「結婚しよう」

まひる

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第二章

≪Ⅷ≫精霊とは違う【1】

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「必要ない」

 冷たい声でした。私は思わずヴォルを見上げます。彼は真っ直ぐ片眼鏡モノクルさんを見ていました。

「ですが、私はめいを受けております」

 それでも片眼鏡モノクルさんは引く事をしません。そして『誰から』とは言いませんでした。でも、話の流れからして恐らく皇帝様でしょうか。前にヴォルが言っていましたし。

「関係ない。戻りはする。もうしばらく待てと伝えろ」

 鋭い視線も冷たい声も、私の知らないヴォルでした。怖い……です。ゾワゾワがチリチリに変わります。
 周りにいる積み荷を動かすたくさんの人々は賑やかですが、私を取り囲む二人の空気だけは剣呑としています。

「ヴォルティ様におつかえはしていますが、私の主人は貴方ではありません」

「俺はお前を必要としない」

 目の前で繰り広げられる静かな言葉の応酬。ですがそれは魔物に囲まれている時と同じ──いえ、それよりも怖いです。向けられる敵意に呼吸が浅くなります。たぶん私、物凄く青い顔をしていると思いますよ。

「メル?」

 フラりと身体が揺らぎました。
 あれ……?ヴォルの少しだけ驚いた声が聞こえたような気がしましたが、その先は真っ暗になりました。



 メルの身体が左右に揺れたかと思った途端、崩れるようにして倒れる。慌てて腕を掴んだが、その時は既に青白い顔のまま意識がなかった。

「帰れ」

 俺はベンダーツに一言だけ言葉を投げ付け、すぐさまメルを抱き上げて宿に向かう。奴はついてこなかった。恐らく宿は知られているだろうが。……しかし何故倒れたんだ。着いた時は体調が悪くはなさそうだった。

 宿のベッドに静かに寝かせ、未だ青い顔のメルを見つめる。汗を浮かべていた為、それを拭おうと額に触れようとして。

「…………」

 ピシッと指先に電気が走る。メルの婚約の腕輪に掛けた『拒絶』の魔法が発動したのだ。以前のように激しい拒絶ではないにしろ、先程のベンダーツと俺のやり取りに原因があるのは確かだろう。

「メル……」

 ピリピリと刺すように感じる電気を無視し、柔らかい布でメルの汗を拭く。セントラルに……、このまま連れていっても問題ないのだろうか。俺は自問する。だが。

「俺はメルを手放せない」

 これだけは分かる。それが何なのかは分からない。ただ期限が迫っているから。そうだと思っていたが、違う気もする。だが、ここまで長く同じ女といた事はない。たいていは向こうが逃げていくからだが。

「精霊とは違う、人間の女」

 何が違うのか。他の人間の女とも違う、メルの存在。俺は自問しつつ、メルの髪を撫でる。痛みはもうなかった。



 泣いている小さい子供がいます。一人、膝を抱えるようにして泣いています。シクシク、声を押し殺すように。

「どうしたの?何で泣いているの?」

 近付こうとして、私は目が覚めました。あれ?ここ……。周りを見回し、ようやく宿に戻ってきていたのだと気付きました。でもいつもと違う事。それはヴォルがいない事でした。
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