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第三章
≪Ⅹ≫結婚しよう【1】
しおりを挟むここに来てから半年くらい経ちました。
苦手だった歴史と言葉の勉強も、ガルシアさんに薬草の知識を条件に持ち出されてやらない訳にもいかず……。だって薬草の知識を得るのに、歴史も知らないでどうするのですかとか言われてしまったのですよ。
そして私は頑張りました。時には精霊さんにお願いして、ヴォルに外に連れ出してもらったりしましたけど。
「どうした、メル」
部屋の窓からボンヤリと外を見ていた私は、後ろから抱きしめられながら声を掛けられて振り返りました。
当たり前ながら、こうして私に触れるのはヴォルしかいません。
「いえ、もう半年経ったな~とか考えていました」
以前にも増してスキンシップの多くなったヴォルは、何もなくても私の肌に触れてきます。
何でしょうか。必死にヴォルへのトキメキを隠しているつもりですが、こんなにもくっついていては心臓のバクバクが伝わってしまいそう怖いですね。
「……そろそろ一年になると言う事か」
「えっ?」
「メルと出会ってからだ」
「あ、そうなりますね」
ヴォルに改めて告げられ、私は一年程前を振り返りました。
本当に不思議ですね。出会ったばかりの頃は何で誘拐されたのか分からず、ツンツンしてばかりいたような気がします。
「婚儀をその日にするか」
「えっと……その、本当にするのですか?」
記念日的な意味合いで言われ、私は少し動揺しました。
何だか、今まで特に支障がなかったように思います。サーファさんもあれから何も言って来なくなりましたし、方々から小さな嫌がらせはあっても案外平気な私です。雑草根性ですからね。
「嫌か?」
不満そうなヴォルの瞳が真っ直ぐ私を見つめます。嫌ではないという意味で首を横にゆっくりと振りました。
婚儀の必要性を見出だせない私ですが、元々その約束でセントラルに連れてこられたのですからね。
「いえ、嫌と言う訳ではないです。ただ、ヴォルはそれでも……私でも良いのかと思いまして」
小さく自嘲してしまいました。
婚儀を挙げたら、さすがに取り消しは出来ないのですよ。後からやっぱり私と夫婦なんて嫌かも──とか思ったりしませんか?
「……何度も言うが、俺はメルが良い。他の女はいらない。ましてや男色家でもない」
「あ……、いえ……。その……疑っている訳ではないです。ただ……本当に私で良いのですか?」
「初めからそう言っている。……だいたい、婚儀を挙げねば手が出せないではないか」
「はい?」
はっきりと告げるヴォルに、私はしどろもどろになってしまいます。言い訳をしているのでもなく、不安が消えないだけなのですから。
最後のヴォルの言葉は後半が聞こえなくて問い掛けてみましたが、真っ直ぐ視線を向けられるばかりで答えてはくれませんでした。
「では、それで良いか?」
「はい……」
不安には思っていても、ヴォルと一緒にいたいと思う気持ちは嘘ではありません。そうなのです。私は自覚しましたから──ヴォルの事を好きになってしまったのだと。
「ならば、ベンダーツに婚儀の準備を進めさせる」
「分かりました」
本格的に始動すると告げられ、私は頷くしかありません。
──あぁ、いよいよなのです。緊張します。食事会では特に失態がなかったようで、ベンダーツさんからは何も言われませんでした。けれども、婚儀となればまた違った話なのでしょうね。う~ん、怖いですね。
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