も一度義手治療を見た事がありますが、あの時は同じ素材を使った筈です。
もう替えがないというこの高級素材は、自分の手と同じように使える義手でした。魔力所持者専用に開発されたとの事で、根本的に魔力がないと使用不可のようです。
「この義手に使用している木材は魔力を吸収するからさ。以前のヴォルなら問題は全くないんだけど、今は動かなくても魔力を吸い取られちゃうからキツいでしょ」
「ちょっとごめんよ」とばかりにヴォルの隣に腰掛けるベンダーツさんでした。
今は結界内で布を敷き、直接大地に座っています。ヴォルはベンダーツさんが横に座っても反応せず、ちらりと視線を動かしただけでした。
そしてヴォルの服はあちらこちらが破れている状態だったので、ベンダーツさんは遠慮なく左肩から服を裂きます。
──っ?!
初めて明るい中で見たヴォルの左肩に、私は息を呑みました。
頭では分かっていましたが、実際に目にするのとでは精神的に受けるものが違います。
「あ~……、メル?ダメそうなら離れていても良いよ?」
ベンダーツさんはそう苦笑いを浮かべました。
対する私は、何とか視線を逸らさずにいられただけでした。──情けないです。
私はそのまま無言で首を横に振り、涙の浮かんだ瞳をベンダーツさんの手元へ向けました。
ヴォルの左肩は関節部分はあるものの、そのすぐ先から木製の義手に替わっています。接続部は血管が浮いたような凹凸があり、青黒く変色してもいました。
「……実はこの素材、所有者の魔力を吸って意思を伝達してるんだ。だから所有者の肉体に根を張ってる。その対価として本当の腕のように動かせるんだけどね。で、今のままだとヴォルが干からびるまで魔力を吸い取られちゃう。だから早急な分離が必要って訳」
その場から立ち去らない私をどう思ったのか、ベンダーツさんは淡々と現状の説明をしてくれています。
そうして手際良く道具箱から接続部を外す為の工具を取り出し、まるで機械の修理をするかのように手際良く金具を外していました。──でも忘れるべからず、相手は人間です。
身体に埋め込まれた金具を回して取り外す度に赤い血が流れ、義手を筋状に染めていきました。
見ているだけの私でも痛いのに、ヴォルは一切顔色を変えません。
「麻酔薬があまりないから、痛み止効果が少ないかもだよ」
「問題ない。やってくれ」
ベンダーツさんは未だ出血の続く接続部に透明な液体を掛けました。
それが麻酔薬なのかもしれませんが、ベンダーツさんはそのまま微動だにしないヴォルの横顔に話し掛けます。
「分かったよ。……まぁ俺としては、ここが回復出来る精霊結界の中で良かったかな。んじゃ、いくよ?」
僅かに安堵を見せたベンダーツさんでしたが、その手はしっかりとヴォルの義手を握り締めていました。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜
大森 樹
恋愛
髪は女の命。しかし、レベッカの髪は切ったら二度と伸びない。
みんなには秘密だが、レベッカの髪には魔法が宿っている。長い髪を切って、昔助けた男の子レオンが天才魔法使いとなって目の前に現れた。
「あなたを愛しています!絶対に絶対に幸せにするので、俺と結婚してください!よろしくお願いします!!」
婚約破棄されてから、一人で生きていくために真面目に魔法省の事務員として働いていたレベッカ。天才魔法使いとして入団してきた新人レオンに急に告白されるが、それを拒否する。しかし彼は全く諦める気配はない。
「レベッカさん!レベッカさん!」とまとわりつくレオンを迷惑に思いながらも、ストレートに愛を伝えてくる彼に次第に心惹かれていく…….。しかし、レベッカはレオンの気持ちに答えられないある理由があった。
年上訳あり真面目ヒロイン×年下可愛い系一途なヒーローの年の差ラブストーリーです。
お姉様優先な我が家は、このままでは破産です
編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。
だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!
愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理!
姉の結婚までにこの家から逃げたい!
相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する
紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。
私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。
その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。
完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる