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第三章
8.誰も見ていない【5】
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そんなこんなで、私はヴォルと一緒に部屋まで戻ってきました。
夕食会はなんとか終わりましたが、もう参加したくないです。本当に疲れますよ。
そもそも立食パーティーなので、食事も取ったのか取っていないのか分からない程でした。──目の前に美味しそうな食べ物がたくさん並んでいたのに、今思えばとても勿体無いです。
「無理するな、メル」
部屋に入るなりハァ~と溜め息をついた私に、ヴォルは頭をポンポンと撫でながら気遣ってくれます。
「あ、ありがとうございます。でも私、ヴォルの婚約者として合格だったのでしょうか」
安心した途端、ベンダーツさんの『剥奪する』という言葉を思い出してしまいました。
「どういう事だ」
ヴォルの眉が寄ります。あれ?私、余計な事を言いました?
「あの……」
少し怖くなりましたが、聞かれた事に答えない訳にはいかないです。でもでも、私の言葉を聞く度にヴォルの眉間が深く溝を刻んでいきます。あ~、もしかしなくても失敗しましたね。
「あ、あの……ヴォル?」
「……問題ない」
鋭い視線をあらぬ方──多分そちらにベンダーツさんがいるのだと思われます──へ向け、ヴォルは眉間にシワを寄せたまま告げました。
ぅわ~、大有りではないですか。全然『問題ない』ようには見えません。
「お願いですから、酷い事はしないで下さいね?」
皇帝様に決定された──ガルシアさんに聞きました──とはいえ、ベンダーツさんはヴォルの執事さんです。痛い事はダメですよ?
「………………善処する」
私は必死に手を伸ばし、彼の眉間のシワを撫でます。
間がありすぎですよ、ヴォル。怖いですって。
「それより、もう心臓は大丈夫なのか」
一生懸命眉間を撫でていると、ヴォルが瞳の鋭さを消して問い掛けてきました。
あ……、心配してくれていたのですか?
「はい、もう大丈夫です」
緊張から解放された安堵から私自身も忘れていましたが、先程の食事会中に胸を押さえるくらいの衝撃を受けたのでした。
そう言えば、もう何ともないですね。不思議です。──ドキドキして苦しかったのですけど。
えっと、確かヴォルの笑った顔を見たからです。普段表情筋があまりお仕事をしない彼なので、あの柔らかな笑みは爆発的な威力がありましたよ。──う~ん……結果、見目が宜しい人の笑顔は心臓に悪い事が分かりました。
「そうか。医師に診せなくても良いか?」
「はい、そこまでは」
私の返答を聞いても、ヴォルの心配は晴れないようです。
けれども、いくらお医者様でも治せませんって。ヴォルの笑顔自体希少なのに、それを見て動悸が起こるってどうですか。
「心配だ」
「大丈夫ですよ、ヴォルがいてくれるだけで」
「っ?!……そ、そうか」
眉尻を僅かに下げて瞳に不安を乗せていたヴォルでしたが、私の言葉に突然息を呑んで一瞬固まります。
あれ?私、また変な事を言いました?何故だか、ヴォルの反応が変です。
「顔が赤くないですか?」
良く見ればいつもより少しだけ頬に赤みが強いような気がします。
私は思わず手を伸ばして彼の頬に触れようとしましたが、途中でヴォルに手首を掴まれてしまいました。そのあとすぐに反対側の手で覆って顔を背けてしまった彼の表情は見えませんが、何だか様子がおかしいです。
「も、問題ない」
「熱があったりしませんか?」
あまりの挙動不審さに、私は不安が増します。腕を取られているのでこれ以上動けないのが悔しいですね。
そう言えば前にもこんな事がありました。経験上、やたら素直なヴォルは眠いか体調が悪いかです。
彼も今日まで多忙な日々を送った筈ですから、仮に具合が悪くなっていてもおかしくはありません。
「熱はない」
「じゃあ、眠いのですか?」
「……何故だ」
「いえ、ヴォルが素直なので」
幾度かの問い掛けの後、漸く視線を合わせてくれたのですが。
あ、ヴォルの眉間に新たなシワが寄りました。そして、大きく溜め息をつかれてしまいます。何故ですか。淀みなく答えたのが悪かったのですかね。
「そう言う判断基準なのか」
「はい」
呆れを含んだ声音でした。けれども私は自信を持って頷きます。だって、仕方がないではないですか。
普段から表情が乏しいですし、口数も少ないのです。他に何処をどう取れと言うのですか?
反応はいまいちでしたが、私だって頑張ってヴォルの事を知ろうとしているのですよ。
夕食会はなんとか終わりましたが、もう参加したくないです。本当に疲れますよ。
そもそも立食パーティーなので、食事も取ったのか取っていないのか分からない程でした。──目の前に美味しそうな食べ物がたくさん並んでいたのに、今思えばとても勿体無いです。
「無理するな、メル」
部屋に入るなりハァ~と溜め息をついた私に、ヴォルは頭をポンポンと撫でながら気遣ってくれます。
「あ、ありがとうございます。でも私、ヴォルの婚約者として合格だったのでしょうか」
安心した途端、ベンダーツさんの『剥奪する』という言葉を思い出してしまいました。
「どういう事だ」
ヴォルの眉が寄ります。あれ?私、余計な事を言いました?
「あの……」
少し怖くなりましたが、聞かれた事に答えない訳にはいかないです。でもでも、私の言葉を聞く度にヴォルの眉間が深く溝を刻んでいきます。あ~、もしかしなくても失敗しましたね。
「あ、あの……ヴォル?」
「……問題ない」
鋭い視線をあらぬ方──多分そちらにベンダーツさんがいるのだと思われます──へ向け、ヴォルは眉間にシワを寄せたまま告げました。
ぅわ~、大有りではないですか。全然『問題ない』ようには見えません。
「お願いですから、酷い事はしないで下さいね?」
皇帝様に決定された──ガルシアさんに聞きました──とはいえ、ベンダーツさんはヴォルの執事さんです。痛い事はダメですよ?
「………………善処する」
私は必死に手を伸ばし、彼の眉間のシワを撫でます。
間がありすぎですよ、ヴォル。怖いですって。
「それより、もう心臓は大丈夫なのか」
一生懸命眉間を撫でていると、ヴォルが瞳の鋭さを消して問い掛けてきました。
あ……、心配してくれていたのですか?
「はい、もう大丈夫です」
緊張から解放された安堵から私自身も忘れていましたが、先程の食事会中に胸を押さえるくらいの衝撃を受けたのでした。
そう言えば、もう何ともないですね。不思議です。──ドキドキして苦しかったのですけど。
えっと、確かヴォルの笑った顔を見たからです。普段表情筋があまりお仕事をしない彼なので、あの柔らかな笑みは爆発的な威力がありましたよ。──う~ん……結果、見目が宜しい人の笑顔は心臓に悪い事が分かりました。
「そうか。医師に診せなくても良いか?」
「はい、そこまでは」
私の返答を聞いても、ヴォルの心配は晴れないようです。
けれども、いくらお医者様でも治せませんって。ヴォルの笑顔自体希少なのに、それを見て動悸が起こるってどうですか。
「心配だ」
「大丈夫ですよ、ヴォルがいてくれるだけで」
「っ?!……そ、そうか」
眉尻を僅かに下げて瞳に不安を乗せていたヴォルでしたが、私の言葉に突然息を呑んで一瞬固まります。
あれ?私、また変な事を言いました?何故だか、ヴォルの反応が変です。
「顔が赤くないですか?」
良く見ればいつもより少しだけ頬に赤みが強いような気がします。
私は思わず手を伸ばして彼の頬に触れようとしましたが、途中でヴォルに手首を掴まれてしまいました。そのあとすぐに反対側の手で覆って顔を背けてしまった彼の表情は見えませんが、何だか様子がおかしいです。
「も、問題ない」
「熱があったりしませんか?」
あまりの挙動不審さに、私は不安が増します。腕を取られているのでこれ以上動けないのが悔しいですね。
そう言えば前にもこんな事がありました。経験上、やたら素直なヴォルは眠いか体調が悪いかです。
彼も今日まで多忙な日々を送った筈ですから、仮に具合が悪くなっていてもおかしくはありません。
「熱はない」
「じゃあ、眠いのですか?」
「……何故だ」
「いえ、ヴォルが素直なので」
幾度かの問い掛けの後、漸く視線を合わせてくれたのですが。
あ、ヴォルの眉間に新たなシワが寄りました。そして、大きく溜め息をつかれてしまいます。何故ですか。淀みなく答えたのが悪かったのですかね。
「そう言う判断基準なのか」
「はい」
呆れを含んだ声音でした。けれども私は自信を持って頷きます。だって、仕方がないではないですか。
普段から表情が乏しいですし、口数も少ないのです。他に何処をどう取れと言うのですか?
反応はいまいちでしたが、私だって頑張ってヴォルの事を知ろうとしているのですよ。
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