「結婚しよう」

まひる

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第四章

2.どうすれば良い【2】

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「あの方が?」

 少し離れてはいますが、陰で話す声が聞こえます。けれどもヴォルがサーファさんを怒った事を皆さんが知っているのでしょう。視線を感じるのでおそらく私の事を噂しているのでしょうけど、直接言われないので対処が出来ません。
 ここに来ている侍女の方々は、ほとんどが貴族のご令嬢だと伺っています。あのサーファさんですら、私に直接言ってくる事はなくなりましたし。多少の事は仕方ないですよね。

「そう、そう。昨日婚儀を終えてらっしゃるから、正式な奥様よ?信じられないけれど。あ~……、あの時のヴォルティ様はいつにも増して格好良かったわ~」

 ベンダーツさんの待つ礼儀作法の教室に向かう私は、廊下の端々から聞こえる声と視線に嫌でもさらされます。
 というか婚儀にはお偉い様方のみの出席だったので、ご令嬢方は御披露目会でヴォルを目にしたのでしょう。

「あの方なら、私が側室になっても安心だわね」

「えっ、側室でも良いの?」

「だってあれじゃ、すぐに飽きそうじゃない?」

 何ですかね。噂話って言うのは、本人の聞こえないところでするものではないのですか?
 私は溜め息が出そうなのを我慢しながら、ベンダーツさんの待つ教室の前に立ちました。──ここからは気持ちを切り替えないとならないですからね。
 小さく深呼吸をして、静かにノックをしました。

「はい、どうぞ」

「メルシャです。失礼します」

 扉を開け、ゆっくりとした動作を気に掛けながら中へ入ります。ですが中に入った途端、ベンダーツさんの鋭い視線に固まってしまいました。
 最近ではこのような攻撃的な視線をベンダーツさんから受ける事が減ったので、かなりの衝撃を受けました。

「あ、あの……?」

「貴女は……。聞こえているなら注意をなさい」

「へ……?」

「『へ』ではありません。最早貴女は、正式にヴォルティ様の奥方なのですよ?正妻の貴女が侍女等に注意する事は間違いではありません。むしろ注意しない事の方が問題です」

 ベンダーツさんは片眼鏡モノクルを指先で軽く持ち上げながら、器用に片方の眉を上げます。
 な、何故か怒られていました。でもこれって、実は私の事を心配してくれてるのですよね?

「あの……、ありがとうございます」

 私がお礼を口にすると、ベンダーツさんの眉根がわずかに寄りました。あ、怒りプラス?

「……全く貴女という人は……」

 溜め息と共に吐き出された言葉は、先程より優しく聞こえました。呆れられたのかもしれませんが、あの方々の言われる事は間違ってはいないのです。──私だって、いまだに不思議に思っているのですから。

「ベンダーツさんは、私を認めて下さるのですか?」

「ヴォルティ様がお認めになられたお方ですから」

「……そうですよね」

 当たり前のように答えられ、何故か俯いてしまいました。
 噂話を耳にし過ぎて凹んでいる気持ちが、更に沈んでしまいそうになります。

「貴女がご自分をお認めにならないのであれば、誰も貴女を認めては下さらないでしょうね」

 そのベンダーツさんの言葉に、ハッと顔を上げました。私が……私を?

「そうではありませんか?貴女はいつまでご自分を卑下していくおつもりですか。その様な事では、ヴォルティ様がおつらいでしょうね」

 ヴォルが──つらい、のですか?私の頭の中はグルグルと回ります。
 私が、ヴォルを傷付けているのですか?
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